2019年度 第40回
BKラジオドラマ脚本賞 審査結果

 NHK大阪拠点放送局(BK)主催の「2019年度第40回BKラジオドラマ脚本賞」は、年齢は19歳から85歳まで、前年を大幅に超える147篇のご応募を頂きました。その中から、厳正な審査の結果、上記の作品を最優秀賞と佳作に選出しました。
 審査員は、東多江子(脚本家・小説家)、山本雄史(脚本家)、森下直(脚本家)、城谷厚司(NHK大阪拠点放送局制作部 専任部長)、渡邊良雄(NHK大阪拠点放送局制作部 チーフ・プロデューサー)、出水有三(NHK大阪拠点放送局制作部 チーフ・プロデューサー)の6名です。

 この脚本賞は1980年から始まり、受賞者の中からは、BK制作の連続テレビ小説の脚本『ええにょぼ』を担当した東多江子さん、『芋たこなんきん』の長川千佳子さんをはじめ、『ゲゲゲの女房』『八重の桜』の山本むつみさんなど、テレビやラジオで活躍している多くの作家が誕生しており、次代を担う新人作家の登竜門として高く評価されています。今回の審査員、山本雄史さんも入賞者のお一人です。

 なお、最優秀賞の『家鳴り』は、50分のラジオドラマ番組「FMシアター」として制作しNHK-FMで全国放送の予定です。

最優秀賞

『家鳴り』

三谷 武史(みたに たけし)

滋賀県出身、兵庫県在住。大学卒業後、国家公務員として勤務。
仕事の傍ら、シナリオコンクールへの応募を続ける。現在、シナリオセンターに在学。
今年、橋田賞新人脚本賞佳作を受賞。

 間宮一茂(47)は、1人暮らしをさせていた母を亡くす。母のなきがらを実家に連れて帰り、姉の裕子(49)と寄り添っていたとき、ミシッと家鳴りがする。裕子は、家鳴りは、死んだ人の魂が家に入っていくときの音だという言い伝えを一茂に教える。
 7年後。日本列島を大型の台風が襲う。
 空き家のまま実家を維持してきた一茂(54)は、被害を受けた庭木を片づけるため、帰郷する。
 片づけをしている最中、隣家の池田が一茂に声を掛ける。池田は、お母さんには世話になったと感謝の言葉を口にした後、空き家をこの先どうするつもりなのかと問いただす。家の老朽化は進行しており、このままでは、台風や地震があれば、瓦が飛んだり、ブロック塀が倒壊したりして、近隣に被害を与える可能性があると池田は主張するのだった。
 「この家をつぶせというんですか!」と反発する一茂だったが、確認のため屋根に上がってみると、確かにかなり痛んでいることは否めない。同時に、一茂の胸には、父と母、そして姉と一緒に屋根に上がった少年の日の一コマが去来する。少年のころとは違い、周囲には新しい家屋が建ち並んでいるという現実に直面する一茂は、父の書斎で見つけた便せんを読み返す。それは、父が一茂の結婚式で行ったスピーチのボツ原稿だった。
 そこには『自分が友達に望んでいるとおりに、友達にはふるまわねばならぬ』ということを息子には教えてきた、と書かれていた。『友達』を『隣人』に世置き換えても成立することばだと考えた一茂は、実家の取り壊しを決意するのだった。

 現代的な問題を静ひつなタッチで描き、人物造形もしっかりしていると高評価が集まる。タイトルも、これから始まる物語を予感させセンスを感じる。

佳作

『いつもの待ち合わせの駅での奇跡』

菅 浩史(すが ひろし)

