歴史秘話ヒストリア

2018年10月10日 (水)

【井上あさひ】まぼろしのノーベル賞

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実績は“まぼろし”じゃない

 今夜のヒストリアは「まぼろしのノーベル賞」山極勝三郎(やまぎわ かつさぶろう)博士の秘話をお届けしました。

 およそ100年前、山極博士が成功した「人工的にがんを作る」実験は、現代の世界のがん医療の礎になったといわれています。

 このことで日本人初のノーベル賞受賞者となる可能性も高かった山極博士。実際受賞していたら今よりもっと、野口英世のように誰でも知ってる! というような存在になっていたかもしれません。

 けれども、日本でも「がん」への取り組みが官民を問わず、医療だけに限らず社会的に大きな注目を集めている今、受賞の有無にかかわらず博士の功績の輝きは、少しも失われることは無いと思います。

 

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後退せず“前へ”

 当時、誰もなしえなかった研究をなしとげた山極博士。長期間続き、途中の成果らしいものもほとんど無いことからモチベーションを保てず、投げ出す人の多かったこの実験を、博士は根気よく続け、無風の日々にもくじけませんでした。

 今回の番組で私は、山極勝三郎という人を「純粋な気持ちを持ち続けた人」と感じています。医学を志した学生の時すでに確固とした心を持っていた博士。その心は終生変わることなく「人の幸福の役に立つ」努力を少しも絶やしませんでした。博士の句『ゆきつけば またあたらしき さとのみえ』は、そのことの彼自身の証言にも見えます。引き下がらないこと、止まらず前へ進むことが人生の指針であるとともに、博士の偉大な業績の何よりの原動力だったと私は思います。

 

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“燃料”は初心にあり

 山極博士の研究とその成果が、現代のがん研究にどれほど大きな影響を与えているかということは、各国で使用されるがん医療の英字教科書、しかも冒頭に「カツサブロウ・ヤマギワ」の名が掲げられているという一事でよくわかります。医学的な業績が伝えられるだけでなく「志」も博士の後輩にあたる現在の東大医学部の学生さんたちに受け継がれていることにも、私は感動しました。山極博士がずっと持ち続けた「初心」を、学生たちが自分の「初心」としている。医学者であると同時に教育者でもあった博士の、人材育成の成果もここにあるような気がします。

 最後に、私自身 今の仕事につきたかったのはどうしてだったのか? と考えてみると、山極先生には畏れ多いことながら「人の幸福の役に立ちたい」ことにあったと思います。ですので、私も「初心」を忘れずに保ってゆくことが、良い仕事をするために必要な「燃料」になるのでは…そんなことも感じました。



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■ コメント(9)
  • 八束 磨里

    2018年10月11日 00時15分

    こんばんは。私はこの実験を日本人が成し遂げた……と、昔読んだものの、行ったのは別の人と、勘違いしておりました。人のやらないことをやり、地道な労苦を厭わない……。そんな不屈のいわば、学者魂が築き上げた金字塔ですね。ノーベル賞の候補から外れても、自分が行う研究のために、一歩一歩、前に進み続けた生きざまに、深い感銘を受けた次第です。
    大分前に、『視点・論点』で、亡き江藤 淳さんが、『賞が少々多すぎる』という題でお話されていたのを思い出します。文学賞がたくさんありすぎること、その頂点にある芥川賞に、作家も読者も目を奪われがちだけど、太宰 治は芥川賞を取っていないこと、を語られていて、強いシンパシィを感じたものでした。今回見たように、ノーベル賞でさえ選考を誤ることがある……、しかし本当に意義ある研究成果は、そんな賞や時を越えて、評価され続けるのですね。私も『Vorwärts』の言葉を胸に、歩き続けようと、思います。 Besonderer Dank!

  • 歴史の旅人

    2018年10月11日 18時10分

    千里の道も一歩から、ローマは一日してならず、研究も同じですね。。博士が言ってたように研究は、完遂などなく次その次と続くのか使命なんだなと思ったです。。。各分野の研究者の方々には、すぐに結果を成果を求めず博士のように、コツコツと頑張って頂きたいです。。。さて、あさひさん、着物姿に風格がでてきましたよ~。。

  • makowara2

    2018年10月12日 00時22分

    私は師事していた教授の関係で東大医学部の医師であり、研究者であった方々と少々関わりがありました。東大でもほんの9か月だけ研究したことがあります。本来ウサギの世話は研究者がすることではありません。でも実験動物の世話を今もしていました。煙突掃除夫が陰嚢ガンにかかりやすいことが知られていても、コールタール以外の影響を排除するために実験動物で再現したことはとても重要な意義があります。ノーベル賞以上の意味があると思います。恵まれたとは言えない環境下で、できなければ徒労にすぎない研究で闇夜の灯台ともいうべき業績を打ち立てた教授はまさに偉大です。優秀な人間はいろんなことができます。一意専心、素晴らしい。しかし禅は座っていなくても生活すべてが禅であるのが高僧の域とか。部下の健康に気を使えることも長く研究に携わっていくために必要なことなのでしょう。晩夏の銀河の煌めきに永遠を観るような気持ちを感じました。

