歴史秘話ヒストリア

2018年08月29日 (水)

【井上あさひ】武田信玄と高坂弾正

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汚名を晴らした歴史書

 今夜は、武田信玄を知る手がかりとなる史料「甲陽軍鑑(こうようぐんかん)」の秘話をお伝えしました。偽書とみなされていたところから180度評価が変わり、むしろ新事実を伝える重要な書物であることがわかるという、とてもドラマチックな展開でした。甲陽軍鑑が信玄の言動を今に伝える書物だったとされることで、信玄という人物がいかに偉大であったかが改めて証明されることになりました。「甲陽軍鑑」を残そうとした高坂弾正の思いは、時を超えて遂げられたといえるかもしれません。

 

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心くばりの人・信玄

 ここで番組ではご紹介できなかった「甲陽軍鑑」にある信玄の逸話をひとつ。

 ある時、甲斐国の一蓮寺で信玄を囲む歌会が催されました。息子の武田勝頼や弟たち、連歌の師匠、侍医、ごく近しい家臣(信玄のお給仕役として「おのおの抜かりなく」真田昌幸も!)など気がおけない者だけの会だったようですが、ここに、たまたま甲斐に滞在していた京の貴族「きくてい殿」が来てしまいます。

 信玄はイヤな顔もせず、きくてい殿を喜んで迎え入れました。やがて食事の時刻になると、ふいに信玄は連歌の師・寺嶋甫庵に、遠光院という寺へ行って調べ物をしてきて欲しいと頼み、甫庵は退席します。やがて食事も終わって歌会はお開きとなりました。

 実は、ここまでの事にはウラがありました。「軍鑑」には終会後、信玄が高坂弾正へ次のように語ったとあります。

 

『一蓮寺での食事の膳の数は、出席の人数分しか用意されていなかった。きくてい殿が来られると、いざ膳に向かうという時に他の者が誰か一人 席を立たねばならぬ。それはこの信玄の恥なので、分からぬよう甫庵に席をはずしてもらった』

 

 自分は楽しめば良い場面でも細かな心くばりを忘れなかったのが信玄公のご立派なところである、と高坂は付け加えています。ただ番組でご覧いただいたように、のちに「かくの病(胃がん?)を受け給う」たのも、こうした気づかいをずっとされていたせいであろう、とも。「動かざること山の如」き武勇武略の人・信玄のイメージとは異なる一面をうかがうことができます。

 

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輝きを増す信玄の魅力

 このように、高坂は信玄のそばにいて、その場にいたからこそ知り得たであろうことや、側近だからこそ聞き得たであろうことを子細に「軍鑑」に残しています。農民出身で文字の読み書きができなかった高坂が、武田家が滅んでなお、なぜ数年に及ぶ口述筆記に挑んだのか。それは、武田信玄という戦国時代におけるカリスマ、その偉大さをどうしても後世に残さずにはおられなかったからではないでしょうか。では家臣にここまで思わせるほどの人物とは一体どんな主君だったのか。そう考えれば、高坂によって信玄の魅力が一層輝きを増すではありませんか。この2人の関係性に、私は胸が熱くなったのでした。


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■ コメント(12)
  • 中浴 佳男

    2018年08月29日 23時21分

    今日放送の「武田信玄と高坂弾正」の会で、「甲陽軍艦」に正史としての評価を与えたという酒井憲二先生が紹介されていましたが、私は1982年当時、図書館情報大学で酒井先生という国語学の先生に教わりました。同一の方なんでしょうか? 番組中のお写真をみてはっとしました。在学中はそんなすごい先生とは意識しておりませんでしたが。

  • 駿州のまぁ

    2018年08月29日 23時41分

    あさひさん、こんばんは。
    つい4日前に新田次郎氏の武田信玄を読み終わりました。
    その中でも執筆にあたってベースとした甲陽軍鑑の、内容の真偽について度々述べられていましたが、当時は偽書として扱われるのが一般的であったところ、どうしても偽書とは思われない部分が多々あるとし、作中では甲陽軍鑑の内容を信用して引用した、などと述べておられました。
    今回の放送内容は、そんな甲陽軍鑑を信じて書かれた小説の内容に真実味を与えてくれるものであり、終始感動しながら楽しませていただきました。
    信玄公の武将としての超人的な魅力、高坂弾正の忠誠心…。甲陽軍鑑が作成された経緯を慮ってそのまま写生した小幡官兵衛。
    これぞ歴史秘話と呼ぶに相応しい内容でした。
    こんな歴史秘話があったからこそ、新田次郎さんも甲陽軍鑑に当時は理由なく惹かれ、信用したのではないでしょうか。
    信長公記のような史書と呼ぶには至らないとしても、情熱と忠誠心で作成された甲陽軍鑑、素晴らしいです。

