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2019年2月10日(日)

急増“非正規公務員”  地方自治体に何が

小郷
「先月(1月)事実上始まった春闘では、非正規労働者の賃金の引き上げや、格差の是正が進むのか注目されていますが、今、地方自治体でも、臨時や非常勤で働く『非正規公務員』という人たちがいるんです。」

新井
「その数が急激に増えています。
こちらは、全国の市区町村の職員のうち、非正規で働く人の数と割合です。
ともに年々増えていて、今や3人に1人が『非正規』です。」

小郷
「なぜここまで『非正規公務員』が増えたのか。
取材を進めると、地方自治体の厳しい現実が見えてきました。」

“非正規公務員”急増の背景は

人口1万3,000人余りの長崎県佐々町。
役場や出先機関の職員287人のうち、65%が非正規の職員です。

高齢者の介護の相談窓口では、11人のうち9人が非正規で働く人たち。
町営の図書館でも…。

図書館 館長
「こちらは、みんな非常勤になりますけど。
私を含めてですね。」

館長以下、運営にあたる12人全員が非正規の職員です。
なぜ、これほど多いのでしょうか。

国の地方交付税が削減され、自治体の財政が厳しくなる一方、高齢化などに伴って、福祉サービスなど自治体が担う業務は拡大。
限られた予算で要員を増やさねばならず、非正規の職員が増えたのです。

佐々町 総務課 山本勝憲課長
「行政改革の中で、特にうちの場合は保育所とか幼稚園を持っていたので、その関係でどうしても非正規が増えた。
実際、現場では(非正規職員が)いないと人が回らない。」

「非正規公務員」が支える自治体は、今、全国に広がっています。
職員の半数以上が非正規という市町村は、10年余りで7倍に急増しています。

一方、明るみになってきたのは、正規の職員との待遇面の違いです。
佐々町の町営の保育所では、保育士32人中25人が非正規の職員。
勤務時間が短いため、あえて非正規という働き方を選ぶ人も少なくありませんが、担任を受け持つなど、同じ業務や責任を担うことも多くなっています。
しかし、その待遇は…。
正規の職員は昇給やボーナスなど各種の手当てがありますが、非正規の場合、給与は年齢や経験に関係なく、職種によって一律。
正規の職員の手当にあたるものもありません。

こうした格差をなくそうと、役場ではこれまでも非正規職員の給与の引き上げなどに取り組んできました。
今回、処遇向上を目指して、通勤手当やボーナスなどの手当の支給を計画。
その場合、経費は最大で年間5,500万円が必要となる見通しです。
限られた予算の中でどう確保していくのか、検討を重ねています。

佐々町 総務課 山本勝憲課長
「(5,500万円が)経常経費で続いていくので、その部分は確かに苦しい。
ほかの部分で、財政の部分で費用削減していく努力を今後も続けていかないといけない。」

制度設計に問題が

小郷
「取材にあたった福岡放送局の寺島記者です。
非正規公務員がここまで増えていて、正規の職員と同じ仕事をしながらも待遇面では大きな格差があるようですね。」

寺島光海記者(福岡局)
「実は、給与だけではありません。
例えば『産休』。
2016年の総務省の調査では、窓口業務などを行う臨時・非常勤の『非正規公務員』を雇っている自治体のうち、3分の1で制度がありませんでした。
子どもが病気をした際の『看護休暇』も半数以上、通勤にかかる交通費でさえも、3分の1の自治体でありませんでした。」

新井
「なぜ、こうしたことが起きているのでしょうか?」

寺島記者
「制度設計が現状に合っていないことが問題なんです。
総務省によりますと、以前、『非正規職員』は、短時間で補助的な業務に関わることが前提でした。
しかし、正規職員と同じような仕事を担うようになってきたのに、待遇面は以前のままというのが実態なんです。
こうした待遇の格差が、深刻な事態をもたらすケースも出てきています。」

“非正規公務員”急増の陰で

北九州市の非常勤職員だった、森下佳奈さんです。
児童虐待などを扱う相談員でしたが、うつ病と診断され、退職。
その2年後、自ら命を絶ちました。
当時、佳奈さんが母親などに送ったメールです。

“給料分働いていないと言われ、残業つけてもらえず。”

“また今日も2時間問い詰められ、泣かされました。”

母親の眞由美さんは、娘の死は上司のパワハラなどが原因だと考え、公務員の労災にあたる「公務災害」と認めるよう、北九州市に請求しました。

しかし、市の回答は思ってもみないものでした。
佳奈さんは非常勤職員なので、公務災害を請求できないというのです。
市の条例には、その権利が定められていませんでした。

森下眞由美さん
「同じ“人”なのに、常勤と非常勤で命の重さに違いがあると言われたとしか思えなくて。」

眞由美さんは、亡くなったのは職場でのパワハラなどが原因で、公務災害の請求さえできないのは問題だとして、市を相手に訴えを起こしました。
市は「対応に問題はなかった」と主張し、裁判が続けられています。

森下眞由美さん
「納得がいかない。
娘が亡くなったということを納得できない。
一歩も前に進めていません。
娘のことだけを思って供養する穏やかな気持ちが私は欲しいけど、今の状況では無理だと思います。」

小郷
「佳奈さんのケース、請求できる余地はないのでしょうか?」

寺島記者
「公務災害の請求については、北九州市は改善を求める国の通知を受け、去年(2018年)10月に規則を改正し、非常勤職員やその遺族も請求できるようにしました。
さらに、改正以前の事案についても、現在、請求できるよう準備を進めています。

一方で、市は『パワハラは確認できず、対応に違法性はなかった』と主張し、今も裁判は続いています。」

暮らしに影響も?

寺島記者
「専門家は、多くの自治体で待遇の格差が依然として残っていて、このままでは私たちの生活にも影響が出かねないと指摘しています。」

地方自治総合研究所 上林陽治研究員
「住民に最も近いところでサービスを提供する人たちは、(多くが)非正規であるというのが現状。
ところが年収200万円前後の賃金、雇用も1年ぐらいで不安定な状態でやっていくということは、将来に対する展望が見えない。
結果、かなりの数が離職してくる。
非正規公務員の処遇を低い状態のままにしていたら、なり手不足がもっと大きくなって、このままでは安心した住民公共サービスが提供できなくなるおそれがあると考えている。」

新井
「この問題、改善していくにはどうしたらいいのでしょうか?」

寺島記者
「まず、労災を申請する権利や産休など、働く人として認められるべき権利については速やかに制度を整備していくべきだと思います。
国も状況を重く見て、来年(2020年)4月までに待遇を改善するよう各自治体に呼びかけています。
住民のニーズに応える行政サービスを維持しながら、限られた予算の中で非正規公務員の待遇をどう改善していくのか。
サービスを受ける私たちも、考えていかないといけないと思いました。」

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