かんさい深掘り

2022年12月23日 (金)

新型コロナ 保健所 "紙の山"との闘い

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新型コロナウイルスとの闘いの舞台のひとつ、保健所
感染者の届け出の管理から健康観察、入院調整にいたるまで幅広い役割を担い、想定を上回る感染者の増加に業務が追いつかない事態がたびたび課題になりました。
改めて振り返ると、デジタル化を乗り越えることの大切さが見えてきました。

(奈良放送局 記者 及川佑子)

 

大量の紙、紙、紙・・・


奈良県大和郡山市にある郡山保健所は、県内第3の都市、生駒市をはじめ、天理市や大和郡山市など県北部の8つの自治体を管轄しています。

fukabori221223_2.jpg2021年8月
デルタ株が流行し、「第5波」と呼ばれる感染急拡大のさなか、私たちは初めて、この保健所を取材しました。

案内された部屋では、数十人の職員がひしめき合い、鳴り続ける電話に対応したり、パソコンへのデータ入力に格闘したりする姿が、あちこちで見られました。
そして、目についたのは、机などあちらこちらにあふれかえる書類の山。

fukabori221223_3.jpg医療機関から送られてきた「発生届」、感染者の体調や行動履歴の調査結果を書き込む「紙カルテ」と呼ばれる書類、宿泊療養施設への入所予定者に外出を控えるよう同意を取り付けるための書類・・・。

必要な書類ではあるものの、それらをさばくのに手いっぱい、そのような印象を受ける状況でした。

 

感染者にアクセスできない・・・


この保健所には、オミクロン株が流行したことしの春先にかけての「第6波」の際に、さらに厳しい局面が訪れました。

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保健所は「発生届」を受理したあと、その情報をもとに感染者に電話で連絡をとり、体調の確認などを行う役割を担っています。

しかし、入力が必要な「発生届」の書類があまりにも多かったうえ、1人あたりの電話も長い時間を要していたため、作業が追いつかず、「ファーストコンタクト」と呼ばれる感染者への対応が滞ってしまいました。

「発生届」を受理してから一度も連絡できないまま療養期間を終えた感染者は、およそ2000人にのぼったと言います。

同じ時期、私たちの取材でも「保健所に連絡を取ろうとしてもまったく電話がつながらない」とか「保健所から何も連絡が来ない」といった声を聞く頻度が増えました。

書類の入力事務の停滞をきっかけに、住民の不安に応える窓口の機能も低下していたのです。

 

アナログからデジタルに・・・


どうしたら業務を円滑に回し、本来の「命を守る」仕事に集中できるか。

郡山保健所は、感染の波が落ち着くたびに、事務作業の中で見直せる部分がないか、検討を重ねてきました。

そのなかで着目したのは、ほんのささいなことでした。
そのうちの1つが、医療機関から受け取る「発生届」の入力作業です。

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本来、「発生届」は医療機関が国の導入した集計システム「HER-SYS」に直接入力すれば、保健所の手間は発生しません。

しかし、奈良県内では、全体の半数以上が手書きのファックスで送られてきたと言います。

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ピーク時には職員10人がかりで対応していましたが、この業務の負担感を減らそうと、手書きの「発生届」の文字を自動で読み取ってシステムに反映させられる機械を、「第7波」に入る前に導入しました。

その結果、1日の感染者数が800人を超えたピーク時でも、入力作業はわずか2人で対応できるようになりました。

もう1つ注目したのは、「紙カルテ」と呼ばれる書類を印刷する業務です。

「発生届」を受け取った保健所が、次に行うのは、感染者への体調確認ですが、この時、職員は、患者情報が転記された「紙カルテ」と呼ばれるメモ用紙を手元に置きながら、電話で連絡をとっていました。

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ただ、この「紙カルテ」を刷り出すには、患者の通し番号を調べて、そのつど番号を入力し、1枚ずつ「印刷」ボタンを押さなければなりませんでした。

患者が10人いたら10回、100人いたら100回、地道な作業を繰り返さねばならず、結局、白紙のひな形に患者の情報を5分かけて手書きで書き写し使用するというアナログな手法に戻していました。

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この業務も、新たに採用されたデジタルに強い契約職員が専用のプログラムを作り、複数人の「紙カルテ」をワンクリックでまとめて印刷できるように改善しました。

 

小さなことでも積み重ねが重要


新型コロナとの闘いは、ウイルスの変異や重症化率の変化に伴って、当初行っていた業務自体を削減する見直しが、その後、国レベルで行われています。

ただ、私たちは1年以上、郡山保健所の現場を取材してきて、機械を導入したり新たなプログラムを導入したりしたあたりから、感染者数が増えても、職員たちが余裕を持って仕事に取り組めている様子がうかがえました。

保健所の担当者も同じような実感を持っていて、今後、次の感染拡大や新たな感染症に備えるためにも、デジタル化に強い人材を育て、改善をはかり続けることが重要になってくると考えているようです。

郡山保健所健康増進課
「業務の効率化にデジタルは欠かせない。どういうデジタル知識を使えば省力化できるのかを考えられるような、そういう人材教育をしていくことが、これからの保健所機能を最大限活用していくうえでは必要になってくる。住民の不安を聞き取ることや職員どうしのコミュニケーションといった、対人関係の部分は省力化できない。そうした業務を滞らせないために、省力化が可能な事務作業は省力化をしていかなければならない」

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保健所の紙の山との闘いは、多かれ少なかれ全国の保健所で抱えていた課題です。

未知の敵と闘い続けるためには、一つ一つはささいなことかもしれませんが、デジタル化に向けた業務の改善を進めてほしい、これまでの取材を振り返り、改めてそう思いました。

 

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