荒れる年 どうなる政局

亥年、それはある人々にとって忘れられぬ年。
「二の舞は避けたい」
「あの時の再来を」
12年に1度、統一地方選挙と参議院選挙が重なる政治決戦のその年。
前回、第1次安倍政権の時には、自民党は歴史的大敗。民主党が参議院で第一党に躍り出て、その後の政権交代につなげた。リベンジか、1強打破か。亥年は、選挙に向けて猪突猛進する年だ。
そしてダブル選挙はあるのか。ことしの政局を展望する。
(政治部 広内仁)

戦いは通常国会から

号砲が鳴るのは1月下旬。
通常国会の召集から与野党の戦いがスタートする。
安倍総理大臣の施政方針演説と、それに対する各党の代表質問に続き、主戦場となる予算委員会が始まるのだ。

安倍政権としては、まずは10月の消費税率引き上げに伴う景気対策を盛り込んだ新年度予算案などを早期に成立させ、景気の回復基調をより確かなものとしたい考えだ。

これに対し、野党側は、12月下旬の株価の急落などで、経済の先行きは不透明感を増しており、消費税率を引き上げる環境にはないなどとして、政府を追及する方針。

与野党の激しい論戦が繰り広げられる見通しだ。

前哨戦

4月には、全国各地で統一地方選挙が行われる。
同時に4月21日には、沖縄県の玉城知事が知事選挙に立候補し、失職したことに伴う衆議院沖縄3区の補欠選挙が。

そして、自民党の北川知克衆議院議員の死去に伴う大阪12区の補欠選挙が行われ、参議院選挙の前哨戦となる。

荒れる「亥年」

参議院選挙は、通常国会の会期の延長がなければ、公職選挙法の規定によって、7月21日に行われる見通しだ。

4年ごとの統一地方選挙と3年ごとの参議院選挙が重なる亥年は、これまでも波乱が起こり、政局を大きく動かしてきた。

24年前。平成で最初の亥年だった平成7年(1995年)。

参議院選挙では、投票率が初めて50%を下回り、過去最低に。

当時は「自社さ政権」で、与党だった社会党が改選41議席から16議席に減らして惨敗。

また、自民党も改選33議席から増やしたものの、46議席にとどまり、比例代表では、新進党が第1党に躍進した。

そして12年前の平成19年(2007年)、前回の亥年の参議院選挙。

第1次安倍政権で、自民党は改選64議席から37議席となる歴史的な大敗を喫した。

勝敗のカギを握ると言われた、定員が1人の29選挙区では、自民党が6議席だったのに対して、民主党は17議席を獲得し、民主党の大勝を象徴する結果となった。民主党が60議席を獲得し、参議院第1党となり、衆参両院で多数派が異なる、いわゆる「ねじれ」の状態となって、安倍総理大臣の退陣へとつながっていったのだ。

ある自民党の議員は、「亥年は鬼門だ。相当厳しい戦いになる」と話す。

というのも、統一地方選挙と重なる参議院選挙は、自民党が苦戦する傾向にあるとされるからだ。自民党を支える地方組織が「選挙疲れ」を起こすとされる、いわゆる「亥年現象」のためだ。

今回、改選を迎えるのは、「巳年」の6年前、自民党が大勝した選挙で当選した議員。政権を奪還した自民党に「風」が吹いたとされる。

別の自民党の議員は、「6年前のような追い風はない」「統一地方選挙で地元は力を使い果たし、参議院選挙の時には余力がない状態になっている」と強い危機感を示している。

与党側は

安倍総理大臣は、前回の敗北を踏まえ、万全の態勢を構築して臨む方針を示している。自民党は定員が3人以上の5つの選挙区で、公明党の候補者を推薦するなど、両党で互いに推薦を出し、選挙協力の強化を急ぐ。

安倍政権は、経済に加え、戦後日本外交の総決算の1つと位置づける北方領土問題を前進させ、ロシアとの平和条約の締結に道筋をつけるなど、実績を積み重ねることで勝利につなげ、政権基盤を安定させたい考えだ。

「イノシシのようなスピード感としなやかさを兼ね備えながら、政権運営にあたりたい。6年が経過したことで政権が硬直化してはならないと考えており、謙虚で寛容な姿勢で政権運営を行っていきたい」(1/4会見)
「参議院選挙は極めて重要な選挙で、自民党の候補者がすべて当選できるよう全力を尽くしていきたい」(1/6日曜討論)

公明党 山口代表
「公明党の持ち味は、地方議員と国会議員がネットワークを形成して、政策を実現できるということだ。参議院選挙では、連立政権を担う要として、候補者を立てる7つの選挙区での勝利と、比例代表で6議席以上の獲得を目指して全力を挙げたい」(1/6)

天王山は1人区

これに対し、野党側は、参議院選挙では、定員が1人の「1人区」での戦いが、与党の勝利を阻止するカギを握る「天王山」になるとみる。

安倍政権に対する批判票が分散し、与党を利することがないよう候補者の一本化を目指す方針だ。

ただ、これまでに、野党側で調整が進んでいる選挙区は一部にとどまっていて、今後の調整が焦点となる。(以下の発言はいずれも1/6)

