これまでの放送

2019年10月6日(日)

児童養護施設を出た若者たちを支える

子どもの虐待で児童相談所が対応した件数は、およそ16万件と過去最多を更新しています。
そうした中、虐待を受けた子どもなどを受け入れる施設のひとつ、児童養護施設でその役割はますます重要になっています。
子どもたちにとっては施設での苦労に加え、18歳になって施設を出たあとも社会になじめず困窮することが多く、課題とされています。

施設出た若者たちの苦悩

21歳のユミさん(仮名)です。
3歳のときに児童養護施設に入りました。
いまも両親とは音信不通です。
3年前、施設を出て希望していた看護学校に入学します。

月5万円の奨学金以外の学費や生活費は、自分で稼がなければなりません。
ユミさんは学校に通いながら、居酒屋などで週5日、1日5時間以上のアルバイトを続けました。
苦しい生活でしたが、身の上を知られるのが怖くて、友だちや学校に悩みを打ち明けることはありませんでした。

ユミさん
「なにかあったときに、深く関わっていて関係が悪くなったりするのが嫌だった。
弱い部分を誰かに見せるのが、すごく嫌だった。」

入学から半年。
ユミさんは過労により入院します。
1か月間、アルバイトすることもできず、学費が払えなくなったのです。
結局、夢だった看護師をあきらめ退学。
誰にも相談することなく、ひとりで決めました。

ユミさん
「辞めるくらいしか選択肢がなかった。
それでも、やっぱり辞めたくはなかった。」

京都市が行った、児童養護施設を退所した人に、社会に出て困ったことについて聞いたアンケートです。
「社会に、ぽんっと出される事で何もかもが不安」、「身近に相談できる相手がいなくなり、ストレスを解消することができなくなりしんどかった」、「孤独感、たよる人がいない」。
東京都のNPOが行った調査では、児童養護施設を出た人で進学した人のうち、平均の6倍を超える16.5%が中退。
就職した人の45%が、3年以内に離職しています。
このように児童養護施設の退所者たちの中には、ユミさんのように周囲にSOSを出せず、結果的に生活を破綻させてしまうことも少なくありません。
もといた施設の職員などが、相談相手になるケースもあります。
しかし、今いる子どもたちの対応だけでも手が足りない状況で、退所した子の支援まで手が回らないないのが現状だと言います。
こうした中、子どもたちの声を受け止めようという、新たな取り組みが始まっています。

施設を出た若者たち “先輩”たちが支える

「人と人がつながるものをこの番組は伝えていきたい」
こう呼びかけるのは、児童養護施設の出身者たちが、自らの経験を語る動画サイトです。

サイトを立ち上げた、ブローハン聡さんです。
小学5年生から児童養護施設で育ちました。
施設を出てからは職場になじめず、職を転々とした過去を持つブローハンさん。
1人で抱えずに、悩みを打ち明けるきっかけになって欲しいと、9月から週に1回のペースで動画を載せています。

ブローハン聡さん
「僕自身も声を上げられず、つまずいたことが何回もあった。
彼らがSOSを出したときに、最大限寄り添いたい気持ちがあったんです。」

ブローハンさんは児童養護施設を出た人たちが、気軽に集える場所作りも進めています。

7月にさいたま市にオープンした、クローバーハウスです。
ブローハンさんをはじめ、施設を出て社会経験を積んだ先輩たちが、仕事や生活の相談に乗っています。

この日やってきた瀧澤海斗さん18歳。
今年(2019年)4月、農業関連の仕事につきましたが、人間関係のストレスから出社できなくなりました。

瀧澤海斗さん
「外出られるけど、会社には行けない状態だった。
会社の門前まで行って、誰かに会ったら引き返した。」

同じ境遇を経験してきた先輩がいることで、瀧澤さんはこれまで話せなかった悩みを包み隠さず打ち明けました。

瀧澤海斗さん
「久しぶりです。
こんなに話したのは。
何か月ぶりか。
ここに来て、気持ちが少し楽になりました。」

ブローハン聡さん
「共通の話題のきっかけがすごく多くあるので、相談に来た子たちも自分の環境とかをしゃべってもいいんだ、って感じられる。
安心して来られるのだと思います。」

この日、初めてクローバーハウスを訪れた人がいました。

19歳のコウジさん(仮名)です。
去年(2018年)就職しましたが、同僚から施設にいたことや、足に障害があることを冷やかされ職場で孤立し、1年で退職しました。
生計を立てるために、再び就職したいと相談にやってきました。

コウジさん
「1人暮らしなんで、すぐに仕事を見つけないと。」

ブローハンさんたちは、就職についての相談に力を入れています。

企業を回って協力を呼びかけ、介護や製造業など40社をリストアップ。
本人の希望を聞きながらマッチングしています。

ブローハン聡さん
「最終的にお金が尽きてしまって、生活保護につながっていくようなケースもあります。
安心して働ける環境を探すことは、大事なサポートだと思ってます。」

1か月後、コウジさんは紹介を受けたプレス加工の会社で働き始めました。

体への負担が少ない仕事という希望に応じて、検品の業務を担当することになりました。

コウジさん
「メッキの不良とかがあるので、それに注意しながらこん包します。」

クローバーハウスでは、働き始めたあとの支援もしています。
就労支援の担当者が月に1度訪ね、これまでは相談しにくかった職場での悩みを聞いています。
この日、コウジさんが訴えたのは、片道2時間かかる通勤の苦労でした。

支援担当者
「駅からの道をを歩いていたんだね。
頑張ったね。」

プレス加工会社 社長
「朝4時に起きるんだってね。」

コウジさん
「仕事を定時にあがらせてもらっても、7時半に家に着くので、お風呂入ってご飯を食べてすぐ寝ないと、翌朝起きられないんですよ。」

コウジさん
「自分が施設で生活してきて、どういう気持ちを抱いていたのかということをわかって受け入れて下さっているので、すごくやりやすい会社だと思います。」

取り組みが始まって3か月。
これまで7人が支援を受け、新たな職場へ向けての一歩を踏み出しています。

支援に求められるものとは

こうした取り組みは、全国にも広がっています。
NPOなどが運営するこうした相談機関は、全国で30か所ほどあります。
しかし、東京都のアンケートでは、実際に利用したことがある人の割合はわずか8%と、とても少ないのが現状です。
気軽に利用できるような環境を整えていくことが、必要です。
一方で、つらい体験を抱えながら、社会に出てくる子どもたちが悩みを素直に打ち明けられないと感じてしまうことにも、課題があります。
私たちの姿勢も問われているとも言えそうです。

取材:岩井信行(おはよう日本)

Page Top