12月10日放送

大きな山に守られて ~滋賀・比叡山 ふもとの旅~

滋賀

古来、聖地として崇められてきた比叡山。その麓には様々な伝統が残る。最澄が唐より持ち帰ったという「坂本菊」を育てる菊農家が振る舞うご馳走。比叡山の寺の修復を代々手掛けてきた屋根葺きや瓦作り、琵琶湖伝統の和舟作りの職人技。古くから京都へ納めてきた絶品の吊るし柿は生産の真っ盛り。そこかしこに残る古い景色や仕事を通じて、比叡山に感謝し共に歩んできた人々の暮らしを巡る。

旅した人

京本政樹(俳優)
大阪府出身。1979年NHK土曜ドラマ・男たちの旅路シリーズ「車輪の一歩」でデビュー。その後、時代劇からバラエティ番組まで幅広いジャンルで活躍している。

増田恵子(アーティスト)
静岡県出身。1976年にピンク・レディーの“ケイ”としてデビュー。その後ソロ歌手として活動し。現在ではバラエティ番組など、多岐にわたり活躍している。

旅したところ滋賀・比叡山

  1. 浮御堂
    琵琶湖に突き出すように浮かぶ名所、浮御堂。平安期、天台宗の僧恵心僧都が比叡山から琵琶湖を見渡し湖上の平和を願い建てた堂。琵琶湖を一望する絶景を眺め、比叡山麓での様々な出会いにわくわくする2人でした。
  2. 栩屋根
    屋根の仕事を手がける職人の親子に出会いました。全国でも数少ない板の屋根を専門に扱う職人さん。驚異的なスピードで竹釘を打つ技にビックリ!板づくりから屋根の完成まですべてを手掛ける伝統の技は、比叡山の社寺からの注文に支えられてきました。己の腕を磨き続ける匠の姿に、山への愛を感じました。
  3. 鬼瓦
    比叡山が支えてきた伝統の技をもう一つ見つけました。「鬼瓦」、飛鳥時代に伝来した鬼瓦専門に手掛ける職人は、鬼師と呼ばれます。鬼師四代目の美濃邉さんが作る鬼瓦は、日本の名だたる国宝や文化財の屋根を飾ってきました。父と共にその腕をふるっていますが、「まだまだ父親には敵わない」と言います。ひたすら己の技を高めようとする姿に、伝統の技を受け継いでいく覚悟を見ました。
  4. 坂本菊
    延暦寺の門前町として栄えた坂本の町で育てられているのが、坂本菊。最澄が唐より持ち帰った食用の菊です。家庭料理にも使われる坂本菊を使った料理を、里坊でご馳走になることに。里坊とは、比叡山を降りた僧侶のための住居のこと。そこで出された色鮮やかな菊料理の数々に圧倒された2人。自分を忘れて他人に喜んでもらおうとするもてなしの心に、最澄の教えが息づいていました。
  5. えび豆
    漁業でも大いに賑わったという堅田の町で、えび豆という郷土料理に出会いました。これから旬を迎えるスジエビと大豆を醤油と砂糖で煮詰めたもの。昭和5年創業以来、作り方を変えることなく守り続ける夫婦が作るえび豆は、比叡山が生んだ優しい味。その美味に舌鼓を打ちました。
  6. 琵琶湖の和船
    琵琶湖の水運を支えた伝統の和船。現在はほとんど需要がなくなってしまった木造の和船を、50年作り続けてきた職人が堅田にいました。貴重な技を絶やしたくない一心で、今でも木造船の製造に力を注ぐ船大工の姿に、故郷を愛する気持ちがひしひしと伝わってきました。
  7. 吊るし柿
    比叡山の山腹にある仰木の里。冬の風物詩が、家々の軒先に柿を吊るして干す風景。寒暖差が激しい比叡山麓の風土が、この地では「あまぶし」と呼ばれる甘い干し柿を作ってきました。料理にも使われるあまぶし。大根、人参に干し柿を加えた柿なますをいただきました。酸味に干し柿の甘さが足されることで、より深い味わいになります。比叡山に守られてきた里の冬の名物は、滋味あふれる優しい味でした。
  8. 定心房
    代々、延暦寺に食材を納めるという役目を務めてきた家におじゃましました。様々な山の御用を担う世話役の家の台所には、今でも使用しているというかまどが。炊きたてのかまどごはんの友は、定心房と呼ばれる大根の漬物。伝統が生んだ最高に贅沢な味を堪能しながら、比叡山を支えてきた家の山への思いを伺いました。
  • 行き方
    ① 浮御堂:JR堅田駅からバス出町下車後 徒歩7分
    ⑤ えび豆(魚富商店):堅田町内循環バス乗車 出町下車 徒歩3分
    ⑧ 定心房(佐々木商店):江若交通バス 札場下車後徒歩2分

担当日記

凄さにゾクッとする。
比叡山の麓で、そんな瞬間を何度も経験しました。
それは例えば、口いっぱいに頬張った竹釘を、恐ろしいほどのスピードで打ちつける屋根葺き職人の技に出会ったとき。
どこにでもありそうな村のよろず屋の壁に、千日回峰行の行者のお札がずらっと並べられているのを発見したとき。
坂本の町の一軒の家の中に、鎌倉時代に作られたという見事な仏像があるのを見たとき。
比叡山が守り育んできたものは、その価値を声高に主張することなく実に淡々と、ただそこに在りました。

太古から神宿る山として、神仏と共に崇められ、人々の心の拠り所として大切にされてきた比叡山。
500ヘクタールの山内に約150の堂塔を持つ延暦寺を抱く、偉大な山です。
その麓で営まれている暮らしは、背後の山と同じように奥深く、偉大でした。
1200年の間、最澄の教えと共に守って来た食用菊。
先人の知恵と工夫を駆使しながら作り続ける、吊るし柿。
山と湖の幸に感謝しながら炊かれていた、こだわりのえび豆。
皆さんが当たり前のように作っている品々は、外から来た私たちの目から見れば他では出会えない珠玉の品です。
受け継いできた伝統を大切にして、作り出すものに精魂を込める。
比叡山の麓で出会った人から等しく感じた、その思いの源はやはり、比叡山。
「一隅を照らす」。
自らが置かれた立場で懸命に努力し輝くことこそ素晴らしいという、延暦寺の開祖、最澄の言葉です。
この教えそのままに、精一杯、毎日を後悔せずに過ごそうとする生きざまこそが、繰り出す技や作り出す品よりも貴重な、比叡山麓の宝物です。

延暦寺の世話役を代々務めてきた佐々木さんの家には、四人の娘さんがいらっしゃいます。
四人とも嫁がれるなどして故郷を出られているのですが、皆さん比叡山のことが大好き、頻繁に実家に戻り、帰るや否や山へ向かうのだそうです。
次に皆さんが顔を揃えるのは今度のお正月、今も現役のかまどで餅を搗き盛大に新年を迎えます。
比叡山の麓で変わらず営まれている暮らしは、変わらないからこそ代えがたい輝きを放っています。

担当D 吉村

わたしもひとこと!