2023年度 第44回
BKラジオドラマ脚本賞 審査結果

NHK大阪放送局(BK)主催の「2023年度第44回BKラジオドラマ脚本賞」は、年齢は22歳から96歳まで、194篇のご応募を頂きました。その中から、厳正な審査の結果、上記の作品を最優秀賞と佳作に選出しました。

審査員は、大森美香(脚本家)、オカモト國ヒコ(劇作家、演出家)、新井まさみ(脚本家)、菓子浩(NHK大阪放送局コンテンツセンター第3部 統括プロデューサー)、熊野律時(NHK大阪放送局コンテンツセンター第3部 チーフ・プロデューサー)小島史敬(NHK大阪放送局コンテンツセンター第3部 チーフ・ディレクター)の6名です。

この脚本賞は1980年から始まり、受賞者の中からは、BK制作の連続テレビ小説『ええにょぼ』の脚本を担当した東多江子さん、『芋たこなんきん』の長川千佳子さん、『ゲゲゲの女房』『八重の桜』の山本むつみさん、『舞いあがれ!』の桑原亮子さんなど、テレビやラジオで活躍する多くの作家が誕生しており、次代を担う新人作家の登竜門として高く評価されています。今回の審査員、新井まさみさんも入賞者のお一人です。

なお、最優秀賞の『あの子の風鈴』は、50分のラジオドラマ番組「FMシアター」として制作しNHK-FMで全国放送の予定です。

最優秀賞

『あの子の風鈴』

佐藤 あい子(さとう あいこ)

神奈川県出身、在住。
大学卒業後、新聞社に勤務。記者として取材を続けつつシナリオを執筆。
2014年 青年海外協力隊シナリオコンテストで大賞受賞し、映画「クロスロード」として上映される。

佐藤あい子

るい(14)の家はこども食堂を営んでおり、るいは毎日手伝わされ、水族館さえ連れて行ってもらえない。るいは毎日食堂に来る望(14)のことが嫌いだが、母・香苗(44)は望のことをいつも気にかけ、望の食べたいものを作っている。

ある日、望が子猫を抱えているのを見かけたるいは、食材を届けに来る田辺(47)に、子猫を動物病院へ連れて行くよう頼み、子猫は一命をとりとめた。だが、食堂で子猫をかわいがる望に、るいは「飼えないのに身勝手だ」と文句を言う。やがて、るいは子猫を追い出し、香苗には「望が猫を逃がした」とうそをつく。

その晩、るいは望が子猫とともに海で溺れる夢を見て心配になる。しかし、香苗に大事にされる望にいらだったるいは、香苗が大切にしている風鈴を望に握らせ、床に落とさせる。砕けた風鈴を見て愕然とする香苗。「望がやった」とるいは言い、望は食堂に来なくなる。ひどく悲しむ香苗に、るいは怒りをぶつけてしまう…。

登場人物たちにリアリティがあり、主人公の揺れ動く感情をひと夏の出来事としてすっきり描いている。人間の弱さに共感できる作品になっていると高評価が集まった。

佳作

『大和川——明日に向かう流れ——』

北川 由美子(きたがわ ゆみこ)

大阪府出身、在住。
2015年からシナリオ学校で脚本を学び、執筆活動を続けている。
2016年 長浜ものがたり大賞 原作・シナリオ部門入選。

北川由美子

江戸時代。大坂で、南から北に流れていた大和川を埋め立て、新たに東から西を掘削し、それを新しい大和川(新川)とする工事が行われた。

長右衛門(35)は庄屋である父親ともども、大和川の川筋を変えることを幕府に願い出、洪水に悩まされていた自分の村を救い、川床で綿の栽培を始めることで村人を豊かにしていた。

ある日、新川で入水した若い娘・お糸(20)を助けた長右衛門は、お糸を妻とし、幸せな日々を過ごしていた。だが、長右衛門の村に新川の南の村に住む男・文吉(22)が現れ、乱暴を働く。文吉の話によると、新川が通ったことで地獄のような苦しみを味わったという。このことにより、長右衛門は大和川の付け替えに伴い苦しむ村の存在を意識するようになり、洪水時の被害を最小限にとどめる方策を乞う文吉に応えようとする。そんな中、懐妊したお糸が再び、入水未遂を起こしてしまい…。

時代劇だが現代に通じるテーマ性が感じられ、関西ならではの魅力的な作品になっている。一方、耳で聞くには中身にやや入りづらく、先読みができてしまう。結末にもうひと工夫盛り込めたら良かったのでは。

佳作

『週刊 田中一郎』

山田 浩司(やまだ こうじ)

和歌山県出身 東京都在住。
会社勤務の傍ら脚本を学び、コンクールへの応募を続けている。
平成20年度橋田賞新人脚本賞佳作受賞。

山田浩司

大学生の蒼太(24)は京都府北部にある地方新聞社・丹後新報の入社試験を受けることに。試験は地元に関わりのある一般の人を取材し、新聞を作ること。蒼太の取材相手は田中一郎(50)で、田中の記事だけで週一回、合計三回の紙面「週刊 田中一郎」を作成し、その出来で試験の合否が決まるという。

だが、田中は自ら取材協力者として応募したにも関わらず、取材に非協力的で蒼太は困惑、第二週までの「週刊 田中一郎」はさんざんな出来に。同じ受験者の玲奈(24)からは「自分は相手に自身をさらけ出して話を引き出している」と告げられるが、自分をさらけ出すことが苦手な蒼太。

そんなある日、蒼太は田中ががんに侵されており、余命一年と宣告されていることを知る…。

タイトルにインパクトがあり、キャラクターや物語の導入から面白さは感じられるとの声は多かったが、全体的にはやや凡庸で、もう少し主人公のドラマとして心情の変化などを追い込めれば、と惜しまれた。

最終審査対象10作品(受け付け順)
『もう一度、母になる』 石井朋彦(東京都)
『コールバック』 杉原みき(東京都)
『この世の果て』 青山ユキ(東京都)
『海を滑る子』 海野さやか(東京都)
『芸術において不道徳は存在しない』 田中啓太(東京都)
『大和川——明日に向かう流れ——』 北川由美子(大阪府)
『あの子の風鈴』 佐藤あい子(神奈川県)
『週刊 田中一郎』 山田浩司(東京都)
『ジョフウ』 谷口えみ(大阪府)
『ひかりの続き』 てらさかゆう(大阪府)