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2020年1月27日(月)

尿1滴でがんの有無がわかる

日本人の死亡原因で最も多いのが「がん」です。2人に1人ががんになるといわれていますが、がんの検診を受けている人がどのくらいいるのかというと…。



例えば、肺がんでは、国が年1回の受診を推奨している40歳以上の人のうち、過去1年で検診を受けた人は、男性で5割、女性で4割にとどまっています。検診を受けないおもな理由には、

▽時間がない
▽経済的に負担
▽検査に伴う苦痛がある

といったものがあげられています。
こうした中、15種類のがんの有無が簡単にわかる画期的な検査技術が開発され、今月(1月)から一部の医療機関で提供が始まりました。

新たな「がん検査」の実用化を発表したのは、東京のベンチャー企業です。

この検査に必要なのは、1滴の尿だけ。

重要な役割を果たすのが、「線虫」と呼ばれる生物です。体長は1ミリほどで、土の中や海の中などに生息しています。

線虫を使ってどのようにがんを見つけるのか。画面の左側、十字の部分にがん患者の尿を置くと、多くの線虫が集まっていきます。がん患者の尿に含まれる、がん細胞特有のにおいが、線虫のえさとなる細菌のにおいに似ていると見られるからです。

線虫が反応するのは、15種類のがんです。検査では、いずれかのがんが「ある」か「ない」かが高い確率で分かります。ステージ0から1までの早期のがんも、およそ85%の精度で見つけることができるといいます。費用はおよそ1万円です。現在、一定年齢以上の人には、がん検診を受けることが推奨されていますが、検診を受ける人の割合は伸び悩んでいます。

がん検診では、がんの種類ごとに検査を受けます。例えば、胃がんなら内視鏡検査、肺がんならX線検査などがありますが、体への負担や時間がかかるなどの理由から、検査に二の足を踏む人が少なくありません。

そこで、線虫を使った検査を開発した企業が提唱しているのが、「1次スクリーニング」という考え方です。がん検診の前に、「1次スクリーニング」として、がんが「ある」か「ない」かをふるいにかけることができれば、がん検診の受診を促すことにつながると考えています。

HIROTSUバイオサイエンス 広津崇亮代表取締役
「がん検診の受診率を上げるためには、がんが『ある』か『ない』かだけでも、まず安く簡便に受ける検査が最初にあることが大事です。線虫を使ったがん検査ができることで、みなさんが毎年がん検診を受けるようになると、がんを早期発見できるようになると思います。」

この検査の導入を検討する自治体も出てきています。がん検診の受診率が伸び悩む、福岡県久留米市と小郡市の職員、あわせて120人が運用試験に協力しました。

久留米市の職員
「検査にお金がかかったり痛みが生じたりする検査もあると思うので、尿検査だとすぐに簡単にできるし、金額も安いということで興味を持ちました。」

福岡 小郡市 加地良光市長
「各自治体でのがん検診の受診率が上がらない中で、これが大きな突破口になるのではないかと期待しています。」

さらに今、線虫を使った新たな技術の開発も進められています。現在は、この検査でがんがあるとわかっても、15種類のうち、どのがんに該当するかまではわかりません。そこで、がんの種類を特定できる技術の開発を急いでいます。

まず取り組んでいるのは、発見が難しいとされる「すい臓がん」をかぎ分けられる線虫の開発です。特殊な溶液を注入して遺伝子を組み換え、すい臓がんにだけ反応する線虫を作ろうという研究。2年後の実用化を目指しています。

現在、線虫を使ったがん検査は、東京都内の2か所の医療機関で受けられます。今後は大都市を中心に、全国の病院や企業の健康診断などで受けられるようにしたいということです。検査を受けられる施設は、随時ホームページで公開されます。

<線虫を使ったがん検査の取り扱い施設>
HIROTSUバイオサイエンス ※NHKサイトを離れます

たった1滴の尿で、がんの有無がわかるというのは、画期的な技術です。体のどこかにがんがあることがわかったら、そのあと精密検査を受けなければという気持ちになります。ただ、線虫を使った検査は現時点では、がんの種類まではわかりません。全身をくまなく調べるには大きな負担がかかります。国立がん研究センターの専門家は次のように話しています。

国立がん研究センター 中山富雄検診研究部長
「がんはあるけど、全身のどこのがんなのかわからない、と言われてしまうと、すべての検査が終わるまで安心できないことになります。すべての検査をクリアするのは肉体的にも精神的にも、経済的にも大変なことです。検査の結果によって自分の人生がどう変わるのか、どこに注意すべきなのか、その点に配慮して受けていただければと思います。」

検査の方法は簡単でも、がんが見つかれば、ショックを受ける人もいます。早くがんが見つかればいいじゃないかと思われるかもしれませんが、すべての場合で言えるのかというとそうではありません。今回の方法に限らず、『検査を受けることによって不利益を被る場合もある』ということを知っておく必要があります。『がんではないのに、“がんの疑い”という間違った結果がでる場合がある』。陽性になっても、精密検査で本当にがんと診断されるのは、種類によって差があるものの、一部にとどまる場合が多いとされています。こうした場合、結果が出るまでの間、大きな精神的な負担を強いられることになります。
また、陰性という結果が出た場合でも、実際にはがんがあるケースもあります。陰性だったとしても、通常のがん検診を受けなくてもよい、ということではありません。『過剰診断』。がんを早い段階で見つけても、たとえば進行がかなり遅いがんであるなど、患者の命に関わらない可能性があります。それでもがんだと言われれば心配になりますし、受ける必要のない抗がん剤などの治療で副作用が出るなどの不利益を被る場合があります。進行が早いがんなど、早く見つけられれば治療に結びつく場合ももちろんあります。

がんの早期発見の技術は、尿のほかにも血液や唾液など、さまざまな方法が開発されています。しかし、これらの技術は、今後、実績を積み上げて初めて有効性がわかる「過渡期」にあるものです。結果を冷静に受け止めて、上手に活用できるか考えることが重要です。

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