取材ノート/大会メモ

見えていないものを見えるようにする、見えない努力「副音声実況・ユニバーサル放送勉強会」

2016リオパラリンピックから制作している「ユニバーサル放送」は、障害のある人もない人も、みんなで楽しめる放送を目指しています。
視覚に障害のある人にはアナウンサーが映像の解説を加える「音声解説」を。
聴覚に障害のある人には「手話」や「字幕放送」を。
障害のある人だけではなく、年をとって耳が遠くなったり、見えにくくなった人にも優しい放送です。

1月下旬、中継を担当するアナウンサーが集まり勉強会を行いました。
実は、前回放送の後、最も要望が多かったのが「オリンピックの感動を、生放送でみんなで味わいたい!」ということ。そこでピョンチャン大会では、オリンピックの注目競技で、副音声を使い、主に視覚障害者向けの実況中継を行います。

※ピョンチャンオリンピック・パラリンピック ユニバーサル放送「障害者向け副音声実況(含む担当アナウンサー)」「ハイライト」のスケジュールはこちらをクリック

001_DSCN0230.JPGこの勉強会では、全盲の落語家・桂福点(かつら・ふくてん)さんをお迎えし「目が見えない人はどのような情報が欲しいか」ということを考えました。


「補い」の工夫


福点さんは、視覚障害のある方の特徴をこのように話しました。
触覚・嗅覚・味覚・聴覚、4つの感覚では感じることができています。
説明するときにはそこで感じたものに置き換えてください」


置き換える練習として、まず色の表現を考えることになりました。

002_DSCN0036.JPG 勉強会に参加した5人のアナウンサー。時折みなさん、目をつぶって話をしました。


○お題:赤色
アナA「炎のもえるような赤い色」
福点「炎は熱いということを知っている、いいですね!」


○お題:ピンク色

アナB「やわらかなピンク色」
福点「それは色の説明になっていますね。例えば『綿のようにふわふわした』『あかちゃんのほっぺたのような』など、触った感覚などに結びつけてみてください」

なるほど、ピンクのイメージとぴったりですね!


○お題:黄色
アナC「うーん、ちょっと難しいです・・・」
福点「例えば、元気で笑顔の素敵な可愛い女の子が、黄色のTシャツを着ている状況とは?」
アナC「・・・・・大きな声を上げて、喉がかれたような、黄色」

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一同爆笑です

福点「新しい世界が開けましたね!
例えば『さわやかなレモンのような黄色です』や『太陽の光できらきらしたような』など、太陽は明るい、暖かいと知っているので、わかりやすいものと結びつけてみてください」


他にも、どのような動きかわからない場合は
「怪しい動きなんですが」と付け加えることも『補い』と教わりました。

…と、この文章を読んでいても感じるかたもいらっしゃるかもしれませんが、
『補い』が行われることで、頭の中の情景が豊かに彩られていく感じがしますね。


だれもが楽しめる表現への「挑戦」


続いて、実際のフィギュアスケートの試合の映像を見ながら実況しました。


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コーチとおでことおでこをあわせて、今、勢いよく滑っていきました。
コスチュームは、青が基調になっています。
海の深いところから浅いところに行くように、青のグラデーションが、濃い色から薄い色へと変わっています。


3回転・3回転。
おっと、トリプルサルコウ、トリプルループでしたが、バランスを崩して、回転が足りませんでした。しりもちまではついていません。
きれいなスパイラルです。左足を軸に、右足を上に高く上げてすべります。


演技も終盤です。
リンクの中央でスピンをしています。
レイバックスピン、後ろに背をのけぞるような形でのスピンです。
そこから左足のスケートシューズのかかとを持って、ぐっと足を伸ばしてのスピンです。
最後は両手を重ねて、それを上に掲げるように、演技を終えました

 

実況したアナウンサーは終わったとたん「んーーーーーーーーーだめだ!!!」と。

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アナD「今までテレビの放送では“どう見せるか/魅せるか”ということをやってきました。
フィギュアスケートのように、音楽もあって、みせることが大切だという中、ユニバーサル放送として視覚障害者の人たちに何を伝えたらよいのか…全部の動きを説明することは難しいです。
けれども、特徴を見極めてテレビよりも多くの情報をつけていくようにしないと、競技の楽しさ、動き、会場の雰囲気などもわからないまま、アナウンサーのしゃべりしか印象に残らないことになるので、アスリートの演技が目に浮かぶような実況、コメンタリーをつけていくように頑張りたいです」


福点さんからはこのようなアドバイスがありました。

「難しいアクションをすべて伝えるのは無理ですよね。

ひとつは、前もっての情報提供があったほうがいいと思います。
イナバウワー、トリプルトウループ。
全部ではなくても。その技はどんな形なのか、前もって『想像しておいてくださいね』と伝えておく。そうすると、言葉をたくさん使わずに単純化できる。
「コマのようにまわる」とか、「風を切るように走る」とか
「リンクはどれくらいの大きさだ」とか、「お客さんがどんな状況か」とか
臨場感も伝えられると思います。

わかりやすい動きを伝えておくと、ラジオ体操のように家族みんなでできるかもしれない、それも楽しそうですね。

もうひとつは、音楽はひとつの“風景”ということ。視覚障害者は、音、音楽に影響されます。
選手はどんなポーズをとっているか、盛り上がった時どんな感じがしているのか。
音と動作シンクロさせたほうがいいです。これはいままであったようでないかもしれません。
たとえば、音楽が盛り上がった時と同じように、手を振り上げました
というのは使えると思います」


氷をすべる音、氷に着地する音。
氷の上でのたくさんの動作から、たくさんの音が生まれています。
“音の素材”をいかした解説実況、それは世界でも珍しい放送になるかもしれません。


