これまでの放送

2019年4月13日(土)

脊髄損傷 新治療の現場

庭木の手入れで、はしごから転落。
酔っ払って転倒。
こうした事故の衝撃で、背骨を通る重要な神経が傷つくのが、「脊髄損傷」です。
有効な治療法がなく、毎年多くの人が、寝たきりや車いす生活を余儀なくされてきました。
しかし、ある最新治療によって…。
この患者は、寝たきりだったのが、1週間後に歩けるようになりました。

医療イノベーション推進センター 福島雅典センター長
「天動説から地動説に変わったぐらいの、大きい変化だと思います。」

不可能に挑戦する、脊髄損傷の最新治療に迫ります。

石橋
「これまで治療が困難とされてきた、重症の脊髄損傷を回復させる新しい治療が、今年(2019年)5月、世界に先駆けて日本で始まります。」

新井
「一体どんな治療なのか。
この治療法の研究現場を取材しました。」

“絶望”から驚異の回復! 最新治療の現場に密着

草地伸治さん(51歳)。
4年前、試験的な治療を受けて、劇的に回復した脊髄損傷患者です。
まだ手足に動きにくさはあるものの、歩いたり、軽いものを持ったりすることができるようになりました。
草地さんは趣味の飛び込み競技をしているとき、プールの底に頭を強く打ち、首の部分の神経を損傷しました。

脊髄損傷患者 草地伸治さん
「一瞬の出来事で、手足が動かないんですよ、まったく。」

これは、事故から8日後の草地さんです。
筆で手や足を触られても、感触すらありませんでした。

理学療法士
「これは?」

脊髄損傷患者 草地伸治さん
「わからない。」

脊髄損傷患者 草地伸治さん
「“手足はたぶん回復しない、車いすも無理かもしれない”と言われた。
絶望感もあって、どうするんだろうこれから。」

脊髄には、脳からの指令を全身に伝える重要な神経が走っています。
これが傷つくと、さまざまなマヒが起こります。
特に、首の部分を損傷すると、そこから下の全身に脳の指令が伝わらなくなり、手足が動かなくなります。

脊髄損傷を治療する 再生医療の現場

草地さんが、いちるの望みをかけて参加したのが、札幌医科大学で行われていた「治験」と呼ばれる臨床試験でした。
その治療とは、「再生医療」と呼ばれるものです。
私たちの体は、受精卵という1個の細胞が分裂して、全身のあらゆる細胞に変わることで形作られています。
その途中段階に当たる「幹細胞」と呼ばれる細胞が、私たち誰もの体に存在しています。

この幹細胞の1つが、「間葉系幹細胞」です。
神経などの細胞に“変身”できる能力を持っています。
その力で神経を再生させようというのが、今回の「再生医療」なのです。

治療では、まず患者の骨の中から間葉系幹細胞を取り出し、2週間かけて、およそ1万倍に増やします。
これを点滴で、再び患者の血液中に戻します。

脊髄を損傷して1か月がたち、もう大きな回復は望めない状態だった草地さん。
自分自身の間葉系幹細胞が、点滴で投与されました。
すると、その翌日。
驚くような変化があらわれました。

医師
「指を曲げてください。
昨日より曲がりますね。」

ほとんど動かせなかった指を折り曲げて、グーを握れるようになったのです。
さらに…。

脊髄損傷患者 草地伸治さん
「手が、だいぶん上がるようになりましたね。」

医師
「頭をかいたりできますか?」

脊髄損傷患者 草地伸治さん
「けっこう後ろまでいくんで。」

わずか一晩で起こった、急速な回復。
損傷した場所にたどりついた幹細胞が、特別な物質を放出。
弱った神経細胞を活性化させたと考えられています。

その後も、急速な回復は続きました。
間葉系幹細胞を投与して1週間後には、支え歩きが可能に。
1か月後には、階段の上り下りができるようになり始めました。

4か月後。
幹細胞が新しい神経細胞に“変身”し始め、脳からの指令が強く伝わるようになったと、研究チームは見ています。

事故から7か月。
草地さんは、自分の足で歩いて退院することができました。

草地さんを含め、札幌医科大学で今回の治験を受けたのは13人。
そのうち12人で、脊髄損傷の重症度が1段階以上改善。
残る1人も、呼吸能力などの改善が見られました。
問題となるような副作用はありませんでした。

札幌医科大学 整形外科 山下敏彦教授
「スポーツや交通事故で、ある一瞬から完全に世界が変わってしまう。
“もう一度歩きたい”“もう一度戻りたい”と非常に強く思っておられるので、それを回復させてあげられるのは、非常に大きい治療だと思います。」

脊髄損傷を治療 始まった再生医療

治験の成果を審査した結果、国はこの再生医療を承認しました。
ただし、今後7年間で効果と安全性を引き続き確認することが条件です。

再生医療を受けた脊髄損傷患者、草地さん。
事故から4年経った今では、車の運転もできます。
再生医療で、諦めかけた人生を取り戻すことができました。

脊髄損傷患者 草地伸治さん
「自信と希望じゃないですかね。
(再生医療から)かなりのものをもらったので。
すごく感謝していますね。」

石橋
「人生を取り戻せる、患者さんにとっては希望の光ですよね。」

新井
「どうすれば治療を受けられるのか、気になっている方も多いと思いますが、この脊髄損傷の再生医療は、健康保険が適用されて、まずは札幌医科大学で5月中旬から患者を受け入れる計画です。 
治療の対象は、『脊髄を損傷してから30日以内の重症患者』に限られ、けがをしてから2週間以内に札幌医科大学に入院する必要があるなど、条件があります。」

石橋
「これをきっかけに札幌医科大学では、間葉系幹細胞を使って、脳梗塞など、その他の神経の病気も治療できるようにしたいと、研究を進めているとのことです。」

【あわせて読みたい記事】
「脊椎損傷への画期的な治療法が登場!」

Page Top