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2019年7月7日(日)

西日本豪雨から1年 進まぬ帰還 再建の課題は?

西日本豪雨から1年。
広島県内では、1年たった今も自宅を失ったおよそ860世帯の人たちが仮住まいを続けています。
多くは、生まれ故郷や長年住み慣れた場所での生活再建を望んでいますが、困難も多く希望通りには進んでいません。
なぜ、地域への帰還が進まないのか、その現状を取材しました。

進まない地域への帰還

広島市の東に隣接する坂町。
去年の7月6日から7日にかけて大雨特別警報が発表され、豪雨に見舞われました。
土砂が流れ込んだ川が氾濫し濁流に巻き込まれるなどして、18人が死亡、1人がいまも行方不明のままです。
1年がたち被災した住宅の解体が進む一方、いまも215世帯495人が仮設住宅などに暮らしています。

町内の仮設住宅で暮らす本田幸嗣さん、69歳です。
自宅は全壊し、妻の絹江さんと2人で仮住まいをしています。
慣れない生活で、体の異変が続いています。
去年(2018年)10月から、全身にじんましんがでるようになったのです。

本田幸嗣さん
「体はストレスを感じているのかな。
自分の気持ちではそう思ってないんだけれど、体は感じているのかもしれない。」

坂町に70年近く暮らしてきた本田さん。
当初は、解体が済んだ自宅での生活再建を考えていました。
しかし、時間を経てもあの日の記憶は本田さんの脳裏から離れることはありませんでした。

本田幸嗣さん
「山の方からバリバリバリという音が聞こえたんですよ、木が裂ける音が。
もう一目散に逃げました。」

自宅の目の前の裏山が崩れ、土砂が自宅を直撃。
近くの住宅に逃げ込んだ本田さんは、町が濁流に飲み込まれていく様子を目の当たりにしたのです。

本田幸嗣さん
「土砂崩れが発生した場所が自宅から近すぎた。
もし、また何かあると思うと、今の状況では、ここに住むことはできません。」

広島県は、砂防ダムの整備を進めています。
しかし、一度染みついた不安は払しょくできず、本田さんは自宅の再建をあきらめ、地区を離れて暮らすことを考えるようになりました。

本田幸嗣さん
「もし同じようなことが起きたらひとたまりもない。
自然の力を思い知らされた。
180度人生が変わった。
それを受け入れないとしょうがない。」

いつまでも消えない災害への不安。
感じているのは、本田さんだけではありません。

被災者の生活支援を行う「地域支え合いセンター」の木下健一さんです。
木下さんは去年10月から被災者のもとを訪ね、悩みを聞いてきました。
ここ1か月に被災者900人あまりをたずね、聞き取った記録です。

「川の音を聞くのも怖くて帰りたくない。」
「元の住所に行くのが怖い、帰りたいけど帰れない、複雑な感情で迷っている。」
1年経っても災害への不安を訴える声が根強くあり、生活の再建を阻んでいると木下さんは感じています。

坂町地域支え合いセンター 木下健一さん
「地元は好きだけどあの恐怖は二度と味わいたくない。
また災害が来るかも知れないという不安があって、元の家のところに帰る決断ができず悩んでいる方が多いと感じます。」

さらに、もうひとつ再建を阻んでいるものがあります。
高齢者が地域から孤立してしまうことです。
避難先で地域との接点がなくなり、生活再建への気力が失われてしまうからです。
地域から孤立してしまっている避難者は、坂町だけで60人にのぼると見られています。

この日、木下さんが訪ねたのは、坪谷五郎さん(75)。
坪谷さんは、災害で自宅がなくなり、3キロほど離れた場所にある町が用意した住宅でひとり暮らしをしています。

坪谷五郎さん
「ここには自分しかいなから。
知り合いにも出会わない。」

周囲に知り合いはおらず、不安を打ち明ける話相手もいません。
坪谷さんがここに住むようになって10か月。
自宅の再建についても、親戚からのすすめで一度は検討しました。
しかし、1人での生活が長引くなかで、次第に「再建をしても仕方がない」と思うようになりました。

坪谷五郎さん
「どういう暮らしがいいと言われても、今は、そんな希望もない。
自分の先がみえているから望みなんてない。」

木下さんは、坪谷さんのように孤立する高齢者を定期的に訪問し声かけを続けています。

坂町地域支え合いセンター 木下健一さん
「何か食事が思うように食べられないとか、そういったことないですか。」

坪谷五郎さん
「食べれないことはないけど、たくさんは食べないよ。」

この日は、体調や生活面での変化などを2時間かけて聞いた木下さん。
地域のつながりを作るような支援がより必要になってくると感じています。

坂町地域支え合いセンター 木下健一さん
「生活の中で、何のために生きているのかというところで、支えになるものなどを、いかに作ってあげられるか、一緒に探せるかということが支援のポイントになっていると思います。」

多くの人たちが今も抱えている被災した不安をぬぐい去るには、何が必要なのでしょうか?
国や県は砂防ダムなどの整備を進めていますが、その数は多く、すべてが完成するのはまだまだ先になりそうです。
そうしたハード面での整備を早急に進めることは、大前提になります。
しかし、完成したからといって、一度感じた不安を取り除くのは難しいのが現状です。
また、そもそも経済的な事情から再建が難しい方も少なくありません。
坂町では、自力での再建が難しい人でも住まいを確保できるように、土砂災害の危険性が低い場所に災害公営住宅を建設することを計画しています。
しかし、完成するのは来年(2020年)になる見込みで、さらに、人口流出などでその後の影響が残る中、被災者の住宅やくらしへの不安をぬぐい去ることは難しい課題となっています。

一方、孤立しがちな被災者・高齢者への対応については、行政や地域支え合いセンター、あるいは住民どうしなどで、その声に耳を傾けることが求められます。
さらに、支え合いセンターでは地区の人々を対象に、みんなが集いやすい健康教室や相談会を実施し、住民どうしのつながりを維持しようと取り組み始めています。
今後は、こうした地域全体を見ながらの支援が重要になってくるのではないでしょうか。

(取材:広島局・喜多祐介記者)

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