【High8車いすバスケ】 ローポインターの熱き戦い~第17回High8選手権大会関東ブロック予選会より~

001_20170831_ando1.JPG「ローポインター」と呼ばれる障害の重い選手が中心に出場するHigh8車いすバスケットボールをご存知ですか?8月19日に横浜ラポールで第17回High8選手権大会関東ブロック予選会が開催されました。

ローポインターの育成を通じて日本代表チームを強化するためにはじまったこの大会は、障害の状態によらずプレーできるユニバーサルな車いすバスケとして発展しています。

 

体力の限界を超えて戦った最終クオーター。わずかな気力の差が、勝敗を決めた

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高橋俊一郎選手(群馬マジック)がボールをキープしながらパスラインを探す


予選1位突破をかけて対戦したのは群馬マジック(以下、マジック)とZEROYOKOHAMA(以下、YOKOHAMA)。後半から緊迫したゲーム展開となりました。
最終の第4クオーターは30-30の同点から開始。まずマジックが2ポイントシュート決めて2点リードするも、その30秒後にYOKOHAMAが追いつきます。ここまでリバウンドからの速攻を繰り返してきた両チームの選手たちは、体力の限界に近づいていました。それでも必ず勝ちたいと、必死の形相でボールを追いかけます。


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最終クオーターに横瀬正樹選手(ZEROYOKOHAMA)が逆転のショットを狙う


選手たちに動きが鈍ったその時、YOKOHAMAのコーチ兼選手である横瀬正樹が、「みんな疲れたのか!」と檄を飛ばします。そして自ら2ポイントシュートを決めて36-38と逆転。さらに、加瀬英樹もシュートを成功させて36-40と引き離しにかかります。

ここでたまらずマジックはタイムアウトをとって戦術を確認。2ポイントシュートで38-40と反撃しましたが、集中力を取り戻したYOKOHAMAのディフェンスに阻まれ、延長戦へと希望をつなぐことはできませんでした。

12月に開催される本大会に、関東ブロックからは予選1位突破のZEROYOKOHAMA、群馬マジックと、3位の女子チームWINFINが出場します。

 

 

障害の重い“ローポインター”の選手を強化する大会。高いシュート精度で世界強豪チームと戦うために

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ルールの工夫によって男女チームの混合選ができるようになった


このHigh8は通常の車いすバスケットボールと若干ルールが異なります。
車いすバスケットボールには「持ち点」制というルールがあります。選手には障害の重い方から順に1.0から4.5の持ち点が与えられています。そしてコートでプレーする選手の合計点が14.0を超えないようにメンバーを決めなければなりません。そのため、障害の軽い選手だけを集めたチーム編成はできず、チームごとで身体障害の程度を公平に揃えるルールになっています。

一方、High8ではチーム合計点が8.0以内に制限されています。そのため持ち点の小さいローポインターが中心のチーム編成をすることになります。また女子選手はマイナス0.5ポイントにすることで男女の運動能力差も補正しています。

High8大会を主催している一般社団法人関東車椅子バスケットボール連盟会長の高橋俊一郎さんにこの大会の意義について聞きました。

「日本代表チームにとって、ローポインターの強化が課題でした。そこで20年ほど前からローポインターの選手が活躍できるHigh8大会を続けてきました。ゴール下の競り合いでは障害が軽いセンタープレーヤーが得点します。けれども国際大会にいくとローポインターはノーマークになりやすいので、彼らが確実にシュートを決めることがオフェンスの基点となります」

ローポインターは腰部の筋肉が使えません。そのため体を安定させるために低い姿勢になりがちです。そうするとゴールリングは相対的に高くなってしまいますが、この大会でも選手たちは正確なゴールを次々決めていました。こうした実戦経験を積むことが、日本代表チームの強化にもつながるわけです。
そして、高橋さんはこのようにも語っていました。
「High8大会は日本で誕生しました。いつか世界大会を開催したいです」



High8の独自ルールで障害差、性差なく。フェアにチャンスのあるスポーツを実現

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パラリンピアン添田知恵選手(WINFIN)のクイックな車いす操作は男子の中でも目立っていた


予選1位突破したYOKOHAMAの横瀬さんは持ち点2.0のローポインターです。横瀬さんはこういいます。
「同じ持ち点の選手たちで試合ができるHigt8大会はローポインターのお祭りです」。

スポットライトのあたりにくいローポインターですが、この大会では主役になれます。また女子選手の活躍も目立ちます。今大会にもシドニー大会(銅メダル)から幾度もパラリンピックを経験してきたベテラン選手の添田智恵さんらが率いる女子チームWINFINが出場。男子チームと互角にプレーして、本戦出場権を獲得しました。

High8大会は障害の重い軽いだけではなく、年齢(シニア、ジュニア)や性別などのルールの工夫によって、身体障害の状態によらずスポーツできるようにしています。同じ車いすバスケットボールでも持ち点を制限することで、障害の重い選手が活躍しやすくなります。また女子選手もマイナス0.5点というルールがあるため、男子選手に混じって互角に戦えます。さらに健常者は車いすに乗れば一緒に車いすバスケットボールができます。

社会福祉では、障害者を“支援する”という考えが目立ちます。けれどもHigh8大会では障害の重い選手は配慮を受ける対象ではなく、誰もが公平にプレーできるのです。

これは一般社会が目指す小さな理想モデルです。パラスポーツのようにルールと環境を工夫することで誰もが暮らしやすい社会づくりにつながります。通常の車いすバスケットボールではスター選手になりにくいローポインター選手たちが活躍するHigh8大会を観戦しながら、それが2020年東京パラリンピックで期待されている大切なことだと気づきました。

 

High8大会を支える中学生ボランティア。初めての車いすバスケ体験に大興奮

 

006_20170831_ando_R.JPG007_20170831_ando_R.JPG バスケ部の中学生が車いすプレーを体験


このHigh8大会は、横浜市立みたけ台中学校のバスケットボール部選手によるボランティアで支えられていました。お昼休みにはこの中学生たちが車いすバスケットボールを体験。最初は慎重に車いすを動かしていましたが、すぐに車いす操作のコツをつかんだようで、選手たちを真似るように急ターンをさせては、コートサイドで様子を見ていた友だちに、「すごい面白いよ、体験しない?」と誘っていました。

バスケットボール部顧問の川添麻由子先生は「毎年12月に中学校で車いすバスケットボールの体験会をしています。そのお付き合いから今回、主催団体よりボランティアとしての参加を誘われました。今日来ている生徒たちは初めて車いすバスケを体験したのですが、みんな上手ですね」と話していました。

ちょっと縁遠かった車いすバスケも、参加した生徒たちにとっては身近な存在になったよう。同じバスケ選手として自分たちよりも軽快に車いすを操作する選手たちの優れた運動能力を体感することもできました。これは体験したからこそ分かること。
「子どもたちに参加してもらうことも大会の目的です」主催団体会長の高橋さんは、そのように考えているようです。“誰もが暮らしやすい社会づくり”を改めて実感した大会となりました。


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