これまでの放送

2020年1月23日(木)

介護送迎中の事故 車いすの人だけ死亡 相次ぐ

介護保険を使って車いすを利用している人は、国内で73万人超。こうした中、福祉施設の送迎で車いすの利用者だけが死亡する事故が相次ぎました。

座席だと軽傷なのに なぜ車いすの人だけが…

富山市で去年(2019年)11月、同じ日に起きた2件の事故。いずれも車いすの高齢者が亡くなりました。

このうち1件は、運転手と同乗していたスタッフにけがはなく、座席に座っていた4人のお年寄りはいずれも軽いけがでした。車いすの吉田美津江さん(94)だけが亡くなりました。美津江さんは4年前に足を悪くして以来、週3回、施設のデイサービスに通うのを楽しみにしていました。

美津江さんの家族
「認知症にもなっていなかったし、100歳まで生きるんじゃないかと思っていた。うちのおばあさんだけが亡くなってすごくショック。」

もう1件の事故は福祉施設の送迎車と軽乗用車が衝突し、車いすの87歳の男性だけが死亡しました。なぜ、車いすのお年寄りだけが亡くなるのか。「危険」は車いすとシートベルトに潜んでいました。

シートベルトをした車いすの利用者が、時速50キロで衝突した状況を再現した実験です。シートベルトで腹部が圧迫され強い衝撃が加わっています。亡くなった2人は、姿勢が前かがみで、「3点式」のシートベルトは首に掛かるおそれがあったため、腰にかける「2点式」のシートベルトをしていました。ところがその2点式のベルトがずれるなどして胸や腹を圧迫し、死につながったと見られています。

送迎車を貸し出している事業者は、車いすの場合、シートベルトを正しく装着することが難しいと指摘します。

送迎車を貸し出している事業者『ケアカーズ』 木下憲司社長
「車いすの形状や車いす利用者の体型で、シートベルトが正しくできない場合もある。」

送迎を行っていた施設では、安全対策に気をつかっていただけに戸惑いを隠せません。

施設の担当者
「私たちにできる安全対策は行っていました。シートベルトをしていても衝撃がすごかったんだなと思う。」

車いすにシートベルト装着 介護現場は手さぐり

車いすの場合、「座席」とは見なされず、車にのせる明確な基準がありません。国は「車いすを使う人の体の状況によって形がさまざまで、一律の基準を設けるのは難しい」としています。全国的にどれくらい車いすの送迎事故が起きているかも統計がなく、安全対策は事業者まかせになっています。車にのせることを想定した車いすも開発されてはいますが、安全性と使い勝手を両立させるには課題があります。

安全と使いやすさ 車いすに求めるのは…

岐阜県にある、車いすメーカーが開発した送迎用の車いすです。通常の車いすとの主な違いです。

ひじ掛けの形を工夫してシートベルトを通せるようになっていること。
車いすをフックで固定する専用の部品がついていること。
車の「座席」並みの強度を保つため太いパイプが使われていること。
事故の際、頭や首への衝撃を緩和するためヘッドレストが取り付けられていること。

メーカーがこの車いすの販売を始めたのは10年以上前でした。しかし、売れるのは年間わずか20台ほど。あまり普及していません。理由のひとつは、頑丈なゆえの重さです。このメーカーの標準的な製品と比べ、重さは1.5倍。動かすには、より力が必要です。利用する側は、「安全性」より「使いやすさ」を優先しているのが実情です。

車いすの安全について詳しい元神奈川県立保健福祉大学講師の藤井直人さんは、安全な車いすを普及させる取り組みをよりいっそう進めるべきだと指摘します。

元神奈川県立保健福祉大学 講師 藤井直人さん
「座席ではないものに座って移動するということはどういう危険があるのか、ということを知ってもらうことが必要。」

車いすの送迎事故 見過ごされた安全対策

安全な車いすを普及させるのはすぐにできることではありませんが、大切な家族の送迎について私たちが身近な問題として考える必要があります。

取材:浅井優奈記者(NHK函館)・山澤実央記者(NHK富山)


関連する記事はこちら

Page Top