東京五輪のは誰だ!

2020年東京オリンピック・パラリンピックがいよいよ来年に迫った。
大会をリードするのは、国ではなく、開催都市、つまり東京都だ。
ただ…大会の日程とほぼ重なるように予定されているもうひとつの“戦い”がある。
東京都知事選挙。全世界注目の舞台に立つ“五輪の顔”は、いったい誰になるのか。
(首都圏放送センター 都庁クラブ 成澤良、豊田将志)

複雑なカレンダー

東京オリンピック・パラリンピックと都知事選がどう絡むのか。
オリンピックの開会式は、2020年7月24日。
小池氏の都知事としての任期満了日は、7月30日。

都知事選は、任期満了の前の日から30日以内に実施することになっているので、選挙が通常日曜日に行われることを考慮すれば、オリンピック開幕から最も離れても7月5日投開票というスケジュールになる。

開会式が任期満了前ということは、「任期途中で辞職しなければ、都知事選の結果にかかわらず、小池氏が東京オリンピックの開会式を都知事として迎える」ことを意味する。

だが、新しい都知事が誕生すれば、オリンピック閉会式と、続くパラリンピック開会式と閉会式の“顔”は、小池氏ではなくなる。都知事選の結果によっては、“五輪の顔”が交代する可能性が出てくるのだ。

小池氏が“五輪の顔”を終始貫けるかどうかは、再選にかかっている。

一変した環境

かつては「身内」だった自民党東京都連との対立を強調し、都知事選に大勝してから2年半。小池都知事は、あまりに振れ幅の大きい時間を過ごした。

おととしの都議選では、地域政党「都民ファーストの会」を率いて第1党に躍進。

それから間もない衆院選で、「希望の党」を立ち上げ、国政への影響力拡大を図ったが、「完敗」。
フィーバーは逆風に変わった。

自民党への接近

「都政に専念する」そう繰り返し、国政に関わる言動を封印した小池氏。
足場の都政を固めるため、機会をうかがっていた。

去年11月上旬、ある情報が入った。
「小池氏が自民党東京都連の幹部とひそかに会う」

この日、都内のホテルに姿を見せたのは小池氏と、自民党の二階幹事長。

そして、自民党の都議会議員で東京都連幹事長の高島直樹氏だった。

自民党東京都連と激しく対立した都知事選以降、小池氏と高島氏の会談は初めてだった。

「高島さんと会わせて欲しい」
新進党、自由党、保守党、自民党を通じて旧知の間柄の二階氏に、小池氏はそう依頼していたという。

念願の対面が実現。ロンドン・パリ出張から前日帰国したばかりの小池氏だったが、局面打開のチャンスを前に、疲れたそぶりを見せるはずもなかった。

「選挙中、私の行き過ぎた言動があったことは、陳謝申し上げる」

小池氏は、こう切り出したという。

当時、小池氏は、国の税制改正で、都に集中する地方法人税の税収を数千億円規模で地方に再配分しようとする国政与党の動きに、激しく反対していた。小池氏には、国の税制改正で自民党東京都連と共闘することで、関係修復の足がかりにするという狙いもあった。高島氏との会談では、一緒に反対して欲しいと、協力を要請したのだ。
「東京の税収を減らされては困るという主張は同じ。この問題なら、自民党東京都連と足並みをそろえて戦える」

しかし、高島氏は、こう切り返した。
「都知事の思いは思いだが、私は、都議選で落選した37人の思いを背負っている」

地方法人税での協力要請も、「東京都連としては、これまでも地方法人税の問題に取り組んできており、それを継続してやっていくまでだ。あくまで『都民のため』にやるので、誤解しないで欲しい」と小池氏を突き放した。

小池氏の働きかけは、これだけで終わらなかった。
会談の3日後、小池氏は、自民党東京都連の鴨下会長と高島幹事長の両名に宛てて、文書を送った。

「選挙中に貴党を批判する発言を行ったことについては、改めて陳謝申し上げます」

小池氏の「お詫び」に、自民党東京都連は冷淡だった。
都議会自民党の山崎一輝政務調査会長は、都議会定例会の代表質問で、こう断じた。

「これ以上ないほど信頼関係が崩壊している間柄なのに、税制改正に向けた旗色が悪いと見るや、土壇場で突如変節し、呉越同舟とうたいながら、ついでの陳謝で連携を持ちかけるような人と同じ舟に乗ろうなどと、思いたくても思えない」

小池知事は、なぜ、自民党への接近を図ったのか。
小池氏がその「真相」を語ることはないが、都政や都議会の関係者は口をそろえて、「都知事選を見据えた動きだ」と解説する。

