「ある日、アヒルバス」スペシャルトップへ→

〜何歳になっても、
自分の可能性を信じて〜

いよいよ最終話です。
これまで、いろいろなピンチや挫折を乗り切ってきた葉月ですが、
ここにきて最大の窮地に立たされています。


紀香: 出版社の時と同じように、アヒルバスもクビになろうとしている。でも、葉月の気持ちは、出版社をクビになったときとは明らかに違う。
自分がどうしたいのか?自分にとって何が大事なのかがハッキリ分かっている。
以前の葉月は、自分が価値のない人間に思えて、自信がない状況でしたから、浩介(山下健二郎)が自分と一緒にいても幸せになれないと思っていました。浩介と一緒にいると、自分が嫌な女になってしまいそうで怖かった。
でも、今の葉月は紆余曲折あって精神的に成長しました。だから、なぎさ(青山倫子)から赤ちゃんができたと言われて、もう浩介とは一生会うことはないと決めていたのに、
アヒルバスを助けてもらうため彼に素直に会いに行くことができました。
それはもちろん、アヒルバスと大切な仲間を窮地から救いたいという強い覚悟があったからですが…。

助けを求める葉月に、浩介も精いっぱい応えてくれました。

紀香: 雑誌編集者である彼の本領を発揮して、素晴らしい記事を書いてくれました。それを読んだとき、アヒルバスのためにここまでやってくれたんだと葉月は感謝しました。しかもそのあとで、小田切さん(袴田吉彦)からなぎさの妊娠は嘘だと聞かされたので、
こんな非常事態に不謹慎かもしれませんが、ホントにうれしいですよね。

最後にはアヒルバスのお客さんだった人たちが大勢やって来て、
アヒルバスへの感謝の気持ちを叫びます。


紀香: とてもいいシーンでした。アヒルバスに乗って救われた人、元気をもらった人、幸せをつかんだ人・・・アヒルバスを愛する人たちが集まってくれました。

私はその光景を見ただけで涙がポロポロと出てきて、夏美さん(キムラ緑子)やほかのバスガイドたちもみんな現場で泣いていました。
このシーンが『ある日、アヒルバス』って本当にいい作品だ!って、全員が思った瞬間かもしれませんね。

原作者も、脚本家も、出演者も、スタッフも、すべての力が結集して最高のドラマになったと思っています。

最後の浩介とのシーンでは、ようやく葉月が浩介に抱きつきましたね。

紀香: この浩介とのシーンは、雨で撮影が何度も延期されて、たまたまこのシーンでクランクアップ(撮影終了)になったんです!
神さまが雨を降らして、この大切なシーンを最後にしてくれたと思っています(笑)。
いろんな騒動のシーンをすべて撮り終えた後だったので、浩介に対する感情をとても自然に出すことができました。
これからの2人は、以前付き合っているときには話さなかった結婚を含めた将来のこと、出産のこと、仕事のことなどを互いに向き合って話していくことでしょう。そして、2人ならではの幸せをつくっていくのだろうと想像しています。

最後に、ドラマを楽しんでくれた視聴者のみなさんに
メッセージをお願いします。


紀香: 浅倉葉月という40歳の新人バスガイドの物語を通して、人と向き合うことの大切さ、何歳になっても自分の可能性を信じることの大切さなど、いろいろな年代の人たちに共感してもらえるものがあったのではないでしょうか。
自分のやるべきことが見つけられないで迷っている人はたくさんいると思いますが、まずは目の前のことを一つ一つ懸命にやっていくことが大事だと思います。
もちろん、そこには苦労があったり、泣けてくることもあるけど、前へ1ミリでもいいから進むことによって得られることは必ずあると思います。それが、私が浅倉葉月を演じて学んだことだし、感じたこと。
この作品を見て、みなさんが少しでも前へ進む勇気を持っていただけたら、こんなにうれしいことはありません!

そして、最後まで見てくださって、ありがとうございました。8話じゃ少ない、まだ見たいというご感想をたくさんいただいています。『ある日、アヒルバス〜パート2〜』が実現して発車できるよう、たくさんのご感想、ご声援をお待ちしています!みなさんの要望で実現に近づけるかもです(^ v ^)!