兵庫県出身、在住。
龍谷大学経営学部卒業。
シナリオセンター大阪校にて学ぶ。2017年度 MBSラジオドラマ脚本コンクール優秀賞受賞。

 大学生の岡本せんり(19)は、高校の卒業式に告白されて以来、能勢口園也(19)と交際しているが、現在、能勢口に二股を掛けられているとの疑念が悩みの種である。分かれるべきかやり直すべきか、しゅん巡しつつ、せんりは能勢口とのデートに向かう。
 神戸の大学に通う千里と大阪の大学に通う能勢口のいつもの待ち合わせ場所は、中間地点にある西宮の駅である。しかしせんりはその駅へ向かう途中、電車が集中豪雨のトラブルで遅れる。先に駅に到着していた能勢口は、浮気相手にせんりとは別れるつもりだと伝えている。しかし能勢口は中学生の相川みなせ(14)にスマホをとられて、せんりと連絡がつかなくなる。
 せんりは、駅でようやく、能勢口と会うことができたが、遅れたことをとがめられケンカになってしまう。せんりは、能勢口との別れを決意し帰ろうとするが、迷子の大宮ほたる(5)を見て、ほたるを駅長室へ連れて行く。その様子を見ていた能勢口はせんりへの気持ちがやわらぐ。しかし、再び現れたみなせが浮気相手のふりをすると、せんりは憤慨し、別れを告げる。
 スマホのない能勢口は駅の放送を利用して、せんりへの思いを伝える。発車を待つ電車の中で、せんりはこの騒動で知り合った今津宝一(80)と服部かつら(65)に励まされ、能勢口のもとにかけていく
 せんりはいつもの待ち合わせ場所に来る。せんりは能勢口に好きだという気持ちを伝え、ふたりはやり直すことを決意し抱き合う

 登場人物をうまく配し、舞台設定も秀逸な作品。しかし聞き手に、空間的な構造や、設定を面白がらせる工夫をもう少し盛り込めていたら更に完成度の高いものになったのでは。

佳作

『六甲おろしの子守唄』

八田 明子(はった あきこ)

東京都出身、横浜市在住。
フェリス女学院短期大学家政科卒。
平成26年度 橋田賞新人脚本賞佳作。平成29年度 第1回北杜市シナリオコンクール佳作。
令和元年 ラジオドラマ「広島もみじまんじゅう物語」最優秀賞。

 看護師で、過酷な日々を送る国枝美幸(34)。仕事はできるが、患者の気持ちにより添えず、恋人との結婚にも踏み切れないでいた。それは幼いころ両親が離婚し、温かい家庭の記憶がないせいだと、だらしない父・西村彰(67)を憎み、嫌っていた。
 ある日母・国枝千秋(65)からの突然の電話で、父が危ない状態で、自分に会いたがっていることを知る。すでに再婚し、別の家族がいる千秋のことばに冷たさを感じ、複雑な気持ちを抱く幸。幸は、なくなる前に、彰にどうしても会いたかった。
 病院に駆けつけた幸は、いつ命が消えてもおかしくない、老いて弱った彰と再会する。彰との記憶がない幸は、当たり障りのない会話をする彰にいらだち、爆発する。離婚後、一人親家庭に暮らし不安だった子供のころ、早く独り立ちしたくて悩んだこと、何もなかったように、勝手に天国に旅立とうとしている彰に、これまで心にしまってきた、怒りをはき出しぶつける。母から呪文のように聞かされてきた「だらしないお父さん」を自分で確かめ、「本当にお父さんはだらしなくて大嫌いだったと思いたい!」そう告げる幸に、彰は語り始める。
 幸の知らなかった母の恋。母に背を向けられるのを恐れ、卑屈になり逃げ出した父。待ち続けた母。すれ違ってしまった父と母の昔の話を聞き、「みんな、いろいろあったんだね」と幸が受け止めたとき、息を引き取る彰。「葬儀はしなくてもいい。火葬場まで、六甲おろしを流してくれ」トラキチだった父の望むように、一人で弔うことを決める幸。トラキチ仲間に頼まれ、途中父を乗せた寝台車は甲子園球場に立ち寄る。球場前で、はっぴをまとった初老のドラキチ仲間が、旗を振り、ジェット風船を飛ばしながら六甲おろしを歌う。目を閉じる幸のまぶたに、幼いころ父と過ごしたスタンドでの幸せな時間がよみがえる。父を送った幸は、そろそろ結婚してもいいかな、と前を向く。

 長い間生き別れになっていた娘と父。その縮まりそうで縮まらない微妙な関係を、絶妙なタッチで描いている。しかし後半の主人公の感情描写を、モノローグのみで表現したことに関してはマイナス意見が多かった。

最終審査対象11作品(受け付け順)
『ばんめし できたで』 おりべまこと(東京都杉並区)
『うぶごえ』
森田 志保子(神奈川県川崎市)
『いつもの待ち合わせの駅での奇跡』 菅 浩史(兵庫県尼崎市)
『父を棄てる』 北村 陽子(大阪府大阪市)
『六甲おろしの子守唄』 八田 明子(神奈川県横浜市)
『うぉんと』 森野 恵(東京都板橋区)
『僕はなんでやねんが言えない』 坂下 泰義(北海道石狩市)
『家鳴り』 三谷 武史(兵庫県神戸市)
『浪速のパンプキンヒーロー』 吉田 裕美(大阪府枚方市)
『信仰告白』 代打二階堂(神奈川県川崎市)
『FAM777』 五十嵐 瞳(東京都江戸川区)