年明けは景気良く

自民党との「雪どけ」という課題を残したまま、2019年を迎えた。
1月5日早朝の豊洲市場。

記録の残る限り過去最高の3億3000万円余りでクロマグロが競り落とされた、平成最後の歴史的な「初競り」の場に、彼女の姿はあった。

「ご祝儀を超えて大変な勢いをつけていただき、ありがたいと思います」
記者の取材に対して、最近ではまれに見るほどの微笑がこぼれる。

その姿は、「ことしこそは、きっとよい年になるはず…」と、みずからを鼓舞しているように見えた。

足元の乱れ

だが、歴史的な「初競り」の2日後。小池氏を支持する都民ファーストの会に激震が走った。
所属する都議会議員3人が、「党の意思決定の過程が不明瞭だ」などとして離党を表明したからだ。

3人はいずれも、先の都議選で都民ファーストの会から立候補して初当選を果たした、いわば「小池チルドレン」だった。

支持率0%台?

都内の地方選挙でも、都民ファーストの会の苦戦が続いている。
ことし4月の統一地方選挙の前哨戦とも位置づけられる、去年12月の西東京市議会議員選挙では、定員28人に対し、33人が立候補したが、都民ファーストの会が唯一公認した現職の議員が落選。
また、去年4月に行われた、小池氏の地元、練馬区議会議員の補欠瀬挙でも、都民ファーストの会は、5人の枠に対して2人を擁立したが、議席を獲得できなかった。
ある新聞社が去年7月に実施した世論調査では、都民ファーストの会の支持率が1%に満たないという結果も出ている。

「都民ファーストの会の看板では、もはや選挙を戦えない」
「都議会議員の任期があと2年半もあるのに、小池氏が自民党に接近すればするほど、われわれの存在意義がなくなる」
都民ファーストの会の関係者からは、そんな嘆きも漏れ聞こえてくる。

都民ファーストの会は、今回、3人が離党しても、所属する都議は50人で、都議会の最大会派であることは変わらない。
23人の公明党と連携すれば、都議会の過半数を握ることができ、「小池氏の都政運営にただちに影響がでるとは考えにくい」というのが大方の見方だ。
ただ、ある都議は、3人に続く「離党予備軍」がいる可能性を指摘していて、今後は、小池氏が、党内をいかに掌握し、支持率の回復を図れるかが焦点になる。

「まったくの未定」

小池氏は、来年の都知事選に立候補するのだろうか。

去年末の小池氏へのインタビューで、素直に、その質問をぶつけてみた。
「まったくの未定。2020年東京大会の準備を本格的に進めていくことに集中するのが私の役目だ」
だが、額面通りに受け取る関係者はいない。オリンピック期間中に、不戦敗で退任する小池氏の姿は、なかなか想像するのが難しいからだ。

自民党の対応は

一方、小池氏への対立姿勢を崩さない自民党だが、都知事選に擁立できる有力な人物が見つかっているわけではない。

自民党東京都連の関係者と話していると、スポーツの祭典のイメージに合うような元スポーツマンの名前が「願望」として挙がることが多い。その実現可能性は、現時点ではまったくわからないが、「オリンピック期間中に都知事を交代させる」というシナリオが、候補者選定にも影響を与える展開を予感させる。

こうした事情は、「小池再選」には「追い風」になるのだろうか。

「2期目を目指す現職知事は、大きな失政がないかぎり、最も強い」
政治の世界で、よく聞かれるフレーズだ。
小池氏は、待機児童を減少させていることや、受動喫煙対策で、国よりも厳しい規制を盛り込んだ条例を成立させたことなど、これまでの実績を強調する。
小池氏の周辺は、「初めて経験する自治体の首長にもようやく慣れ、再選に向けた手応えを感じているはず」と代弁する。

ただ、ことしは4月に統一地方選、夏に参院選と、「選挙イヤー」の1年だ。
選挙の結果も踏まえながら、都知事選に向けた動きも活発化する見通しだ。

小池都知事が都庁に出勤する際に利用する2階のエントランスには、東京オリンピック開幕までのカウントダウンを示したボードがある。
複雑なカレンダーも絡んでの2020年都知事選。毎日ひとつずつ減っていく数字が、選挙へのカウントダウンを意味しているようにも見えてくるのだ。

首都圏放送センター記者
成澤 良
平成16年入局。神戸局、政治部を経て30年夏から都庁担当。趣味は大学までプレーしていた野球、スポーツ観戦、おいしい飲食店巡り。
首都圏放送センター記者
豊田 将志
新聞記者を経て平成27年入局。千葉局を経て29年から都庁で財政・豊洲市場・自民党を主に担当。水産業者への取材を通じ「焼肉派」から「刺身派」へ転向。