おんなの体と心は
あまりにモロイ

なぎさ(青山倫子)の爆弾発言の続きから第7話ははじまりました。

紀香: なぎさが「私、妊娠したんです」と会社に言いに来た場面・・・演技してても、もう、その場にいるのが辛くて、なぎさに面と向かっては立っていられないほどでした。
彼女が“浩介(山下健二郎)の子どもを妊娠した”ことも衝撃だったけど、
「私なら浩介に家族を作ってあげられる」という言葉は、40歳を過ぎた葉月の心をえぐるようなものでした。
6歳も年下の女性に、“あなたには彼の子どもを産むことができないかも知れないけど、私にはできるの”と言われたのですから。正直、これを言われると葉月には返す言葉がない、ただただ、落ちて、なんだか悪い夢をみているような気分でした。
撮影が終わって家に帰ってからも、ずーんと引きずっていました。

「浩介ともう一度やり直せるかもしれない」と感じたすぐあとだから余計にショックですよね。

紀香: 本当にそうなんです。葉月は自分が出版社をクビになったことを、男性中心の世の中や会社のせいにしていた。でも、それは違うんだと気づいて、同時に今のバスガイドという仕事にも少しずつ自信が持てるようになってきた。
浩介と取材を通して向き合うことで、
やはり互いに必要なんだと確信し、もう一度、やり直せると思ったのですが・・・ダメでした。
子どもができたと言われたら、もう引くしかないですよ。

そのあと、第1話の冒頭に続き、またもや葉月は泥酔しましたね。

紀香:7話の道端での3人のシーン。
あれは、めちゃくちゃ酔っぱらいましたね(笑)。台本に書いているより10倍くらい泥酔した感じで演じました。
希子(トリンドル玲奈)には、ワカメ!と暴言は吐くわ、走り回るわ、暴れて、小田切さん(袴田吉彦)に羽交い締めにされて、まるで連れ去られる宇宙人みたく・・・実は、そのあと転んで血が出て足がずるむけになりました。
「想像以上に面白いシーンになりました。紀香さんって飲んだらああなるんですか?」なんてプロデューサーさんに言われました。お気に召していただき光栄です(笑)
でもね、
あのシーンは、無理してテンションを上げたのではなく自然にそうなりましたね。
それだけ、葉月の人生においては相当な事件だし、ヤケ酒も半端なかったのだと思います。そして、葉月は「男なんてもういらない・・・一生仕事に生きてやる」と決意します。

とは言え、水族館へのWデートのとき、小田切にまた本音を白状します。

紀香:妊娠したことをなぎさに聞いてから、葉月はずっと落ち込んでいたし、自暴自棄になっていました。そんな葉月を前に小田切さんはたくさん笑わせてくれた。
だから、小田切さんには
「まだ好きだったみたいです・・・彼のこと」と
自然に本心を言えたのでしょうね。

だけど、浩介への気持ちを断ち切って、仕事に生きるという決心は揺るぎません。プライベートはまたどん底で、仕事もまだまだ未熟だけど、「これからはバスガイドとして一歩ずつ成長していかないと」と前を見据えています。

それなのに、アヒルバスが存続の危機に・・・。

紀香:はい。もう次から次に苦難がやって来ますね。 しかも夏美さん(キムラ緑子)が会社を辞めることになった。40歳の彼女にバスガイドという仕事の楽しさを教えてくれた、女として潔くすべて受け入れて生きることの大切さも教えてくれた、葉月にとっては恩人の夏美さん。その人が、自分をかばい会社を去ろうとしている。これは、葉月には耐えられないことです。

そんな夏美さんが、「あなたはまだこれからよ。・・・あなたには、知ってほしいことがまだたくさんあるの」とエールを送ってくれた。
このシーンは、本番まで泣くのは我慢しようと思っていたけど、テストのときから涙があふれてしまって、何度も何度も泣きました。
緑子さんも私の顔をみるだけで泣いてしまう・・・と言って、2人で終始泣きながらの撮影でした。それだけ、緑子さんも私もこの役に入り込んでいたんだと思います。

第7話の最後は、タケさん(星由里子)の正体にびっくりでした。次週はついに最終話。どなたが見てもスカッとするような結末になっていると思うので、どうぞご期待ください。

