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2019年7月2日(火)

増える“保釈” 最前線に密着!

先月(6月)、神奈川県で実刑判決が確定した男が逃走した事件。
逃走中、地域の小中学校45校が休校するなど市民生活にも大きな影響が出ました。
この男、実は、去年(2018年)10月に保釈され、身柄の拘束が解かれていました。

今回の事件のきっかけとなった「保釈」とは、「勾留されている被告の身柄の拘束を解くこと」で裁判所が判断するものです。
勾留された被告は起訴されたあと、弁護士などを通じ保釈を請求することができます。
裁判所が認めると保釈金を納め外に出ることができます。
この10年、保釈を認めるケースが増えています。
割合にすると、実に2倍以上になっています。

背景には有罪が確定するまでは犯罪者として扱わない「推定無罪の原則」があり、今、裁判所でこの原則に立ち返る流れが生まれています。

増える保釈。
現場では一体なにが起きているのでしょうか。

増える“保釈” 最前線で何が…

「奥様はどのような件で逮捕されてしまったのでしょうか。」

東京都内の一般社団法人「日本保釈支援協会」です。
手がけているのは「保釈金の立て替え」。
今、早期の保釈を求める被告の家族などから、相談が相次いでいます。
申し込みの件数は年間8,000件以上。
この10年でおよそ4倍に増加しています。

日本保釈支援協会 専務理事
「これだけ保釈に対して関心が集まるのは正直想定外の展開でした。」

早期の保釈は被告の社会復帰につながる場合があります。
この40代の被告は生活に困窮して特殊詐欺に受け子として関わり、逮捕されました。
今年(2019年)5月、起訴された6日後に保釈。
あとひと月勾留が続いていれば、家賃の未払いで自宅を失うところでした。
今は、裁判と並行して、就職活動を進めています。

保釈された被告
「一度犯罪を犯してしまって、まっとうな生活に戻れないと考えていました。
保釈を頂いてまたきちんとした人生を歩み直していこうと思えます。」

一方、保釈が増えたことによるリスクに直面している現場があります。
東京地検の特別執行担当、通称トクシツ。
保釈後に逃亡した人などの身柄確保を担う専門の部署です。
今回初めて取材が許されました。
危険が伴う現場で特殊な装備を使いこなす訓練を受けています。
今、トクシツが出動する場面が増えています。

東京地方検察庁 横田正久検務主任検察官
「暴力団関係者、薬物の常習者についてまで裁判所が保釈を許可するというケースが増えています。」

保釈後、被告が逃亡したり事件を起こしたりするケースも出てきています。
一昨年(2017年)摘発された詐欺事件では、被告らがグルメンピックというイベントの開催をうたい、およそ200人から出店料5,000万円余りをだまし取ったとされています。
従来であれば、組織的な詐欺は罪が重く、保釈が認められにくい事件でしたが、裁判所は保釈を許可。
ところが。
被告は海外へ逃亡。
今も裁かれていません。
さらに奈良県では、放火の疑いで逮捕され、その後保釈された男が、再び放火する事件が起きました。
保釈中の被告が事件を起こしたとして起訴されたケースは、この10年でおよそ3倍に増えています。

東京地方検察庁 久木元伸次席検事
「裁判所は、基本的に適正な(保釈の)判断をされていると感じております。
中にはそういう(逃亡・再犯の)事案もあり、そういうものがあまり増えてしまうと、皆さんの理解・信頼が得られなくなってしまうのではないか。」

一方、保釈を判断する裁判所は何を重視しているのか。
保釈を認める傾向が強まったきっかけは10年前に始まった「裁判員制度」だといいます。
参加する市民にわかりやすい裁判のため、事前に裁判官と検察、弁護側が打ち合わせを行う仕組みが新たに導入されました。
推定無罪の原則に立ち返り、被告が弁護士と十分に相談できるよう保釈を認める傾向が強まったといいます。

東京地方裁判所 伊藤雅人所長代行
「有罪がまだ決まっていない事件なので、一定数、もしかしたら無罪になる可能性のある人も含まれているわけですよ。
充実した準備をして、できるだけ早く公判を開くためには支障がないかぎり早く保釈したほうがいいですね。」

裁判所は保釈するかどうかどう判断?

裁判所は、弁護側から保釈の請求が出されると検察にも意見も聞いて「保釈のリスク」と「被告の権利」のどちらを重視すべきかを検討します。

そもそも判決が確定する前の身柄の拘束は刑罰ではありません。
身柄の拘束は裁判をきちんと受けさせるためのものなんです。
このため法律上、保釈のリスクとして考慮されるのは、逃亡と証拠隠滅のおそれの2つで再犯など社会に不安を与えるおそれは判断の直接の基準にはなっていません。
一方、「被告の権利」は裁判の準備のほか、勾留の長期化で職を失ったり、健康を害したりする弊害も考慮されます。
裁判員制度の導入で弁護士の活動が活発になっていることもあり、以前より、被告の権利が重視されやすい傾向にあります。

“再犯”への対策は?

例えばアメリカやイギリスの場合、一部の犯罪では、「再犯のおそれ」が保釈の判断の基準の1つになっています。
また、性犯罪などの被告を保釈する際には、GPSを付けて監視したり、呼び出しに応じない場合は刑を重くしたりするなど、保釈のリスクへの対策を制度化している国もあります。
一方、再犯に及ぶかどうかを事前に予測するのは難しく、「再犯のおそれ」を保釈の基準にすることは新たな人権侵害につながりかねないとして海外でも批判もあるということです。

裁判員制度の導入をきっかけに日本の司法のあり方が大きく変わる中、被告の人権と社会のリスクのバランスをどのようにとるべきか、幅広く議論を進めることが求められています。

取材:橋本佳名美記者(社会部)

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