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2019年7月17日(水)

医師に問われる“伝え方”

現在、治療の進歩などによって、がんと診断された患者の「5年生存率」は6割を超えています。
そして、医師が告知を行うことも当たり前の時代になりました。
そうした今だからこそ、医師がどのように告知するかが改めて問われています。

がん告知めぐる 患者の思い

福岡県久留米市に住む笠井駿さんは、6年前、血液のがん「成人T細胞白血病」と診断されました。
告知のときに受けた医師の言葉で、人生が大きく変わってしまったといいます。

笠井駿さん
「僕の(次の)誕生日までは生きられないと。
絶対、絶対生きていないと。
『120%』という言葉を使ったんですね。」

医師の言葉を信じた笠井さんは、経営する会社をたたみ、財産もすべて整理。
ホスピスにも入所しました。
しかし症状は進行せず、今は年金だけで細々と暮らしています。
告知のときに、もう少し違う伝え方をしてもらえていたらと悔やんでいます。

笠井駿さん
「(告知が)どれだけ患者にとってショックなことなのかということを、やっぱり医者の方々はもう少し勉強していただきたいですね。」

“どう伝えるべきか” 医師たちの模索

国立がん研究センターの内富庸介さんは、医師が告知のしかたを学ぶ場がないことが問題だと指摘します。

国立がん研究センター中央病院 支持療法開発センター長 内富庸介さん
「定式化したがんの伝え方が、これまでなかったということが一番の問題ではないか。
(医師は)コミュニケーション自体を習っていませんから。
やっぱりそこには、手術と同じようにトレーニングが必要だろう。」

どのように患者と向き合うべきか。
いま、医師たちは模索を続けています。

この日、岐阜市内の病院で開かれたのは、がん告知の研修会です。
参加したのは、がん診療に携わる若手中心の地元の医師たちです。
2日間にわたる研修会のメインとなるのは、実際の告知の場面を想定したロール・プレイ。
特別な訓練を受けた、専門の患者役を相手に告知を行います。

今回はじめて参加した、医師になって7年目の吉田泰之さんです。
不安を抱える患者を前に、なかなか言葉がつながりません。

(患者役)
「深刻ですか、先生。」

消化器内科医 吉田泰之さん
「うーん、やっぱりある程度、今日話す内容というのは、病気の診断まで含めてお話することになりますので…。」

(患者役)
「先生のお話のしかたを聞いていると…、がんということなんでしょうか。
それはどれくらい悪いんですか。
かなり悪いんでしょうか。」

吉田泰之さん
「うーん…。」

司会
「はい、ストップです。」

吉田さんの対応を見ていた別の医師から指摘があがります。

「患者さん主導で展開している。」

「相手(患者)にペースを握らせつつも、あまり慌てさせずゆっくりしていく必要があるかなと。」

吉田さんは、患者に寄り添いながら病気の現実を伝えることの難しさを痛感しました。

消化器内科医 吉田泰之さん
「話を先に進めないといけないという風に思ってしまうところもあって、なかなか相手の立場まで立って、というのは難しいところがあったりしますね。」

どう言葉をかけたらいいのか、ほかの医師のロール・プレイからもヒントをもらいます。
この医師は、家族にどう伝えるか悩む患者に寄り添った上で、病状を共有することの大切さを訴えました。

(患者役)
「娘には、とてもとても話せませんので、この間も元気だと言ったばかりですから。」

医師
「娘さん、ご家族の方に、あんまり不安や心配をかけたくないということだとは思うのですが、大事なお話ですので、一緒にお話聞いていただけたらなと思うんですけども。」

このやりとりから、患者の気持ちに共感することの大切さを学んだ吉田さん。
自分の回では、まず患者の思いを引き出すことに挑みます。

消化器内科医 吉田泰之さん
「治療にいきたいという、その思いというのがあれば、そこの理由をちょっと教えていただきたいなと。」

(患者役)
「ああ、そらもう先生、まだそら、どうこうなるわけにはいきませんしね。
うち、やっぱり子どももまだ学生ですしね。」

家族を気にかける患者の思いを理解した上で…。

吉田泰之さん
「ご家族との、そういったお時間ですね。
お子さんのことも含めて、少しでもいい時間が長く取れるようなお手伝いですね。
今後もしていきたいなと。」

吉田さんは、医師としての決意を伝えることが出来ました。

吉田泰之さん
「独りよがりにならずに、相手の立場になって考えていくということですかね、それに尽きますね。」

ここ数年、告知のしかたを学ぶ場の必要性を医師たち自身も強く認識し始めています。
しかし、ご紹介した研修会も忙しくて参加できないという医師も多く、なかなか広がっていないそうです。

一方、患者側が告知の際にどう向き合うべきか、国立がん研究センターの内富さんに聞いたところ、「セカンドオピニオンを受けること」、「医師に勇気を出して質問し、自分の気持ちを分かってもらうこと」など、しっかり納得できるようにすることが大切だと話していました。

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