とにかく女は生きづらい
でも、前に進まなきゃならない

第6話では、浩介(山下健二郎)がなぎさ(青山倫子)と
仲良さそうに歩いているのを目撃します。


紀香: 第5話最後の壁ドンを受けて、小田切さん(袴田吉彦)のことを意識しはじめた葉月ですが、偶然2人が歩いている姿を見てしまいました。
もちろんお芝居なのですが、ロケ中、二人の姿を見た時は正直、胸に突き刺さるものがあり・・・
ああ、もうすっかり葉月が私の中にいるんだなと確信しました。なぎさちゃんは、終始キャピキャピしていて、浩介といるのが嬉しくてたまらないという感じで、2人は完全に付き合っているように見えました。
そのときは小田切さんと一緒でしたが、頭の中は目撃した二人のことでいっぱい。帰ろうとする葉月に「俺は何があっても逃げないから」と男らしい言葉をかけてくれた小田切さん。弱っている時のこの一言は心にしみますよね。でも今は、帰らせて、そして思いっきり泣かせて、と葉月は思ったんです。

小田切って、最初はチャラチャラしているイメージがあったけど、
いい男ですよね。


紀香: そう、彼は人生経験も豊富だから、言葉の一つ一つに重みがある。離婚をして愛娘と別れなければいけないという辛さも味わっているし、人の痛みを知っている大人の男性。
小田切役が袴田さんで良かったです。
わりと軽い感じに受け取られるキャラクターですが、袴田さんのお芝居が誠実だから、その優しさが葉月の心にじわじわとリアルに沁みてくるんです。葉月に想いを寄せ、陰でサポートする同僚の小田切は、本当に袴田さんだからこそ!でした。

焼き鳥屋のシーンで小田切は葉月に
「ちゃんとふられてこいよ・・・俺は受け入れる覚悟があるからさ」と言う。
これ、なかなか言えない言葉ですよね。


紀香: もうずるい!小田切、ずるいぐらい素敵ですよね。このシーンの撮影をしていた時、女性スタッフたちから「きゃ~~言われたい~!」と黄色い声が出たくらいでした。
ストーカー事件のときも、危険を冒してまでバスガイドを守ろうとしてくれたり、口先だけじゃない男性です。

第6話を見ると、「浩介はまだ葉月のことが好きなのに・・・葉月~早くそれに気づいて~」と思う視聴者が多いかも。その一方で、こんなに葉月のことを大きな気持ちで包み込んでくれる小田切のことも「歯車が合わなくなったつらい恋より、近くでサポートしてくれる小田切さんがお似合いなのでは?」と感じる方もいるのではないでしょうか。
浩介、小田切、なぎさ、葉月、それぞれの想いが重なり合って、切ない四角関係ができあがっていますね。

浩介が仕事として、葉月への密着取材を始めて、
それが浩介にとっては葉月の本音を知るヒントになったような気がします。


紀香: そうなんですよ、葉月はこれまで付き合っていた浩介に、自分の仕事に対する気持ちをしっかり話したことはなかったと思うんです。このときはじめて、自分がどういう思いでこの仕事に出会い、選び、働いているか、バスガイドの仕事に対する信念を話しました。
そして、編集者の仕事をクビになったときの気持ちもはじめてさらけ出した。
葉月があの頃、そんなに苦しみ、もがいていたんだと知り、浩介は衝撃を受けたと思います。

それと同時に浩介は、いまバスガイドとして生き生きと働いている葉月の姿を目撃しました。

紀香: そう、「お客さまの笑顔は私の喜びなの」と充実した笑顔で話す葉月を見て、浩介は目から鱗だったのでは? 浩介は、いろいろなことを考えたと思う。
このころの葉月は、第1話で夏美さん(キムラ緑子)に言われた
「女として生きるしかないの・・・潔く受け入れなさい」という言葉の意味が少しだけど分かるようになっていたんですね。
人は、もがいて苦しんで、自分のことが嫌いになることもある。でも葉月は、嫌いな自分すべてを受け入れて、自分らしく生きていこうと思えるようになった。そんな成長した自分の姿を浩介に見せることができたのは、二人にとっても大きな転換点ですよね。

