やまとの季節

2019年10月16日 (水)

やまとの季節 七十二候「藤袴 薫る」

「ならナビ」10月16日放送 

映像作家・保山耕一さんが、NHK奈良放送局「ならナビ」に、「やまとの季節 七十二候」をテーマとした極上の映像詩を届けてくれています。音楽は、スペインで活躍するピアニスト・川上ミネさんが、奈良で100年近くの時を刻んできたピアノで、オリジナル楽曲を奏でています。 


やまと七十二候「藤袴 薫る」 寒露


保山耕一

TBS世界遺産などで活躍してきたフリーTVカメラマン。6年前、がん余命宣告を受け、治療中に「奈良には365の季節がある」をテーマに奈良県各地の撮影を始める。日々、奈良の空や光、花、月、寺、などを撮影し、SNS発表・上映会を続けている。

川上ミネ

スペインと京都を拠点に活動しているピアニスト・作曲家。「ラジオ深夜便・ピアノが奏でる七十二候」、Eテレ「やまと尼寺精進日記」などの音楽を手がけている。昨年、春日大社奉納演奏会を機に保山氏と出会い、「こころの時代」でコラボレーション。この秋、「やまとの季節 七十二候」の新たな作曲・演奏をスタート。

奈良ホテル・100年ピアノ

1922年、スタインウェイ社のハンブルグ工場(ドイツ)で製造。1926年、奈良ホテルの調度品として鉄道省によって購入された。 


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やまと七十二候

「曽爾村、藤袴」

保山耕一

 藤袴は「秋の七草」で、かつて奈良県内には、雑草のごとくあちこちに自生していたそうですが、昨今は風景から姿を消しつつある植物です。

 奈良県と三重県の県境に位置する曽爾村には「フジバカマ畑」があって、「曽爾街道風景つくり隊」の方たちが大切に育てています。撮影に行った時、藤袴の手入れをしている松井進さん(曽爾街道風景つくり隊)に「なんでこんなにたくさん植えてるんですか」と聞いてみた。松井さんは「子どもの頃、藤袴はどこにでもある秋の花だった。それがいつの頃からか見られなくなった。それはすごく寂しいことで、ふるさとの秋に藤袴が咲くのを見たい、風景を後の世に伝えたいと思ったから」。有志で、曽爾村伊賀見の県道沿いの休耕田に植え始めたのだと。

 松井さんは「咲いている時は気分いいねんけど、枯れた後のことを考えたら、気ぃ重いねん」て。花が終わったら全部掘り返して、植え替えてと、大変な作業らしい。それでも松井さんたちは、幼い頃見た秋の曽爾村、藤袴の風景を復活させて残したい。最初はちょっとずつ植え始めて、今やそこそこの規模のスペースに群生する光景が見られるようになり、見事、願いを叶えた。

 それで何が起こったかというと、フジバカマ畑にアサギマダラがやってくるようになった。アサギマダラは「旅する蝶」と言われ、春から夏に台湾、南西諸島、沖縄あたりから2千キロ離れた本州の高原めがけて群れで飛んで来て、秋になると新しい世代が南下して元居た南国に舞い戻ると言われている蝶です。藤袴はアサギマダラが好む花の一つで、藤袴の毒を含んだ蜜を吸うことで自らの毒とし、鳥などの天敵から身を守る術としているらしい。フジバカマ畑には多いと1日に2、3百頭も飛来するそうで、おかげで観光客が大勢来るようになった。車が100台停められる駐車場も整備して、最近は、渡り蝶の飛来を祝う「アサギマダラ歓迎会」という名のイベントも開催されるようになった。

 アサギマダラが経験する長い旅のほんの一瞬を撮らせてもらっているのですが、その中に様々なストーリーを見つけては、カメラを向けながら蝶の気分になったり、藤袴の気分にもなって、切り口からいろんなことを感じています。アサギマダラが2千キロ飛んで藤袴に舞い降りた瞬間の至福であるとか、花の陰に潜んでいたカマキリに頭から食べられてしまう絶望とか。藤袴も受粉される必要から、ひたすら良い香りを出してアサギマダラを待っているわけで、自分の香りに気づいて蝶がはるばる飛んで来てくれた、と喜んでいるに違いない。

 長い時間と大きなストーリーの一コマを切り取ることで、色々見えてくるということが、映像や写真のできることかな。高貴な甘い香りを放つ藤袴が咲き揃い、たくさんの蝶が舞う光景は、明らかな「幸せ」です。でも、こんなふうに幸せを映像にできることは、実はあまりない。基本、風景も人生も命も、被写体になれば切ない。でも、時折差し込む光を見たとき、卑屈にならず喜びとして、光を喜ぼうじゃないか、受け止めて素直になろうじゃないかと。これは映像にかかわっていく上ですごく大事なことだと思う。ほとんどは悲しい風景だったりするけど、光が差した時ぐらいは忘れよう。たとえ一瞬でも。

