小野塚アナの甲子園

2018年09月10日 (月)

これが高校野球だ!

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想像を越えるような注目を浴び関心を集めた大会となった。第100回全国高校野球選手権記念大会は史上最高の1015000人もの観衆を集め、テレビの試合中継は高視聴率を記録した。過去最多の56校が出場し、甲子園で春センバツから導入されたタイブレークが初めて実施され、その幕切れがサヨナラ満塁ホームランという“度派手な試合”もあった。毎日毎日前日の記憶を塗り替えていくような鮮烈なゲームを高校生たちが重ね、高校野球ファンのハートを鷲掴みにしたのだった。

熱に浮かされたような時が流れ、最終日、『史上初の2度目の春夏連覇』に挑んだ“大阪桐蔭”と、『東北に初の真紅の大優勝旗を』と県勢103年ぶりの決勝進出で意気込んだ秋田の“金足農業”がまみえると言う、この上ない満載の話題を詰め込んだフィナーレを迎えた。私の家は甲子園球場から徒歩圏内にあり、実況アナウンサーとしては最高に通勤環境に恵まれている「ドア・ツー・マイク5分」の好立地だ。自室からはスタジアムのレンガ色の外壁や照明塔を望むことが出来る。

この日、早朝からサイレンが鳴り響いた。いつもお馴染みの音色ではあるが時刻を確認すると午前6時半、試合開始は午後2時だ。「エーッ!」なんと7時間30分前に開門を告げたのだ。これは私の経験では高校野球では最速だ。(プロ野球の阪神戦では優勝を争っていた巨人戦が午後6時試合開始で10時に開門した例に遭遇したことはあるが・・・)最後の最後まで“今年は熱い”外野・内野・アルプス・バックネット裏と次々にゲートがオープンされ決勝開始数時間前からマンモス甲子園が埋まって行く。ざわざわと言う人々の声は期待に他ならない。興奮が充満して熱気としてムクムクと膨らんでいるのを感じる。場内に大会歌の「栄冠は君に輝く」や嵐の「夏疾風」が流れる中、歴史を重ねた夏の過去の名シーンがスコアボードのビジョンに映し出される。

両チームがグラウンドに現れればどっと沸き、スターティングオーダー発表に合わせて千切れんばかりの拍手が送られる。あっという間に試合開始時刻がやってくる。プレーボール前に毎日行われてきたレジェンド始球式の大取りは、私が小学校6年生だった昭和44年の第51回大会、史上初の決勝戦引き分け再試合の共にエース、松山商業(愛媛・優勝)の井上明さんと三沢(青森・準優勝)の太田幸司さんの“ダブル・ピッチ”だった。井上さんは永年にわたり朝日新聞の記者として活躍され、太田さんは野球評論家として今も野球界に提言されている。時々お会いしているお二方だったがマウンドに立たれると様々な思いが私の脳裏に去来する。

当時の熱戦や私が見てきた高校野球の歴史や、今大会・・・それから私自身の子供の頃や家族や街の風景や世界の国々や雨や雪やいい香りや嫌な臭いや熱さや冷たさや騒音や心地よい音楽やおいしいご飯や苦手な食べ物・・・何やかや猛烈なスピードで浮かんでは消えていった。なんだか分からないが、目頭も熱くなった。そして「全力をぶつけ合う決勝戦になってくれ!」と祈っていた。

“歴代史上最強の大阪桐蔭“か!“一人エースの吉田輝星・9人野球の金足農業”か!見る方も立ち上がりから力が入りまくりだったが、1回の裏に背筋が震えるほど両者は全てを見せてくれた。大阪桐蔭が3点を挙げたイニングだった。吉田投手の立ち上がり、いきなり先頭の左翼手・宮崎仁斗を四球で歩かせ、2番右翼手・青地斗舞に右前打を許し、無視1,2塁で3番三塁手・中川卓也(主将)4番中堅手・藤原恭大の共に左の強打者を迎えたところだ。ここで右の本格派の吉田はツーストライク目を打者が手の出ないアウトコースで取り、勝負球の膝もとのスライダーで三振に取った。