そんな葉月の本心に気づかされた浩介は、もう一度チャンスがほしいと言います。

紀香: この言葉を聞いて、
葉月も「もしかするともう一度、戻れるかもしれない」と思いました。
取材のあいだ浩介としばらく一緒にいて、自分の浩介に対する気持ちに改めて気づかされましたから。
しか~し!あのなぎさの衝撃発言!!!「私、妊娠したんです。」事件!
何もかもが、ガラガラと音をたてて壊れていく感じでした・・・

四十歳、縁はどこに
転がっているかわからない

第5話では、『熟年婚活ツアー』でいろいろなことが起こりました。

紀香: 熟年になっても「恋をしたい!」とか「結婚したい!」と思っている方は多いと思います。
恋愛というのは若い人たちだけのものではなくて、人が生きていく上で、切っても切れないものなんだなって。
だから『熟年婚活ツアー』も人気なのでしょうね^^。

ここでも葉月は、落語家の卯之輔(柳屋わさび)のことでおせっかいします。

紀香: やっちゃいますね、あいかわらず(笑)。
卯之輔さんと凛々子さん(渡辺舞)のために、わざわざ落語会まで開きました。でも、その甲斐あって2人に「本当にありがとうございます」と言われ、葉月はバスガイドという仕事にやりがいをまたひとつ見つけていきます。
お客様が幸せになる様子を見て、それを自分の喜びと感じられた葉月。気づけば、どんどんバスガイドという仕事が楽しくなっているんですよね。

その一方、小田切(袴田吉彦)から浩介(山下健二郎)とバーで会ったこと、彼がかわいい彼女を連れていたことを聞かされます。

紀香: もう~小田切さん、余計なお世話ですよね(笑)。
このタイミングで、聞かされちゃうとさすがに落ちこみます・・・。葉月は「そっか、やっぱり浩介はなぎさちゃん(青山倫子)と付き合いはじめたんだ」と確信しました。そして、自分と浩介はついに終わったんだと・・・。

でも、実際は浩介となぎさはまだ付き合っていなくて、
そのあと小田切となぎさがバーで会ってましたが・・・。


紀香: そのシーンの撮影にはもちろん私は立ち会っていなかったのですが、
台本を読んだ時「渚、ついにキターッ!」
って思いました。微妙に恐ろしい、女の攻防戦がはじまったみたいですごく楽しみ。今後に何か起きそうな予感ですよね。

そして、その後、小田切の「俺と付き合ってみないか」です。

紀香: 私、生まれてはじめて“壁ドン”されました(笑)。
“壁ドン”って言葉は聞いていたけど、どんな感じなんだろう?と思っていて、袴田さんに「“壁ドン”したことありますか?」って聞いたら「いや、俺もないんだよ」と笑っていて、そのシーンは2人ともドキドキしながら演じました。
あ、でも、撮影では“壁”じゃなくて“柱”だったので、「これじゃ“柱ドン”だね」って(笑)。
実際にやられた感想としては、かなり怖いものですね。
もっとロマンチックな感じかなと思っていたけど、いきなり顔の横にドーンと手をつかれると、「え!?」ってびっくりします (汗)。

そのときの葉月の心情はどうなのでしょう?

紀香: 小田切さんのことを意識してなかったと言えば嘘になります。でも、まだ自分の中で浩介のことが決着ついていないので、「俺と付き合ってみないか」と言われても茶化してごまかそうとしました。
そこに、“壁ドン”です。「マジで言ってんだけど。どうよ、俺」って言われ、葉月は「私、どうしよう・・・」と、かなりドキドキしたと思います。
葉月としては、「浩介との恋に終止符を打ち、小田切さんとのことは真剣に考えてみないといけないのかも・・・」という感じなのかな。
葉月はそのドキドキを持続して、第6話へ向かいます。

もっと若かったら
すんなり戻れたのかな

第4話は、親子の関係がテーマになっていました。

紀香: 今回も、いいお話です。脚本も面白いし、演じている自分が見てもほろりと感動しました。
言いたいことがお互い言えなくてギクシャクしている親子って、きっと多いと思います。
希子さん(トリンドル玲奈)とお父さん(田中隆三)のわだかまりも、離婚した小田切さん(袴田吉彦)と春香ちゃん(谷花音)の関係も、とてもリアルな話だから共感してもらえたのではないでしょうか。
親子なのに、愛しているのに、ほんのちょっとしたことで心が離れてしまうなんて悲しいですよね。

親子の中でも特に、父と娘の関係というのは、どういうものなんでしょうか?