 今回放送した映像は昨年のフジバカマ畑の様子です。じつは今日、夜明け前のフジバカマ畑を撮りたいと思って、夜中から曽爾村へ入って朝日を待っていた。夜が明けてすぐ、日の出前の明けの空を背景に、森の高いところからアサギマダラが一頭ふわーっと、甘い香り立ちこめるフジバカマ畑に舞い降りて来た。アサギマダラは、優雅な様子で辺りを見回って、蜜は吸わず、再び森へと戻って行った。

(聞き書き 伊藤享子)


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■ コメント(14)
  • 武田和子

    2019年10月16日 17時21分

    アサギマダラとピンクの藤袴の美しい映像、ホントに美しくて感動です。
    川上ミネさんのピアノがとてもエレガントでなんとも優しい気分になれました。
    どんどんと退化していく日本の原風景。
    なんとしても守って未来に繋げたいという情熱を持った方々が奈良の美しい自然が守られていることも保山さんのコメントで知りました。

    以前、東京の高尾山に登山へ行った時、某大学の教授と研究生がアサギマダラの羽に印をつけて連絡を待つという調査作業をされていました。
    遠く台湾やフィリピンからも連絡が入るという。
    こんな小さな体の中のどこにそんな秘められたパワーと勇気を持っているのだろうか。
    いつまでも日本の自然の中に存在して欲しいと願います。

  • 安藤憲一郎

    2019年10月16日 17時27分

    アサギマダラ、藤袴、コスモス、、、曽爾村の自然はかけがえのないものですね、行ってみたくなります。また保山さんの映像は思わず息を止めて見入ってしまいました。

  • 堀尾岳行

    2019年10月16日 19時19分

    アサギマダラは山地や高原で夏によく見る蝶ですが秋になると暖地へ渡りをします。その渡りの途中で人の手で育てられた藤袴に吸蜜し栄養を貰って渡りを続けます。渡りをする蝶と人に育てられることで残った草花、自然の中であっても人との関りで命を繋いでゆく生き物たち、保山耕一さんの映像で残して頂けることに感謝です。今回も川上ミネさんのオリジナル曲が映像を鮮やかにしています。次回も期待しております、できれば関西全域でオンエアされますようご配慮下さい、宜しくお願い致します。

  • 野尻恭子

    2019年10月16日 22時57分

    奈良放送局のやまとの季節七十二候をぜひ関東圏でも見られるようにしてください。保山耕一さんが撮影する奈良の映像は、いまの季節でしか見られない美しいものを捉えて私達に届けてくださいます。
    しかも、それは見ようとしないと見ることが出来ない貴い景色なのです。
    今夜は、藤袴の群生にやってくるアサギマダラ。近年藤袴は年々減ってしまっているのを残念に思った地元の方々が大切に管理をして群生地に成長。そこへ遠い旅を経てアサギマダラがやってくる。
    この物語を保山さんは大切に思い、短く、美しい映像にして私達に教えてくださるのです。川上ミネさんのキラキラ輝くように歌うピアノも大好きです。
    今は関西ブログを開けないと見られないのが残念です。
    関東圏でも是非放送をお願いします。みんなが待っている番組だと思います。

  • 綾部収治

    2019年10月17日 00時43分

    藤袴とアサギアゲハ、それぞれ、生きる為の営みを見事に映した奈良の映像ですね。
    このシリーズ、東京在住としては、一日も早く全国ネットで放送をお願い致します!

  • 坂井 節子

    2019年10月17日 07時58分

    奈良放送ご覧の皆様に少し遅れて拝見しました。
    今回の『藤袴 香る』は何とも優しい映像ですね。フジバカマの群生地は地元のみなさまの再生なのですね。素晴らしいです。
    もうずっと以前の植物ガイドブックでフジバカマは絶え ヒヨドリバナに変わったと。
    保山さんの映像の中にいるアサギマダラはきっと我が家のヨツバヒヨドリにとまっていたアサギマダラに違いないと思いを馳せながら拝見しました。
    あっと言う間の短い時間。どうぞもう少しだけ長くして頂けたら嬉しいのですが。

  • 佐々木美保子

    2019年10月17日 15時04分

     美しい風景、澄んだメロディー、見終わってフーッと一息。いつも素晴らしい番組をありがとうございます。  
     可憐な花が咲く風景を守るために多くの人が動かれて、そこに自然界からのプレゼントととして可愛い蝶がたくさんやってくる。保山さんのブログを読ませていただき、より映像への理解が深まり、楽しませていただいてます。
     短いですが珠玉の作品で、毎回楽しみにネットで拝見しています。できましたら、全国ネットで取り上げていただきたい、時間も拡大して保山さんのブログも紹介していただけたら嬉しいです。よろしくお願いいたします。
     