今までの技術から変える「覚悟」


一方、このような質問もありました。

「テレビの実況、地上波での実況をつけすぎると、
健常者の方からは『うるさい』というお叱りをいただくことがある。
見えるものをどうしゃべらないか、というやり方を取っていたのですが…」

どうやら、アナウンサーの方が磨き上げてきた実況の技術とは異なるものだったようです。

福点さんは、力強くこういいました。

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「今回行うのは、ユニバーサル放送の実況ですよね?
視覚障害者のために、ユニバーサルだから『与える情報に挑戦するんだ』ということを前に出すこと。
こわいけど、出すという覚悟がいると思う。

でも、やらなかったり、挑戦しないと変わらない。
みなさんには、そこの戦いをしてもらいたい」


言葉のプロフェッショナルが、生放送という舞台で、新たな戦いに挑みます。


最後に、今回ユニバーサル実況に携わるNHK放送研修センター 日本語センター 小原茂部長に、意気込みを伺いました。

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―勉強会を経て、障害者向け・副音声実況を行うにあたり、
今、どのような訓練を行っていますか?
基本的にはラジオで伝えるときの表現をすることになります。
テレビ画面の映像情報を、いかに言葉として表していくかを考えています。


―各競技、どのようなことを意識しますか?

○ジャンプ女子ノーマルヒル
競技施設の大きさ、選手の動き(滑走の様子、飛び出し、空中の状況、着地、選手の表情など)

○スピードスケート女子1000m
タイムレースであり、距離、差、動きなどを丁寧に描写すること

○フィギュアスケート男子シングルフリー
芸術性が高く音楽との調和も重要であり、過剰にコメントを重ねるのではなく、
丁寧な描写で選手の動きを伝えること。

○ノルディック複合 個人ラージヒル
競技会場の状況、選手の動きを一連のものとしてわかりやすく描写する。

○カーリング女子 日本VSスイス
競技場の様子、位置関係、選手の動き、ストーンの動き、を丁寧に描写する。


―ユニバーサル放送を見る・聞かれる方へのメッセージをお願いいたします。
日本のテレビ放送でも初めての取り組みで手探りの状態です。
さまざまなご意見をうかがいながら、よりわかりやすい放送となるよう努めたいと思います。

 

「技術(technology)の進化」は、時間を振り返ると実感があると思いますが、今回挑むのは「ユニバーサル技巧(techique)」ということかもしれません。

ピョンチャン、東京、さらにその先も「みんな」で楽しめる放送へ。
「技」はみなさまのご意見で磨かれます。
ぜひ放送をご覧頂き、感想をお寄せください。


※2/14追記
放送中、テロップで「視覚に障害のある方のために副音声の実況を行っています」と表示しているのは、全盲の方以外の「見えにくいけれども見ることのできる」方や、一緒に見ている家族の方へお知らせし、副音声実況のことを広くお伝えするためです。

ピョンチャン2018 ユニバーサル放送スケジュール

 

●パラリンピック

○「ピョンチャン2018 パラリンピック 障害者向け副音声実況」
※予定は変更になる可能性があります。また、担当の順番は当日決まります。

3/9(金)開会式 [総合][Eテレ]夜7:30-10:00
【担当】山下俊文、栗田晴行、齊藤寿朗

3/10(土)アルペンスキー 男子・女子滑降  [総合]午後1:05-4:00
【担当】齊藤寿朗、吉田一之、根岸昌史、小原茂

3/12(月)スノーボード 男子・女子スノーボードクロス [総合]午後12:20-3:30
【担当】小原茂、根岸昌史、吉田一之

3/14(水)アルペンスキー 男子大回転 [総合]午後1:05-4:00
【担当】栗田晴行、齊藤寿朗、吉田一之

3/16(金)スノーボード 男子バンクドスラローム  [総合]午後12:20-4:00
【担当】小原茂、根岸昌史、吉田一之

3/17(土)アルペンスキー 男子回転  [総合]午後12:15-3:40
【担当】齊藤寿朗、吉田一之


3/18(日)閉会式  [Eテレ]夜8:00-9:30
【担当】栗田晴行、吉田一之



○「みんなで応援! ピョンチャン2018 パラリンピック」

3月10日(土)~19日(月)[総合]前9:30~9:55 ※日曜日は前8:25~8:50
再放送[Eテレ]後8:00 (※土曜・日曜日は後7:00)

※18(日)午後3時半現在。
最終日の放送は、国会中継のため、3月19日(月)[Eテレ]夜8時の放送となります。
放送予定は変わる場合がございますので、最新の状況は、以下のNHKオンライン番組表でご確認ください。
NHKオンライン(こちらをクリック)

メインパーソナリティー、三宅健さんのコメントはこちらをクリック!


●ピョンチャン2018オリンピックサイトはこちら
●ピョンチャン2018パラリンピックサイトはこちら


●オリンピック
○「ピョンチャン2018 オリンピック 障害者向け副音声実況」
2月12日(月)[総合]後9:30 ジャンプ女子ノーマルヒル
2月14日(水)[Eテレ]後6:45 スピードスケート女子1000m
2月17日(土)[総合]前9:50 フィギュアスケート男子シングルフリー
2月20日(火)[Eテレ]後6:45 ノルディック複合 個人ラージヒル
2月21日(水)[総合]後7:55 カーリング女子 日本 vs.スイス

○「みんなで応援!ピョンチャン2018 オリンピック」(ハイライト)

2月18日(日) [総合] 後6:05~6:45
2月25日(日) [総合] 後4:00~5:00

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