紀香: 父と娘は、やはり異性なので、人生観も恋愛観も根本的なところが違うような気がします。
娘は父親の愛情を感じてはいるけど、それを素直に受け入れられなかったり、特に思春期のころは父親の愛情をプレッシャーに感じて反発したり・・・。
私も父親のことが嫌いだった時期があったけれど、今は大好きだから、年齢も関係すると思いますね。
希子さんの場合、そこに亡くなった彼氏のこともあってお父さんとこじれていたので、葉月たちが計画した『父と娘のTOKYOデート』がなければ、2人の関係は修復できなかったかもしれないですよね。
葉月はおせっかいで、トラブルメーカーでいつも怒られているけど、そのおかげでいろいろな人たちの家族関係までが動き出すというのは、このドラマの面白さですね。

物語の後半、屋上で小田切と話すシーンがありました。
そこで、葉月は本音をポロリともらしますね。


紀香: はい。長年付き合ってきた浩介(山下健二郎)と別れて、それでも前に進んでいるつもりなのに・・・なかなか踏み切れない。
「もっと若かったら、すんなり戻れたのかな・・・」
という葉月のセリフはリアル!アラフォー女性の、素直な嘆きだと思います。
二千年以上の昔から “四十にして惑わず”なんて言うけれど、昔の人は本当にみんな不惑でいられたのかな。
40歳だから惑うこともあるし、
40歳だからこそもがくこともあると思うんです。


浩介との恋に決着を付けたつもりが、
まだ心の中では、浩介への思いがくすぶっているということですか?


紀香: そうですね。でも、それを認めたくないという気持ちもあって、心はグチャグチャになっている。
そんなときに、葉月の話を聞いて力になろうとしてくれる同世代の小田切さんがいた。何かと気にかけてくれる職場の同僚に「もっと若かったら、すんなり戻れたのかな」と、
ついつい本音を吐露してしまう、張り裂けそうな気持は本当によくわかります。
そして、このころから葉月にとって小田切さんは精神的にどんどん頼れる存在になっていきます。「あれ、この2人いい感じじゃない?」と思う方もいるのではないでしょうか。
これから2人の関係にもいろいろなことが起こるので、そこも注目してほしいです。

四十歳の新人

第3話ではいよいよ実車教習が始まります。
葉月は、ツアー客の石田(三倉茉奈)さんのことが気になってしかたがありません。希子(トリンドル玲奈)には、「お客さまのプライベートに立ち入るな」と言われているのに、我慢できないんですね。


紀香: 葉月は、情熱的でおせっかいな人。目の前で、人が悲しんでいたり悩んでいたりすると、声をかけずにはいられない性格なのだと思います。
そんな葉月の前に、明らかに悩んでいると分かる女性が現れ・・・先輩の希子にバスガイドは個々のお客さまの人生にまで関わらないよう注意されているけど、人としてほっとけないのでしょうね。

そこに、涼太(大貫勇輔)というストリップショーで踊っている男性が関わってきますが、ダンスシーンの撮影はどうでしたか?

紀香: 素晴らしかった!涼太役の大貫さんの踊りは、世界レベル!彼が踊るだけで、その場の空気が変わります。涼太をはじめ3人のダンサーがとにかくすばらしい!芸術ですね。ストリップダンスですが、いやらしさはまったくなくて美しいものでした。

でも、女性客たちはそんなダンサーのパンツにお札を挟んでいましたね。

紀香: すごいシーンでしたね(笑)。上からお札を挟むとパンツをずらしてしまうことになるから、「お札は下から挟んでください!」というセリフもあり、台本を読んだときから、なるほどねと面白かったです。楽しみながら演じましたよ。

そして第3話では、葉月はそれまで避けていた浩介(山下健二郎)と向き合ってきちんと話をします。

紀香: 「浩介のことは好きだけど、一緒にいると、どんどん自分が嫌いになっていってしまう」という葉月のセリフ。これは、浩介役の山下さんも「男としてそれを言われたら、さすがにへこみますね」と言っていました。2人の心が離れてしまうシーンですよね。もう葉月と浩介は、戻れないところにまでいってしまったような・・・
“このままだと自分のことが嫌いになってしまう、だからあなたと離れたい・・・”
これは女性だったら言ったことがある人、多いかも知れないですね。すごくリアルなセリフなのかなと思います。

自分がどんどん嫌いになるというのは、自分らしく生きることができなかったり、自分に嘘をつかなくてはいけなくなるということですか?