  • 井元路子

    2019年10月17日 17時16分

    やまとの季節七十二候、今回も見させていただきました。川上ミネさんのピアノで弾むように飛び立つアサギマダラがとても印象的でした。夜明けと共に保山さんの映像を見て、岩合光昭さんの世界猫歩きを見て仕事に行けると最高です。どうかよろしくお願いいたします。

  • J hunter

    2019年10月17日 23時59分

    This video artist stands out compared to others because he pays attention to detail. A subtle story unfolds in his videos as nature comes alive for him and he captures that gift for all of us to see. One is left wanting to see more of his work.

  • 株本佳代子

    2019年10月18日 07時17分

    藤袴とアサギマダラの物語。リアルな事象も、保山さんの
    手とミネさんの息が感じられる音色で、短い時間でも 
    かくも美しい映像詩となります。
    視聴者のしばしの至福の時間です。
    ぜひ、奈良県以外の地域も TVで観れるようにお願いします。保山さんの作品で、癒される時間を〜。

  • 田中弘子

    2019年10月18日 12時11分

    奈良ブログで
    三重県から見せて頂いています
    アサギマダラの事を知ったのは
    NHKの自然百景だったと思います 渡り蝶に感動して
    我が家にもフジバカマを植えた翌年に 我が家にアサギマダラが来てくれました 側に近づいても平気でゆらゆら優雅に翔ぶ姿は夢の様でした
    保山さんの映像は 日々の生命の輝きや煌めきを感じる 素晴らしい映像です どうか 全国放送されます様に願っております

  • 宮原 麻美

    2019年10月23日 01時26分

    旅をするという蝶の、なんと可憐なことか。この小さな体の何処に、幾度かの風雨を乗り越えて翔ぶエネルギーがあるのでしょう。曽爾村の藤袴と出会えて、アサギマダラ蝶たちの優雅な羽根の動きは、幸せに満ち溢れています。煌めくピアノの音の粒が、透明な美しさで花と蝶を包んでいます。此処だけゆっくりと流れる時間のささやかな幸せ…見る者にもプレゼントしてくれているようです。今回も素晴らしい映像とピアノをありがとうございました!

  • 鎌倉ジェンヌ

    2019年10月23日 08時21分

    私はNHKのドキュメンタリーで保山さんを知りました。たった2分の映像の中に、とても懐かしく、心暖まる景色が広がりまるでその場にいるような幸せな気持ちなります。ピアノの音も本当に素晴らしく、その世界観に浸ってしまいます。
    残念ながら、他府県からジャストタイムで観ることが出来ず、関西ブログから拝見しています。
    この映像は、保山さんでないと撮れないものだと思います。何より愛に溢れる保山さんのコメントもキャプションで入れてほしい!
    遠方に暮らす方、パソコンの操作ができない方、同じ病気で苦しむ方々…保山さんの映像がNHKで観れますよう、どうぞお願いいたします。

  • 荒木礼子

    2019年10月26日 12時37分

    アサギマダラが何千キロも海を渡って行く蝶であることは四、五年前まで全く知りませんでしたが、写真の好きな仲間に伴われて近所の植物園で間近に見たときは、その美しさとたくましさにとても感動いたしました。
    今回の保山さんの映像、曽爾高原で撮られたものだということですが、いつもながら本当に花も蝶も輝いています。
    「命の輝きを映す」まさにこの言葉の通りです。初めて保山さんを知ったきっかけはNHK「こころの時代」でのこのタイトルのついた回を拝見したことでした。その時も川上ミネさんのピアノが流れていて、私にとってその時感じた魂を突き動かされるような感動はとても言葉では表すことができないくらい深いものでした。お二人が出会われたきっかけがその番組だったのかどうか、確かなことは存じませんが、お二人がお互いの芸術に対する深い畏敬の念を持ってこの「やまとの季節」に取り組まれていることだけは確信しています。今は奈良の方々だけを対象に二分間。その場所をよく知る方々なら説明は要らないということかもしれませんが、こんなに素晴らしい芸術作品は是非全国の方に見て頂きたく思います。前後に少しその場所の解説も加えて朝早くでも夜遅くでも放送して頂ければ、日本人のDNAの中にある季節を感じる繊細な感覚が呼び覚まされて、たとえ5分間でも日々の暮らしに欠かせない憩いとなるのではないでしょうか。もちろんお二人の創り出す世界に言葉は要らないので、きっと日本に住む多くの外国の方の心にも必ず届くことでしょう。何卒、御一考下さいますよう、お願い申し上げます。