  • ぶるちゃん

    2018年08月29日 23時48分

    こんばんは!
    今回は武田信玄と甲陽軍鑑についてでした。とあるゲームが大好きだった私は、武田信玄が大好きでした。まぁ武田信玄でゲームを開始すると間違いなく天下統一できますね。戦国最強の騎馬軍団と言われています。縁組で家臣同士の絆を強くしていたんですか。それを束ねる信玄の側近女性の進言だったとは、これは驚きです。
    信玄だけでなく、家臣団も優秀で、高坂昌信もその一人です。長篠の戦いでは本国を守っていたんですね!恥ずかしながら、初めて知りました!
    甲陽軍鑑には色々なエピソードが書いてありそうで、もう一度大河ドラマにしてほしいぐらいです。以前、大河ドラマの武田信玄(中井貴一さんが演じていました。)を全て借りて見ました。まだビデオの時代で20歳前でしたかね(笑)変なガキんちょでした!(笑)そういえば井上靖?の風林火山も読みましたね。
    まっ話が違う方向に行きそうなので、この辺で。。。まだ暑い日が続きます。加えて台風も来ますねぇ。体調管理、身の安全にはくれぐれもお気をつけて下さい。
    ラーメンは薄味(あっさり)派です。それでは、また書きますね!!頑張りまっしょう!!!

  • 八束 磨里

    2018年08月30日 00時15分

    こんばんは。久しぶりの水曜日、楽しく拝見しつつも、う~ん、う~ん……と感心の頷きばかりしていたかも。この『戦記』については、ほとんど知らなかったので、大変お勉強になりました。しかも、著したのは高坂弾正、つまり春日虎綱だったとは……。彼だからこそ、口承であれだけの『戦記』を作り上げたのだと思います。家臣の氏素性に頓着しない信玄公と、そんな彼に忠節を尽くした武将たちの熱き心に、感銘を受けましたね。
    更に、ユニークな分析で偽書説を覆したのは、90年代の国語学者の方。歴史学者とは違う角度からの見方によって、新天地を切り開いた功績と、信玄公の遺した言葉、『庭に四種の樹を植えよ』が、クロスオーバーするように思えてなりません……。

  • ピピ

    2018年08月30日 09時44分

     以前読んだ歴史本に、甲陽軍艦は信憑性が低いと書かれていたので、実際の所どうなんだろうと思っていましたが、今回の放送で信玄公の側近が語ったことを基に、元々は書かれていたとゆうことが分かって、かなりこれまでの見方と変わりました。身分に関係なく才能があり、努力する者は取り立てるとゆう考えは流石だなって感じですね。
     それと少し前に、高校の歴史教科書の件で揉めていましたが、これを機会に研究が進み関心が集まればいいですね。

  • 歴史の旅人

    2018年08月30日 18時33分

    甲陽軍艦の信憑性を、確める為に記述の中に使われてる言語を、遡って調べて、いつの時代かを、特定するとは、国語学者ならではの観点ですね。。資料を、捜し歩いた先に江戸時代に甲陽軍艦を、書き起こした人物の記述が見つかり、甲陽軍艦は、口述筆記であるということだわかり、長い汚名を、返上できて、高坂弾正もホッとしてますでしょう。。。信玄も天下統一を、志してたんですね。。上杉謙信、北条氏康と、強い戦国武将に挟まれて、動き出すのに時間がかかったから、織田信長に、先を越されてしまったんだと思ったです。。。西上は、京の都が目的ではあらず、織田信長を倒す為の西上だと思ってますです。。。さて、甲陽軍艦で、日付け間違い、ドラマチックなのは、書き間違い、聞き間違い、言い間違い、脚色が、あるからとの結論ですが、口述してる高坂弾正が、高揚したからでしょうね。武田信玄、上杉謙信の一騎討ちなどは、その典型でしょうね~。。信玄の病は、結核ではなくて、胃ガンだったとはね。。。ひとつの発見、観点視点を、変えてみるだけで、歴史は、かわる、だから面白いですね~。。