紀香: いろいろな状況があると思いますが、この人といると自分が甘えてしまったり、自分がうまくいっていないのを相手のせいにするような自分になったりとか、そんな自分が嫌いで、心のなかはグチャグチャになっていたんだと思います。
だから、最後に橋の上で浩介と会ったとき、「うまくいかないことを浩介のせいにしていた。ごめんね」と伝えました。
これは、浩介にとっては仲直りを予感させる言葉なので、浩介も一瞬、やり直せるのか?という気持ちになった・・・葉月がやっと自分の気持ちを分かってくれたんだって。でも、違った。葉月は別れを告げにきたんです。「私のことは忘れて・・・。もう終わりにしよう」と。
このシーンの最初のテストのとき、私のお芝居が少し湿っぽくなっていたんです。すると監督から「ここはもう少し明るく言い切る葉月のほうがいい」と言われました。

え?別れ話をするのだから、そんなに明るく言わなくてもいいと思いますけど・・・。

紀香: このシーンの前に、葉月は石田さんと涼太さんのカップルを幸せにすることができて、「ガイドさん、本当にありがとう」と、初めてバスガイドとして人に感謝され、自分の存在価値を少しですが感じられた・・・そのことが、この仕事を続けて、少しでも前に進まなきゃという決意を葉月にさせたんですね。
だから、浩介との待ち合わせ場所に行くときには、葉月はもう決めていた。それは、清々しいくらいの決意。そして、葉月の笑顔は、一歩前へ進むことを決めた笑顔。「これまでありがとう」という浩介への感謝の笑顔ですね。監督が私に要求した「明るく言い切る」というのは、そのことだったんです。
男性は、そんな葉月を冷たいと思うかもしれないけれど、彼女としては少しでも生きていることを実感できる何かをつかんで、一歩前へ進んで行く必要があったんですよね。残念ながら、会社をクビになってボロボロになった自分をもう一度奮い立たせたのは、今は結婚ではなくて仕事だったということだと思います。

浩介とけじめをつけて、葉月はバスガイドという仕事に真剣に取り組む決意をしたということですね。

紀香: 第3話の最後では、寮で葉月が缶ビールを飲んでいるところに希子がやって来て、実車教習の合格を告げました。
そのシーンでは、人が苦しみながら何かを決めて選んで、前に歩き出そうとしたとき、その背中を押してくれるようなうれしいことが起きるんだって感じながら演じていました。
くすぶって後戻りするようでは何も始まらない。少しでも前に進もうとすることで人生は変わっていく。とりあえず、目の前にあるいろいろなことを整理しながら、人は一歩でも半歩でもいいから前に進むことが生きていくことなのではないかと。
同時に、バスガイドという仕事に、やりがいや誇りを少しづつですが感じられるようになった。ここで初めて、葉月は新人バスガイドになりました。40歳の新人バスガイドの誕生ですね。

こんな風に年を取るのも、
悪くないかもしれない

第1話の最後で、アヒルバスから採用通知が届きました。このときの葉月の心境は?

紀香: バス会社は受けてなかったので、もちろん、びっくりしました。でも、出版業界すべてに落ちた葉月にとっては、もうこのアヒルバスしかなかった。食べて生活していくのはここしかないと思ったはずです。

バスガイドになりたいと思ったのではなく、生活のため?

紀香: もちろん初めはそうでしたね。「寮もあるし、まずはよかった・・・」という感じ。渡りに船、的な(笑)。

それをトリンドル玲奈さん演じる希子には見抜かれていた?

紀香: 見抜かれていましたね、心の奥底まで(笑)。希子の過去はこの先の物語で明らかになりますが、彼女は彼女なりに苦労をしてきた人だから、冷静に人を見抜く力を持っています。

希子はバスガイドという仕事に誇りを持っているし、いい加減な気持ちでバスガイドになろうとしている葉月のことが許せないんですよね?