立憲民主党 枝野代表
「参議院選挙の32の1人区については、自民党との一騎打ちの構造を作るため、野党第1党の我々が、一番汗をかかなければならない。それぞれの党の主張や立場をのみ込みながら、安倍政権の横暴を許さないという国民の声に応えられる状況は必ず作れると思っている」

国民民主党 玉木代表
「改選議席を死守し、1議席でも多く積み増したい。2人区も、与党を利することにならないよう、最低限の調整が必要だ。野党がバラバラだと50%の確率で衆参同日選挙だと思う。その意味でも、野党間の連携を早急に調整していかなければならない」

共産党 志位委員長
「参議院選挙は、野党が本気の共闘をやれば、大変動が作れるチャンスだ。これを逃せば、なにをやっているんだと言われる。安倍政権の打倒と1人区の一本化で合意し、協議を速やかに始めることを強く呼びかけたい」

日本維新の会代表 大阪府 松井知事
「我々は小さな政党で候補者も集まりにくいという面もあるが、志を持って、我々とともに戦ってくれる候補全員の当選を目指して、全力を尽くしたい」

自由党 小沢代表
「ことしは参議院選挙で、自民・公明両党を過半数割れに追い込んで、安倍内閣の退陣の実現が最大の目標だ。野党の結集が絶対に必要だ」

希望の党 松沢代表
「まずは、現有の3議席を増やしていく。その上で、第3極をしっかり作り上げて、日本の政治にもう1つの選択肢を作れるように頑張っていく」

社民党 又市党首
「最低限、与党側の3分の2の議席を割らせるように、野党が協力して頑張りたい。わが党も3議席以上獲得できるよう全力を挙げる」

ダブルは「臆測」か

永田町では、いわゆる「ダブル選挙」論がくすぶる。
安倍総理大臣は年末年始、「頭の片隅にもない」と繰り返し否定した。

しかし、自民党内の一部には「北方領土交渉が前進すれば、安倍総理大臣が、衆議院を解散して『衆参同日選挙』に踏み切るのではないか」という見方もある。

自民党の甘利選挙対策委員長は「私のところに『ダブル選挙をやるべきだ』と言ってくる人もいる。安倍総理大臣と接している限りでは、現時点ではそういう雰囲気は伝わってこないが、いつ何時、何があってもいいように備えてもらいたい」と党内に呼びかけた。

一方、公明党の山口代表は「衆議院で議席が減るかもしれないリスクにさらされることになる。万が一のことが起きた場合には、政権が非常に不安定になり、場合によっては、ひっくり返ることも絶対にないとは言えない」と述べ、避けた方がいいとしている。

ただ、自民党内には、野党側の準備が整わない中、同日選挙に踏み切れば、有利になり、安倍総理大臣の求心力を維持できるという思惑も聞かれる。

これに対し、野党からは「同日選挙はそれなりの高い確率であるのではないか」といった警戒感が出ている。参議院選挙に加え、衆議院選挙もあれば、候補一本化の調整が整わないのではないかという懸念もあり、態勢構築を急ぐ構えだ。

ダブル選挙は、4月の統一地方選挙や衆議院の補欠選挙、それに北方領土問題の進展などを総合的に見極めて判断されるものとみられる。

勝負の分かれ目はココ

参議院選挙でポイントとなる数字が4つある。与党側にとっては目標、野党側にとっては阻止すべき数字だ。

焦点の1つは3分の2。衆参両院では、現在、いわゆる「改憲勢力」が、憲法改正の発議に必要な3分の2の議席を占めている。

夏の参議院選挙から定数が3増えるため、3分の2は164議席。野党側は、3分の2阻止を目標の1つに掲げる。

もう1つは、非改選の議席とあわせて過半数となる123だ。

自民党の非改選の議席は56のため、単独過半数を確保するには改選の67議席をそのまま維持する必要がある。党内では「ハードルは高い」という声も出ている。

さらに、改選議席124の過半数63も重要となる。

3年前の参議院選挙で、自民・公明両党は、改選議席の過半数を目標とした。今回、自民党の改選議席は67、公明党は11の合わせて78。これを大きく減らせば、安倍総理大臣の求心力に影響を与えることも予想される。

そして、最後が53という数字だ。

自民・公明両党で53議席を獲得すれば、非改選の70議席とあわせて、与党で過半数123を維持できる。
これを割り込めば、「ねじれ国会」の状態となる。野党側は勢いづき、安倍総理大臣は厳しい政権運営を強いられる。

最長か否か

安倍総理大臣が、このまま総理大臣を務めれば、8月には佐藤栄作を抜いて戦後最長の在任期間となる。

さらに、11月には戦前の桂太郎の2886日を抜いて、憲政史上最長となる。
ことしの参議院選挙の結果は、今後の国政の行方に大きな影響を与えるのだ。

一寸先は…

12年に1度の亥年決戦。政治の世界は常に一寸先は闇だ。
通常国会の論戦次第で一気に風向きが変わることもある。
皇位の継承も行われる。
経済は、ロシアは、野党の選挙協力は、果たしてどうなるのか。
参議院選挙の前、そして後に、永田町でどんな風景が広がっているのか。

また気の抜けない1年が始まる。

政治部記者
広内 仁
平成9年入局。横浜局から政治部。ワシントン支局を経て、現在、与党キャップ。