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2020年1月16日(木)

ネット上の“人権侵害” 氾濫する“悪意の投稿”

いま、ネット上に溢れる、匿名の人物による悪意に満ちた投稿が、深刻な問題になっています。
(2019年)12月、タレントの武井壮さんは、友人がネット上で誹謗中傷を受けたことに対して、ある書き込みをしたところ、20万件もの賛同が寄せられました。

その投稿です。

「なんで職場や学校などでのハラスメントは問題視されて処分されるのに、ネット上で知人や見も知らぬ特定の人間を侮辱や中傷したり、しつこく攻撃することは当たり前みてえな空気なんだ?
苦しんで死ぬ人もいるならお遊びじゃねえぞ!」

武井壮さん
「目の前でそんなこと言ったら、侮辱罪で捕まってもいいんじゃないかというくらいのことばがたくさん並んでいるのが、ネットの上だと当たり前のような人間の尊厳を傷つけるような発言を他人に向けてするのはただの陰口ではもうなくなってきている。」

こうした問題を難しくしているのは、投稿のほとんどが匿名のため、書き込んだ人物を特定することが容易ではないことです。
12月、神奈川県のひとりの女性の訴えを受けて、ネット上でヘイトスピーチや誹謗中傷を繰り返した男性が、刑事罰を受けました。

ネット上の“匿名投稿”に罰金刑 被害女性 3年半の闘い

被害を受けた在日コリアンの崔江以子さん(チェ・カンイヂャ)です。
先月(12月)、ネット上の書き込みで崔さんを苦しめてきた男性に、県の条例違反で、罰金30万円の略式命令が出ました。

崔江以子さん
「匿名の書き込みであっても、特定されて決して許されず、刑事責任が問われる。
その社会正義がやっと示されました。
長い長い3年半でした。」

およそ3年前、崔さんは当時過激になっていたヘイトデモやネット上の書き込み対して、抗議の声をあげる活動に、実名で参加しました。

崔江以子さん
「『死ね』、『出て行け』、『殺せ』、『ゴキブリ』、『いなくなれ』(と投稿される)。
怖いです。つらいです。苦しいです。」

そのころから、ネット上で、崔さんを攻撃する、差別的な書き込みが急激に増加します。
中でも、特に執拗な書き込みを繰り返してきたのが、匿名の人物による「極東のこだま」というアカウントでした。
投稿では、崔さんの本名を名指しし、「ナタ」や「刃物」を買うなどと書き込み、崔さんが住む地区も特定されて、投稿されました。
およそ1年9か月に渡って繰り返された書き込みは、数百件にも及びました。
崔さんは、業者に削除を求めるだけでなく、書き込みをした人物を特定して投稿をやめさせたいと考えました。
しかし、大きな壁が立ちはだかります。

崔さんはまず警察に告訴。
警察はアメリカのツイッター社に対して、IPアドレスという、発信者に関する情報の開示を求めましたが、なかなか応じてもらえず、開示まで1年がかかります。
その後、開示されたIPアドレスを元に、契約している接続業者に個人情報開示を求め、その情報から投稿した人物を特定するまでに、さらに4か月かかりました。
こうした手続きを経て、裁判所が条例違反で刑罰を下すまでに、実に3年半の期間を要したのです。
その間も悪質な書き込みは絶え間なく続き、崔さんと家族は、恐怖におびえながらの生活を強いられたと言います。

崔江以子さん
「私が住んでいる場所だとわからないように表札を外し、外線電話を切り、子どもと一緒に外出や外を出歩かないようにしました。
ただひたすら、恐怖で怖かったです。」

崔さんはストレスで不眠症と突発性難聴を発症。
現在もかつての平穏な生活は失われたままです。
「極東のこだま」というアカウントで崔さんを攻撃したのは、神奈川県藤沢市に住む51歳の男性でした。
なぜこうした投稿を繰り返したのか?
自宅を訪問すると、同居する男性の父親が応対し、「その件は勘弁してほしい」と述べ、その後、連絡が取れなくなりました。
崔さんの代理人の師岡康子弁護士は、ネット上の人権侵害を許さないためには、新たな法律を作ることで、被害者を守ることが急務だと言います。

師岡康子弁護士
「明らかに違法なものと思われるものは(業者が)協力しなければいけない法的な義務、今はそれもないので、そのようなネット上の匿名者をまず突き止めるというのが、非常に一般の訴訟と比べて困難なので、そこを手続き的に容易にするような新しい法整備がなされないと、(被害者は)まったく救済されない。」

今後、崔さんの弁護士は神奈川県の男性に対して民事訴訟を検討していて、それ以外の悪質な書き込みについても法的措置を考えていると言います。

ネット上の“人権侵害” 法整備で被害者救済を

現在の仕組みでは、投稿した人物を特定するには、SNS業者と、接続業者それぞれに情報開示を求めるため、裁判所に仮処分を最低2度出してもらう必要があります。
しかし、この手続きは、時間的・金銭的な負担が大きく、被害者のほとんどは泣き寝入りしているのが現状です。
こうした中、国会議員と専門家らが、今月始まる国会で新たな法律の制定を目指しています。
モデル案では、専門家による第三者委員会を内閣府に設置し、「人権侵害」と認定される案件は、裁判所を通すことなく、情報開示の手続きを進められるというものです。

東京大学大学院特任助教 明戸隆浩さん
「ある程度裁判所を介さなくても、第三者委員会がその判断をして、これはちゃんと開示できますよということを企業プロバイダーに言えるようにしておけば、かなりユーザー側、使っている側の負担が減るんじゃないかと。
一番大事なことは具体的ないま困っている、被害に悩まされている人たちが、これによって少しでも状況が改善できること。」

他人の人権を侵害するネット上の悪質な書き込みは、「表現の自由」などではなく、決して許されません。
多くの被害者が泣き寝入りしている現状を放置しないためにも、時代に適応した対策が求められています。

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