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2020年1月24日(金)

“最強”競歩 挫折 胸に戦う選手たち

世界ランキング上位に多くの日本選手が入り、東京五輪でのメダル量産が期待される「競歩」。実は選手の多くが「長距離からの転向」という挫折を経験しています。“世界最強”の日本競歩陣、その裏にある思いに迫りました。

“長距離からの転向” 挫折と向き合う選手たち

(2020年)1月22日に公開された競歩の強化合宿。去年の世界選手権で金メダルを獲得した鈴木選手や山西選手など、日本のトップ選手が顔をそろえました。いまや世界トップレベルの実力を誇る日本の競歩陣。実はある共通点があります。長距離で結果が出ず、競歩への転向を経験しているのです。

去年(2019年)9月、その競技人生を描いた小説が出版され、共感を呼んでいます。タイトルは『競歩王』。長距離から競歩に転向を余儀なくされた大学生選手が挫折からはい上がり、東京五輪を目指す物語です。そこには夢を断たれた絶望、走ることへの未練など、競歩選手が抱える生々しい思いが描かれています。

“今日から別の目標を見つけて、頑張って生きていってください。なんて言われても、何をすればいいかわからないんです。何ができるかもわからないんですよ。だから、競歩は俺に価値をくれるんじゃないかと思ったんです。”
(小説『競歩王』より)

小説『競歩王』には、モデルがいます。小林快選手、26歳。3年前の世界選手権で銅メダルを獲得した実力者です。元々長距離の選手で、中学生の頃から箱根駅伝で走ることを夢みてきた小林選手。高校は駅伝強豪校の秋田工業に進み、3年生の時には全国高校駅伝に出場するなど、夢への道を着々と進みました。ところが大学3年生のとき、厳しい現実を突き付けられます。タイムが伸び悩むと、コーチにある選択を迫られました。

小林快選手
「走りとしては選手として部に置いていくことはできないという話をされまして、走るなら部をやめてどこかで走る、それか競歩か、あとはマネージャーになるかっていう、その3択を選んでくれないかと。憤りでもないですね、絶望ですかね、これまで見ていたものが急になくなった。」

追いかけてきた夢を失い、競歩に転向した小林選手。当初の心境が小説『競歩王』に描かれています。

“今は、これ以外にわからないんです。自分が生きてるってことを、歩くこと以外で実感できない。”
(小説『競歩王』より)

ひたむきに歩き続けた小林選手。心にあったのは大好きだった長距離をあきらめ競歩をやると決めたあの日の記憶です。

小林快選手
「悔しかった、つらかった、絶望だったって言うのはもう変えられない事実で。じゃあ競歩をしますって僕はいろんな思いがありながらも言った。というか決断したわけで、その決断をした時の自分に、今適当にやったらすごくその時の自分に失礼。」

小林選手を取材し小説『競歩王』を書いた作家の額賀澪さん。挫折を味わっても決して逃げない競歩選手の生き方は多くの人の心に響くのではないかと考えたといいます。

額賀澪さん
「人生諦めなきゃいけないものっていっぱいあると思うんですよ。何かを頑張ったんだけど、実を結ばなかった自分ていうものをないがしろにせず大事にしててほしいし、君は逃げちゃったんだね、君は諦めちゃったんだねっていう言葉に何かこう対抗する物語として描きたかった。」

挫折乗り越えた その先に

去年10月。小林選手は東京五輪の代表選考を兼ねた「全日本50km競歩大会」に挑みました。小林選手はここで優勝し、内定を決める決意でした。しかし、レースはふたりの選手が先行する苦しい展開に。それでも逆転を信じ、歩き続けました。

“一歩一歩だった。泣きたくなるくらい、地道に、本当に少しずつだった。まるで、彼のこれまでのようだ。”
(小説『競歩王』より)

残り2キロの地点で会場に響いたのは、他の選手の優勝を伝えるアナウンス。小林選手は内定を逃しました。残るチャンスは4月の最後の代表選考会、日本選手権だけ。小林選手は人生のすべてをぶつける決意で挑みます。

小林快選手
「競歩転向してよかったなっていうふうに思えるように、オリンピックに出て結果を出す最高の状態でスタートラインに立てれば、自分の納得のいく結果は出ると思うので、最後まで挑戦して頑張っていきたいなと思っています。」

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