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2020年1月22日(水)

広がる応援上映 そのわけは?

音楽ライブのような「応援上映」と呼ばれる映画の特別な上映方法が、最近広がりを見せています。この上映の時には、観客は一緒に歌ったり、映画の登場人物などに声援を送ったりすることができ、中には、応援上映によって異例のロングランを記録している作品もあります。そして、応援上映は、今まで映画館に足を運ばなかった人をひきつけています。

千葉県に住む桒原賢治郎さん(50)は、サラリーマンとして事務職を30年近く務めてきました。根っからの仕事人間だったといいます。

桒原賢治郎さん
「休みも買い物に行くくらいで、これといった趣味がなくて。」

しかし、1年ほど前から、毎週のように都内の映画館に通うようになりました。ふだんは、ほとんど紺のスーツしか着ない桒原さんですが、ここで、イギリスの伝説的ロックバンド、クイーンのフレディ・マーキュリーのいでたちに変身します。

桒原さんのお目当ては、フレディ・マーキュリーを主人公にした映画「ボヘミアン・ラプソディ」です。通常の上映は終了しましたが、この映画館では週1回、「応援上映」の形で公開が続けられています。
この日、62週目を迎えた応援上映。チケットは予約販売で売り切れ、満席となりました。毎週のように見に来る人も多く、桒原さんは、この日でなんと50回目になります。

上映が始まると、桒原さんは常連の人たちとともにリズムに乗って歌い、応援します。上映後は、ここで仲間になった人たちと映画談義をする桑原さん。こうしたひとときが一番楽しいといいます。応援上映を通して、桒原さんは、新たな人とのつながりを得ました。

桒原賢治郎さん
「みんなと会ってクイーンの音楽で発散すると、つまらない人生だったのが、“生きているな”と(実感できる)。(応援上映には)感謝しかないですね。50歳にして変われるもんだと。」

映画監督の周防正行さんは、こうした応援上映の様子は、明治から昭和初期にかけての映画館の雰囲気と似ているといいます。周防監督は、最新作の「カツベン!」で、映画に音声がついていない無声映画の時代に、登場人物のセリフなどをスクリーンの横で語っていた、「活動弁士」の姿を描きました。

映画監督 周防正行さん
「日本で最初に映画がはやっていく時って、それまでの演劇の流れの中で映画館で物語を見ているので、拍手も出れば声も出るんですよ。声を出すことや拍手、やじは当たり前で、そこに活動弁士がいたから反応もある。
(『カツベン!』を)撮ってみて初めて、映画館はこんなににぎやかだったんだと僕自身、実感できた。」

では、なぜ今、かつてのような雰囲気の映画館が広がっているのでしょうか。周防さんは、現代の人間関係の希薄さがあるのではないかといいます。

映画監督 周防正行さん
「人のつながりを、自分の生活の中で実感できないっていうのがあるのかもしれない。SNSの“いいね”というのも、どういう“いいね”かよく分からない、ということもあるじゃないですか。でも、映画館やライブ会場やスタジアムに行くと、本当に隣の人と体温を感じながら、声を出すことの気持ちよさがありますよね。だから、もはや映画や映画館に求めていることが少なくとも僕の若い時とは違うと本当に感じます。今映画館に行っている人たちが、(今後)何を選び取っていくのか。観客がこれからの映画のスタイルを決めていく、そんな気はするんです。」

この応援上映は、去年(2019年)公開された映画の中では、「天気の子」や「名探偵コナン」、「おっさんずラブ」などの映画で取り入れられていて、中には、上映中に「危ないよ」「がんばれ」など声をかけたり、危険をくぐりぬけた主人公に拍手を送ったり、映画の世界に入り込んで、会場一体で楽しむ上映もあります。
観客が映画館に求めるものは、かなり変わってきていて、映画館の中には、“体験”や“体感”をキーワードに挙げるところもあります。例えば、最新の“体験型”のシアターでは、ドライブのシーンで、映像の自動車に合わせてシートが振動したり、前の座席の穴からミストや風、香りなどが観客に噴射されるなど、五感を使って映像の世界が体感できる仕掛けが備えられています。
周防正行監督は、現在のこうした映画館の変化は、「100年後に振り返った時に“あの時代に変わった”と言われるのではないか」と語りました。私たちは、映像との接し方が激変する時代に生きていると言えるのかもしれません。

取材:今井朝子(ディレクター)

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