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2019年10月4日(金)

変わる地方大学 科学技術立国日本の未来は?

ノーベル賞の発表を目前に控え、日本人が受賞するのか、気になる季節がやってきました。

医学・生理学、物理学、化学の自然科学3賞で、このところ毎年のように受賞者を輩出してきた日本。
しかし、今後もこうした輝かしい業績が残せるのか、不安の声があがっています。

ノーベル物理学賞 梶田隆章さん
「日本は将来、科学技術創造立国と言えないような状況になってしまうのではないか。」

研究の現場で、何が起こっているのでしょうか。
取材すると、資金不足が進んで苦しむ研究者の実態が見えてきました。

研究資金の不足が特に深刻なのが、地方の大学です。
国に選ばれて海外の研究所に留学するなど将来を嘱望されている研究者、島根大学の丸田隆典准教授。
植物学が専門です。
丸田さんは常に研究資金不足に悩まされてきました。
研究には実験が欠かせませんが、装置の維持費や試薬など、年間およそ400万円必要です。
しかし、大学から配分される運営資金はわずか20万円ほど。
機械や試薬などを別の研究室から借りる年もあり、ぎりぎりで研究を続けてきました。

なぜ、ここまで研究費が不足しているのか。
研究資金の出どころは、大きく2つに別れます。
ベースとなるのは、国から一定の額が支給される「運営費交付金」。
もう1つは、研究ごとに審査を経て支給される「競争的資金」です。
国は、「運営費交付金」を大幅に削減した一方で、「競争的資金」を増額し、研究者の間に競争原理を取り入れようとしています。

しかし、「競争的資金」の中で大きな割合を占める「科研費」の競争率は、およそ4倍。
選ばれなければ深刻な資金不足に陥ることになります。
科研費を得られなかった年、学生を学会に派遣する費用、およそ10万円は、丸田准教授が自腹を切りました。

島根大学生物資源科学部 丸田隆典准教授
「大学からいただく研究費では今やっているレベルの研究を維持することも不可能。
今後研究を諦めなければいけないときがくるかもしれない。」

地方の国立大学の研究資金不足はこれまでも言われてきましたが、状況は深刻さを増すばかりです。
国から配分される運営費交付金はこの15年で1,400億円以上も削減されました。
一方で、増やしてきた科研費は有名大学に集中する傾向があります。
こうした中、大学が注目しているのが、企業からの「民間資金」です。
民間企業との共同研究で、必要な資金を調達し、研究を進めようとしています。

企業との共同研究費を多く得ている大学のランキングを見てみると、トップ10は、充実した研究設備とブランド力をもった有名国立大学がほとんどを占めています。
その中で健闘が際立つのが、11位の山形大学です。
近年、順位を急激にあげています。
躍進の裏には生き残りを賭けた戦略がありました。

山形大学大学院・有機材料システム研究科の城戸淳二教授は、企業からの民間資金を活用して研究を進めています。
世界で初めて、白く光る「白色有機EL」の技術を開発し、液晶ディスプレイなど多くの製品化にも携わってきました。

山形大学大学院 有機材料システム研究科 城戸淳二教授
「今はもう企業からの研究費がないと工学部では研究ができないのでは。」

山形大学では、「有機EL」に特化した経営戦略で、企業から資金を集めています。
その資金で、研究環境を整備しさらなる投資を呼び込みました。
企業の担当者に製品化のイメージを持ってもらえるよう、照明やディスプレーに有機EL技術を生かしたモデルハウスや、最新の機器を備えた研究施設など、この7年間で8棟も建設しました。

さらに、研究者も大幅に増員しました。
民間企業から、優秀な人材を「ヘッドハンティング」したのです。
その結果、企業から製品化の相談が次々と持ち込まれるようになりました。
メーカーの開発担当者が大学を訪れ、製品を共同開発するための会議も頻繁に行われています。

企業担当者
「大学側の方が、我々会社が今一番求めているものに対して、非常に有用な知識と装置を持っている。」

もともと1億円程度だった民間の研究資金は、8億円以上に拡大しました。

さらに、環境問題への応用など学部・学科を越えた共同研究を立ち上げることで、有機ELで得た研究資金は他の研究室にも恩恵を及ぼしています。

山形大学 有機エレクトロニクスイノベーションセンター 高橋辰宏センター長
「国からの運営費交付金が減らされているので、どこからか資金を稼いでいかなければならない。
新しい大学のあり方、新しいモデルで取り組んでいく、山形大学はそのモデルになるということが、課せられたチャレンジだと思っている。」

大学も企業もウィンウィンの関係ですが、課題もあります。
有機ELの分野で大きな成果をあげる山形大学ですが、すべての基礎的な研究分野にまで充分な資金を回せているわけではありません。
ノーベル賞に値するような画期的な業績は、基礎的な研究を比較的、時間をかけて生み出されることがほとんどです。
日本の科学技術の裾野を広げてきた地方大学が今後どう変わっていくのか、科学技術立国を掲げる日本の将来を左右する大きな問題だと取材して感じました。

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