  • 井上あさり

    2018年10月12日 16時00分

    あさひさん、こんにちは。

     幻のノーベル賞、興味深く観ました。ノーベル物理学賞や数学の“フィールズ賞”は20-30代初めの仕事が評価されます。でも、番組で放送された内容からするとガンの人工培養は山極博士の壮年期の仕事です。40代に突入し、“妥協”の意味が分かり始めた私にとっては希望の星です。ナポレオンも『大多数の人が失敗するのは、失敗に勝る新しい計画を立てるだけの粘り強さに欠けるからである』と言ってますが、まさにアイデアマンであり信念の学者ですね。
     ただ、最も評価されるべきことは、ご自身の栄誉ではなく人類を病気の苦しみから解放したいという初心を忘れずに研究生活を続けられた事でしょう。ノーベル賞受賞を逃しても、へこたれることなく予防医学の分野でも大きな功績を挙げられたのはまさに信念と初志貫徹の賜物です。理系を専攻した端くれとして、とかく目の前の成果&評価に注目してしまいます。研究の挫折はともかく、他人への嫉妬という嫌な一面も感じる事もしばしばですが、やはり最後は個人の心の持ちようですね。博士のような寛大な心を持たないとと・・・・
     来週の足利義満も興味深いテーマですね。15代続いた室町幕府で唯一安定政権を維持できた将軍です。“他の将軍との違いは何か?に違いに注目したいです。

  • ひろ

    2018年10月12日 20時33分

    あさひさん、こんばんは。
    今回の放送、とても面白かったです。
    毎日少しずつ努力することの大切さを日常生活でも説かれますが、
    山極先生の様な途方もない努力を続けることができる精神力に頭が下がります。
    それだけに、人工がん細胞を発見したときの喜びは如何ほどであったのでしょう。
    役者さんの演技も相まって感動しました。
    寒暖差が激しい季節です。
    あさひさん、お体ご自愛下さい。

  • 剣 鉄也

    2018年10月12日 23時13分

    本庶先生のノーベル医学賞受賞の直後にこの山極先生のエピソードが放送されたことに大きな意義を感じます。大変感動致しました。生き方の指針を与えらえた思いです。有名無名を問わず、先人たちから学ぶことは多いです。毎週番組を楽しみにしています。最近は特に優れたエピソードが多いと感じます。これからも良い番組を期待しています。

  • ピピ

    2018年10月13日 18時47分

     成果が出るか分からないことを長期間続けることは、よほどのモチベーションがないと難しいですよね。山極勝太郎にとって自分が医者でありながら子供を死なせてしまったことは大きかったでしょうし、尊敬するウィルヒョウ博士が唱えた、正常な細胞でも刺激を受け続ければ癌になるとゆう説を実証したかったのでしょう。ウィルヒョウ博士の、前に進むことが大事だとゆう言葉は、周りに惑わされず自分自身を信じて研究を続けなさいとゆう意味に私は聞こえました。山極にとっとはノーベル賞を獲るよりも人々を幸福にする事が大事だったのでしょう、日本人にこのような偉大な方がいるとは知りませんでしたし、大変に誇りに思います。

  • のり

    2018年10月17日 20時41分

    映画『うさぎ追いし』を劇場で観た時の感動が甦ってきました!!
    ヒストリアは、こういう陰に隠れてしまった人にちゃんとスポットを当ててくれるから好きなんです。
    いつもありがとうございます!!

  • ぶるちゃん

    2018年11月28日 23時36分

    今回も拝見しました。
    山極さんと市川さんの忍耐強さは凄いですね。山極さん、ノーベル賞を逃した時は悔しかったのかなと推測しました。それでも前に進む山極さんの姿はとても美しく感じましたし、人として尊敬すべき点だと思います。
    刺激説を信じて、信念を曲げなかった山極さん、それを信じた市川さん、まさに運命の出会いですね。
    ノーベル賞はご健在の方しか受賞できないんですかね?ごめんなさい無知な奴で。ただ、天国の山極さん喜ぶ気がするな。最初の人工発ガン、これがなければ癌研究は進まなかった?かもしれないですもんね。
    人工発ガン成功まで8年でしたっけ?専門家の人も忍耐と口にしていました。今でも癌は治りにくい病です。忍耐強く癌研究をしてくれている方々には本当に頭が下がりますね。

    さて、楽しみにしているブログが更新されていない( ; ; )忙しいとは思いますが、お手すきの際に更新してくれたら嬉しいです。よろしくお願いします。それでは。