  • 小熊

    2018年08月31日 12時50分

    歴史秘話ヒストリア「甲陽軍鑑」、感動しました。
    今まで何度も番組は見てきましたが、今回はコメントせずには
    いられないくらい心に響く内容で、まさに神回だと思います。
    高坂弾正たちの熱い想い、そして酒井さんの執念、
    それらが時を経て繋がっていったことで、
    信玄のメッセージが現代の私たちに伝わる…。
    歴史として残っているものには、人々の心がつまっているのだと
    考えさせられました。
    これからも、こんな良質な番組を届けていってください。
    楽しみにしています。

  • Ariko-Maru

    2018年09月01日 11時40分

    ごめんなさい、歴史秘話という番組はあまり見ていないことが多かったし、武田信玄にも興味がほとんど無かった人間です。しかし酒井先生という国語学者が、歴史とは異なる観点から甲陽軍鑑の謎を解いていったという切り口にいつの間にか引き込まれていきました。そして高坂弾正が読み書きできずに内心、悔しい気持ちでいたであろうところを、信玄が四つの木のたとえで人の話を一生懸命聞くこと、素直に学ぼうとする気持ちが本当の知恵者につながるんだと気付かせたという話に、気付いたらなぜか涙が止まらなくなっていました。武田信玄という人間にも興味が湧いてきて、今後この人の一生を調べてみたいなと思わせてくれました。今まで戦国武将は誰も自分の心を動かしてくれませんでしたが、高坂弾正が一生掛けて伝えたいと思った人、信玄は私に何か与えてくれるかも知れないです。この番組に感謝したいです。

  • 剣 鉄也

    2018年09月01日 13時35分

    あさひさん、こんにちは。

    「甲陽軍鑑」を巡る男たちの熱いドラマ、楽しく拝見させて頂きました。

    武田信玄、高坂弾正、春日惣次郎、酒井憲二さん… まさに歴史秘話。

    有名無名を問わず、情熱を持って日本の歴史を担ってきた人たちの真実の物語には、
    心揺さぶられます。

    これからも良い番組を期待しています。

  • makowara2

    2018年09月02日 00時10分

    虎は死して皮を残し、人は死んで名を遺す。では信玄は?三国志も演義やら様々な記述があって読み物として面白くとも記録としては?とありますが、結局、どういう視点でみるか、なのでしょうね。教訓を残すという意味では信用できる歴史的資料であったことが証明されたのは重畳だったと思います。リーダー論としては様々なタイプがいますが、信玄は根回しの人、気遣いの人だったのですね。現代の人とあってみて似たような方、あるいは影響を受けた方はいるのでしょうか?いつか自叙伝とは言わないまでも徒然に思ったことを書き残されてはどうでしょう?興味ありますね。

  • 井上あさり

    2018年09月03日 14時30分

    あさひさん、こんにちは。

     ニュース7のブログによると夏休みはハノイに行かれたとの事、楽しめましたか?
     社会人になって初めて赴任した場所が甲府でした。近所には武田神社や信玄堤をはじめとした武田家ゆかりの遺跡も多く、懐かしく拝見しました。やはり、今回の内容で驚いたことは甲陽軍鑑の信頼性の検証ですね。歴史の新発見を身近に感じさせるテーマでした。先入観なく、言語学の観点から歴史の真実を突き止めた酒井先生の成果には感服するばかりです。国語学者といえども、ポルトガル語調査からのアプローチ。人生、勉強の連続を思い知らされました。20代違い思考が固くなっているなぁと感じる昨今、見習うべき探求心です!
     高坂弾正は武田家を語る上では外せない人物ですね。大河ドラマ「風林火山」でもストーリー全般に大きく絡んでいたと記憶しています。ただ当時小学生だった私は、湖衣姫役の南野陽子さんのあまりの可愛さが勝っていたためか、弾正に関しては川中島の戦いで海津城に籠っていた以外思い出せない・・・スイマセン
     来週は一転して面白そうなテーマですね。食べ歩きロケでもするのでしょうか?クールビューティーのあさひさんがおいしそうにパクパク食べ歩きしているロケを期待したいのですが・・・では楽しみにしています。

  • 江崎 正和

    2018年09月14日 16時09分

    こんにちは。
    あさひさんは、和服がとても似合いますね!
    この番組見て、ファンになりました!
    毎週、この歴史秘話ヒストリアを見ます!
    この番組の内容も面白いし、音楽も良いですね。
    お仕事頑張ってください!
    応援してます!!