紀香: 希子は覚悟を持って仕事をしています。一流のバスガイドになるために勉強も人並み以上にやっている。彼女から見ると、チャラチャラした恰好をして、仕事に対する覚悟もない葉月はありえない・・・当然だと思います。
でも、今後の二人の関係はもっと面白くなりますよ。けんかするほど仲がイイ、って言葉もありますから・・・。

希子は、これまでのトリンドルさんのイメージとはまったく違う役柄だと思いますが、共演されていかがでしたか?

紀香: 台本を読んでいたときは、普段は天然で可愛らしいイメージのトリントリンが、希子として新人バスガイドを大声で怒鳴り、厳しくしごく姿を想像できませんでしたが、撮影が始まるとドン!と葉月の前に立つ、ビシッとした希子そのものでした。
彼女が希子で良かったと心から思います。みぞおちにもバーンとパンチ入りましたよ(笑)。
とにかく、普段の彼女とのギャップがあり過ぎて、トリントリンの希子は、最高におもしろいです!
※トリントリン=アヒルバスの撮影現場でのトリンドルさんの愛称。

この回はなぎさ(青山倫子)と会って、浩介(山下健二郎)に対する今の気持ちを話すシーンがありました。

紀香: なぎさは浩介のことがとても好きだし、早く葉月と別れてほしいと思っています。
一方このときの葉月は、アヒルバスにガイドとして勤めはじめたけれど、それは生活のためであって、バスガイドという職業に魅力も誇りもまだ感じていない。つまり今の自分にまったく自信がないから、「私といても、浩介が幸せになれるかどうか分からない」と、なぎさについ言ってしまいました。でも、その言葉を葉月が本当に実感しているかと言えばそうではなく、ただ何となくそう思っているくらいなんでしょうけど・・・。
自分といても、相手が幸せになれるかどうか分からないというのは、恋人同士の関係としては最悪な状況です。だからなぎさも、葉月のその言葉を聞いてスイッチが入ってしまった。「だったら私が、浩介を幸せにしてあげるわ」と。

自分への自信を失っている葉月ですが、バスガイドを辞めようとしているまどか(秋月成美)に向かって、やめないよう説得します。

紀香: まどかに言った、「夢をあきらめないで。いま辞めたら絶対に後悔する」という言葉は、葉月の経験からきたもので、心からの言葉だと思います。要領が悪く何もできなくて自信を失っているまどかに、「私だって自信がない。あなたの倍以上生きていてもビクビクしている」って、これ葉月の本音ですよね。だからこそ、自分にはない“若さというエネルギー”を持っているまどかに、今はとにかく夢に向かってチャレンジしてみなさいと、これまで社会で懸命に働いてきた葉月なりの精一杯のアドバイスをしたんだと思います。
葉月はまどかに向かって話していたけれど、半分は自分に言い聞かせるように語っていたのかもしれませんね。
このシーンは、葉月の人間的な熱い部分が出ていて、私はとても好きなシーンです。

自信を失っていた葉月が、まどかの件をきっかけに少し自信を取り戻したのでしょうか?

紀香: それもありますし、やはり夏美(キムラ緑子)さんの存在が大きいですね。
葉月が自信はないけどバスガイドをやってみよう、賭けてみようと思えたのは、夏美さんのおかげです。
第1話で女子高校生に言った「まだやり直せるわ」という言葉。そういうことが言える夏美さんを見て、葉月は「こんなふうに歳を取るのも、悪くないかもしれない」と思えるようになった。年齢を重ねることは同時に経験を積み重ねるということ。
自分の中の可能性を信じて、葉月はようやくバスガイドという仕事に、真摯に向かい始めたんです。

救われたんです・・・
仕事も恋人も失くして
ボロボロになったときに乗ったバスに

第1話で、「じゃあ、結婚でもしよう」と言った浩介(山下健二郎)に対して、葉月はやるせない気持ちに。それは、なぜですか?

紀香:仕事への情熱を持ち、懸命に働いてきた40歳女性の繊細な気持ちのすべてを、年下の若い浩介はなかなか理解できないのかもしれませんね。

それは、年齢差だけでなく、男と女の考え方の違いもありますか?