吉田サイドから見て凄いのは、無死1,2塁での最良のアウトのとり方をした事だ。最悪に近い走者の出し方をしたが進塁させずに2つアウトを重ねたことだ。(勿論内野ゴロ併殺でも良いが)どんな投手でも立ち上がりは不安定、精神的にも肉体的にも。決勝、甲子園超満員、しかも一人で投げている疲労、普通は切り替えられない。思い切って「エイヤー!」と気力だけで行く場面も多く見てきた。

ところが吉田は、アウトコース一杯のしかも強いストレートを投げ込む、ウイニングショットは左打者の膝元に視野から消えるスライダーでスイングアウトにし止めた。思わず、「ウーン」と唸って一人声を上げていた。このあと5番遊撃手・根尾昴が四球を選び、満塁から吉田の暴投、6番一塁手の石川瑞貴の2点右翼二塁打で合わせて3点取られたが、失点とは関係なく素晴らしすぎるほど絶品の投球を見せてもらったと心躍った。

しかし、逆に見ると、これがまた大阪桐蔭の中川、藤原は投手・吉田への対応が凄まじかったと感じた。“恐ろしい三振”だったと思う。2人とも2ストライク目のアウトコースは振らない。打てないボールだからと思う。三振に倒れたスライダーは、打者が打つかどうか判断する打席の前方ではストライクのゾーンに向かっていて、振ったホームベース付近ではスイングしても捉えられないボールゾーンに体に近づきながら切れ込んで斜めに落下しているのだ。

これはいい打者は打ちに行かなければならないボールなのだ。二人とも見事に三振している。タイミングは少し速く前に崩されている。そのまま真っ直ぐ来るか、甘く入れば全く違う結果がもたらされたであろう。吉田の巧みな間合いの変化やスピード溢れるストレートに合わせているという事なのだ。完璧に投げた2球に対して適切すぎる対応が出来ていた。このチームが打つわけが良く分かる「ゾッ」とするシーンの一つだった。とにかく私にとってはこの上なく素晴らしい対決を見せてもらった。いままでに見たことの無いような。この短い攻防だけで私の心は最高潮に浮き立った。大会で最も記憶に残る場面となった。

試合は13対3で大阪桐蔭が制したがこの試合の私の印象はスコアとは全く違うものだった。この時スーッと自分の中で謎が解けた部分があった。100回大会を迎えるに当たり、事前から高校野球がこれだけ関心を持たれ、愛されるのは一体何があるからだろうとずいぶん考えてきた。その答えのような気がした。奇跡と呼ばれる物語、名勝負、名選手、名場面・・・それは恐らく枚挙に暇はない。ベストセレクションを決めるのも難しい。多くの共感は得られても全員一致にはならない。それくらい見る人の捕らえ方や時代で違ってくるからだと思う。更にそれが、上記した今年の決勝の1シーンのように新たな信じられない名場面や好ゲームが次々に生まれてくるからなのだろうと思う。

「もうこんな試合を越えるようなものはしばらく出てこないだろうなぁ」これはよくある高校野球ファンの口にする言葉である。断じて違う。どんどん出てくる。なぜか!それは夏・選手権大会という恵まれた場で自分の最善を尽くそうとする高校生の若い力が生み出す活力によるものだと感じる。
夏の大会は100回を過ぎてもまだまだこれから何かが起こり続ける。
高校野球の魅力とは、
『あり得る最も可能性の小さいそんなシーンが現実でーす!』

私の野球コラムは5年前の夏から神戸放送局、大阪放送局のホームページで公開してきた。個人的な高校野球に対する価値観などを元に自由に書かせていただいて「なんだこりゃ」と言うものもあったかも知れないが、野球に対する熱だけで通してきたところもあり、なにとぞお許しを頂きたい。100回の夏を節目に筆をおく事にする。

ご愛読くださったかたがたにはお付き合い下さった事に感謝する。ごきげんよう!

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