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2020年1月14日(火)

阪神・淡路大震災から25年 人々の記憶を呼び起こす絵画

6434人が犠牲となった阪神・淡路大震災から、まもなく25年。
震災によって埋もれてしまった暮らしや記憶がいま、新たなかたちで語り継がれようとしています。
人々の記憶を呼び起こしているのは、被災した神戸の人たちの言葉や写真を手がかりに描かれた絵画です。

神戸の人々の記憶 呼び起こす絵画

埼玉県にある美術館で開かれている絵画展。
崩れ落ちた高速道路や崩壊した生田神社などが、鉛筆で描かれています。
神戸の人々から寄せられた手記と写真をもとに描かれたものです。
画のそばには、手記もあわせて展示されています。

被災者の手記
“『助けて』という次々と起こる声を無視できなくなり、その日は暗くなるまで…(中略)…水も飲まず救出作業をせざるを得ませんでした。”

この絵画展を手がけたのは、神戸の大学で美術を教える、埼玉県在住の長沢秀之さんです。
被災者ではない長沢さんは、絵を通じて震災によって失われた暮らしや、人々が感じてきた思いを掘り起こしたいと考えました。

長沢秀之さん
「描くことは、ある意味で記憶を呼びさますことなんです。
その人を描いてると、その人にまつわる記憶が絵に出て、見ている人が感じてくれればいい。」

その手法は独特です。
長沢さんは、まず写真を元に鉛筆で具体的に描きます。
そのあと、自ら描いた表情などをあえて消していきます。
写真に写ったものを消したり、ぼかしたりすることで、見る人の想像力を引き出したいのだと長沢さんは言います。

長沢さんの絵で、家族の記憶が呼び起こされた人がいます。
長田区に住む、東充さんです。
震災前、市場で戦前から続く漬け物店を営んでいた東さん。
25年前のあの日、地震で店舗は倒壊し、自宅も広がってきた炎で全焼しました。

絵画展のために東さんが用意した写真は、震災から2週間後、家族で初めて店があった市場の前で撮影したものです。
廃業を決断せざるをえなかった辛い記憶がよみがえるため、これまで見ることを避けてきましたが、今回、被災者の思いを知りたいという長沢さんに託すことにしました。

東さんに届けられた長沢さんの絵。
周囲のがれきはぼかされ、家族4人が寄り添っている姿が浮かび上がってみえます。
絵をみたとき、東さんはこれまで忘れかけていた震災前の記憶がよみがえってきたといいます。

東充さん
「この絵を見る限りは、震災の生々しい部分というより、震災前の思い出のようなものが感じ取れる気がする。
過去の市場でのいろいろな出来事、子どもが学校行って、おばあちゃんがいて。
絵を見たおかげで思い出しができた。
ありがたいこと。」

東さんは絵画展に協力したことをきっかけに、初めて孫に写真について語ることができたということでした。

絵画展は埼玉県の「原爆の図丸木美術館」で2月16日まで開かれ、その後、神戸での展示が予定されています。

震災を乗り越えた神戸の人々の記憶や思いを呼び起こす、絵。
長沢さんは、震災を経験していない人たちにも、自分ごとと考えるきっかけにしてほしいと話していました。

取材:田中志穂ディレクター

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