紀香:男女は、体だけでなく脳の構造も違いますし、きっと永遠に分かり合えない部分があると思います(笑)。
40歳という年齢もありますが、葉月は働くことに自分を見出してきた女性だということが大きいと思います。
働く女性ってやはり仕事でしか癒されない部分があるんです。もちろん恋人や仲間の愛だったり、親の愛だったり、いろんな愛に救われることもあるけれど、仕事の充実感でしか救えないところもあるから・・・
葉月の場合、それまで仕事に対して自信も誇りもあったと思いますが、それが突然の解雇とうまくいかない再就職でボロボロになってしまった。葉月のこのような精神状態は、1人の働く女性として理解できますね。そんなときに、「仕事がないなら、じゃあ俺と結婚しよう」と言われても「嬉しい!」とはなれないと思います。

「もう、頑張らなくてもいいよ」と言った浩介は、いいヤツだなと思った男性視聴者は多いと思います。

紀香:なるほど。男性はそう考えると思います(笑)。浩介としては、長年付き合ってきた葉月を気づかった心から言葉なのでしょうが、一生懸命頑張ってきた仕事を失ってしまった葉月は、今はその言葉に「うん」とは言えないと思う。15年間、葉月はすべてを犠牲にして、雑誌編集者として突っ走ってきた。その誇りや頑張りを浩介に分かってもらえなくて、まるで人生全てを否定されたように感じてやるせなくなったのだろうと・・・

葉月は、普通の結婚をすることに抵抗があるのでしょうか?

紀香:いいえ。第1話冒頭であったように葉月は普通の結婚を望んでいたし、その幸せはごく普通に手に入るものだと信じていたんですよ。愛する浩介と結婚したい、いつかは子どもも欲しいと思っている。だけど、ボロボロになった今の状態で結婚に逃げ込むというのが嫌だった。仕事がだめだから、じゃあ結婚・・・なんて、なんか納得できないんですよね。

もし葉月の仕事がうまくいっていたときに、浩介が「結婚」を持ち出したら違う反応だったかもしれない?

紀香:はい。違ったと思います。葉月は結婚しても仕事を続けたいから「じゃあ、家事の分担はどうする?」「子どもが生まれたらこうしないとね」など二人で考え、前向きな話になっていたはず。それが、「仕事をクビになったのだから、俺のところに来ればいい」「40歳を過ぎているから子どもも早くしないと」みたいなことを言われると素直にはうなずけないですよね。もちろん浩介の言っていることは正論で間違ってないんです。でも、こればっかりはタイミングだと思います。

女性はみんな葉月のような考え方をするものでしょうか?

紀香:どうでしょう。人それぞれだと思います。でも、働く女性の多くが分かち合える価値観のような気がします。そして40歳前後で結婚や出産で悩んでいる女性にも、共感してもらえるのではないかと思います。

これまで、葉月と浩介は結婚について話し合ったりしていなかったのでしょうか?

紀香:2人の将来についてそこまでちゃんと話し合ってはいなかったと思いますね。
年下の男性とおつきあいしている女性って、あまり将来のことを彼と話さないような気がします。だって、そこはデリケートな部分だし、将来話というのは重くなるから、ついつい先延ばしにしてしまうような・・・
しかも年上の女性としては「もうずっと付き合っているのだから、ちゃんと責任とってよ」なんてことは絶対に言いたくないですよね。この作品ではそういった男女の気持ちのズレが繊細に描かれているので、男は女の気持ちを、女は男の気持ちを、少しでも分かるきっかけになればと思います。(笑)

第1話の冒頭、葉月がボロボロになり酔っぱらっていたシーンで、夏美(キムラ緑子)に「女に生まれちゃったのだから、女として生きるしかないの・・・・潔く受け入れなさい」と言われますが、葉月はその言葉をどう受け取ったのでしょうか?

紀香:そのときは理解できなかったと思います。かなり酔っぱらっていたし、お巡りさんと間違えていたし(笑)。
でも、翌朝は二日酔いだったのですが、「女として生きるしかないの・・・・潔く受け入れなさい」という言葉は、意味が分からなくとも頭のどこかに残っていたんですね。だからアヒルバスと出会って、何かがふっ切れた。この先、ドラマが進展していくなかで、葉月はもがき苦しみながら、その言葉の意味をしだいに理解していくのだと思います。