競技かるたの歴史
「競技かるた」のルールを統一したのは明治のジャーナリスト黒岩涙香です。涙香は明治三十七年に自ら主宰する新聞「萬朝報」に、「かるた早取り法」の記事を掲載し、第一回の競技かるたの大会を日本橋の常盤木倶楽部で開催しました。この年が競技かるたの誕生の年であるとされています。大正から昭和初期にかけて、全国的に広まりましたが、初期の競技会は勝負が深夜早朝まで続くたいへん激しいもので、女性は出場できなかったと言われています。その後、戦争のために一旦中断しましたが、昭和二十三年に全国のかるた会の統一組織として全日本かるた協会が設立されました。実力日本一を決定する名人戦は昭和三〇年から、女性の日本一を決定するクイーン戦は昭和三十二年から現行の形式で行われています。全日本かるた協会は平成八年から社団法人として活動しています。
「かるた」はお正月だけのものではありません。「競技かるた」では年間四〇回ほどの全国大会が各地で開催され、小学生かちお年寄りまで大勢の人たちが競技に親しんでいます。地方の大会や初心者大会を含めると数多くの大会が開かれており、競技かるたに親しんだことのある人は全国で百万人を超えるといわれています。名人戦・クイーン戦の他に全日本選手権、全国選抜大会というタイトル戦や全国小中学生選手権大会やシニア選手権大会など世代ごとの大会も行われています。また、全国高等学校総合文化祭でも小倉百人一首かるた部門が設けられ、各都道府県代表の選手による団体戦が行われています。
競技かるたのルール
「競技かるた」は一種のスポーツです。競技は一人対一人で行い、札は百首の札のうち、五十枚を使います。取札をお互いに二十五枚ずつ上段、中段、下段の三段に並べます。このようにして並べた自分の札を自陣。相手側を相手陣または敵陣と言います。試合の流れを簡単に示すと次のようになります。
- 百枚の札のうち二十五枚ずつを持ち札としてそれぞれ自陣内に並べる。
- 並べ終わったら十五分の暗記時間をとる。
- 十五分経てば、相手と読手に礼をして試合を始める。読手は、まず序歌を詠みあげる。
- 読手の読まれる札をお互いに取り合って試合をすすめる。
- 相手陣の札を取ったとき、相手がお手つきをしたときに自陣の札を一枚送る。送られた札は陣地内の任意の場所に置いてよい。
- 試合途中で、自陣の札の配列は変えてもよいが、変える場合は相手に断る。相手はこれを拒否することはできない。
- 札を取っていって、先に自陣の札が0枚、つまりなくなった方が勝ちとなる。試合終了時にも相手と読手に礼をする。
これが簡単な試合の流れですが、「ちらし取り」と違うところは、五十枚しか取り札を使わないということです。読手は百首全部を読むので、半分の札は読まれても並んでいないことになります。このような札を「空札」と言います。
また、競技かるたでは、読手は前に読んだ歌の下の句から読み始め、次の歌の上の句を読みます。そのために最初に、百人一首の中に含まれていない「序歌」が詠まれます。序歌は全日本かるた協会の主催する協議会では「なにはづに咲くやこの花冬ごもり 今を春辺に咲くやこの花」を詠むことになっています。その下の句に引き続いて一首目の上の句が読まれます。
「きまり字」について
「競技かるた」の選手は、なぜ、あんなに早く札を払うことができるのでしょうか。それは「きまり字」を覚えているからなのです。
「むすめふさほせ」という言葉を聞かれたことがあるかも知れません。これは小倉百人一首の中の「一字きまり」の札を示しています。
「む」から始まる札は百首の中に「むらさめの露もまだ干ぬまきの葉にきりたちのぼる秋の夕ぐれ」の歌一首しかありません。ですから「む」の一音を聞いただけで「きりたちのぼる・・・」という下の句を書いた取札を取ることができるのです。この「きまり字」は「一字きまり」からいちばん長いもので「六字きまり」まで百首それぞれについて決まっています。「六字きまり」の札は「あさぼらけ」「わたのはら」「きみがため」の三組があり。きまり字が長いためにヤマをかけてどちらかの札を払ったりしたことから「大山札」とも呼ばれています。
▼百人一首の札を第一音目の音で整理すると次のようになります。
一見バラバラに見える百首の札もこのように音別に整理すると二十七に分けられます。
この「きまり字」は試合がすすむに従って変化していきます。競技かるたの試合では、一試合の中で、同じ歌を二度読むことはありません。ですから「きまり字」は試合がすすめばだんだん短くなっていきます。例えば「ひ」から始まる歌を例に考えてみましょう。
「ひ」から始まる歌は次の三首です(色文字までがきまり字を示す)。
ひさかたの光のどけき春の日に しづ心なく花の散るらむ
ひとはいさ心も知らずふるさとは はなぞ昔の香ににほひける
ひともをし人もうらめし味気なく よを思ふゆゑにもの思ふ身は
このうち「ひとは」の歌は最初は「三字きまり」ですが、先に「ひとも」の歌が詠まれれば「二字きまり」となります。さらに「ひさ」の歌も詠まれれば、もう「ひ」から始まる札は他にないので、「ひ」の一字を聞けば取ることができる「一字きまり」となります。
このように、「きまり字」は常に変化していきます。
構え方と取り方
競技かるたでルール上決められているのは以下の点になります。
- 手は上の句の第一音が読まれるまでは自陣の下段の下端よりも前に出てはいけない。
- 頭も上の句の第一音が読まれるまでは自陣の上段よりも前に出てはいけない。
- 両手を使ってはならない。
このルールさえ守れば、どんな構え方をしてもいいわけですが、競技かるたでは百分の一秒で勝負が決まるため、両方の陣地のどこに並んでいる札が読まれても、無理なく無駄なくすばやく払いにいける構え方をすることは重要になります。基本的な構え方は次のとおりです。
▼構え方
- 右利きの場合、正座をやや右側にくずして座る。
- 左手は自陣下段の左側、右手は自陣下段の中央に軽く置く。
- 下の句が読まれたら、体重をやや膝にのせる感じで腰を浮かせて前傾姿勢を取る。
- 目線は相手陣の中央かやや右寄りのところに置き、集中して音を聞く。
「競技かるた」で札を取る場合は、「払い手」が主流です。競技では「読まれた札に触る」かその札に直接触れなくても「読まれた札を並んでいる陣地から完全に外に出してしまう」ことが「その札を取った」ことになります。
後者の取り方を「札押し」といいます。また、「読まれた札と同じ陣地の札」には触っても「お手つき」にはなりません。このようなルールがあるために、選手は読まれた札を二〜三枚前から豪快に払って、陣地の外に出す「払い手」をすることが可能になります。他には次のような様々な取り方があります。
- ■ 押え手
- 読まれた札を上から押えて取る取り方。
- ■ 突き手
- 上段の中央や、中央近くに並べられた札を取る時に、構えたところからまっすぐ手を出して指先で突き上げるようにして取る取り方。
- ■ 囲い手
- きまり字の長い札を取るときによく使う取り方。相手が入れないように札を囲ってガードして、きまり字を聞いた瞬間にすばやく押えるか払う取り方。
- ■ 戻り手
- 相手陣と自陣に友札(途中まで音が同じ札)がある場合に、まず相手陣の札の上に手を伸ばし、違った場合にすばやく自陣に手を引き戻して取る取り方。
- ■ 渡り手
- 同一陣内に友札が揃っていて、左右(または上下)に分かれて置いているときに、一度に両方の札をすばやく払う取り方。