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2019年2月9日(土)

日本国籍を求めて フィリピン無国籍男性の40年

新井
「フィリピン在住のこちらの男性、実は『無国籍』なんです。」

小郷
「戦前に移住した日本人の子どもとして生まれ、戦後、現地に取り残されたいわゆる『残留日本人』だとされています。
終戦から74年。
父親が日本人だと示すものがほとんど無い中、日本の国籍の取得を求めています。」

“私のルーツは日本” ある無国籍男性の訴え

報告:桑原義人(映像取材部)

フィリピン南部のミンダナオ島。
ここで雑貨屋を営むメラニオ・ミノル・タクミさん、77歳です。
“ミノル”という名前は、父親がつけてくれました。

メラニオ・ミノル・タクミさん
「父がつけてくれたミノルという日本名に、誇りを持っています。
私の名前はメラニオ・ミノル・タクミなのです。」

父のことを示す書類は、両親の婚姻証明書だけ。
タクミという名字はありますが、フルネームも出身地も記載されていません。

戦前、フィリピンには3万人ほどの日本人が暮らしていました。
日本人男性と現地の女性との間に、多くの子どもたちも生まれました。
太平洋戦争が始まると、ミンダナオ島は激戦地に。
父親は日本軍に招集され、そのまま帰ってこなかったといいます。
ミノルさんがまだ3歳の時のことでした。

その後、フィリピンで反日感情が激化。
ミノルさんと母親は、人目を避けるように山奥で暮らしました。

メラニオ・ミノル・タクミさん
「ここから20メートルほどのところに、私たちの家がありました。」

貧しく苦しい2人きりの生活。
ミノルさんが日本人の子どもだと悟られないよう、母は、写真や書類など、父につながるものをほとんど焼いてしまいました。
当時、日本でもフィリピンでも、子どもは父親の国籍に属すると法律で定められていました。
父親の国籍がわかる書類を焼いてしまったため、ミノルさんは無国籍となったのです。

やがて成人し、自分の家庭もできたミノルさん。
反日ムードも薄れていく中で、改めて自分のルーツを取り戻したいと、日本国籍を求めるようになりました。
父が日本人であることを証明できないか。
ミノルさんは、父を知るとされる人を訪ねるなど、40年以上にわたって手がかりを探しました。

しかし、父の同僚だったという人は確認できたものの、本人のフルネームや出身地が分かる決定的な証拠にたどり着くことはできませんでした。

メラニオ・ミノル・タクミさん
「私はフィリピン人でもなければ日本人でもない。
無国籍であることが、私の人生に大きな悩みとなってのしかかっています。」

ミノルさんを支援した、日本のNPOです。
国籍を取得するため、日本の裁判所に提出する資料の作成などを手伝っています。
ミノルさんのように、今も日本国籍を望んでいる人は1,000人以上。
平均年齢は80歳を超えているといいます。

フィリピン日系人リーガルサポートセンター 猪俣典弘事務局長
「国籍回復に向けて、父親の身元探しを10年以上もかけてやってきて、それ(日本国籍取得)がかなわずに亡くなる。
これが年々増えている。」

2か月前、大きな動きがありました。
「本人から直接説明を受けたい」と、日本の裁判官との面談の機会を与えられたのです。
せめて最後は日本人として生きたい。
ミノルさんは、この面談に全てをかけようとしていました。

メラニオ・ミノル・タクミさん
「体も思うように動かなくなってきています。
どうか認めてほしいのです。
私が日本人であるということを。」

面談当日。
ミノルさんは、与えられた90分間で、改めて父が日本人だと訴え、国籍を求めました。
結果は後日伝えると告げられました。

メラニオ・ミノル・タクミさん
「できることはすべてやりました。
日本人として認めてほしいと長年願い続けてきた私の思いが、届くことを信じています。」

旅の最後、ミノルさんには、どうしても訪ねたい場所がありました。
広島の原爆ドームです。

メラニオ・ミノル・タクミさん
「ここで多くの人が亡くなったんだね。
1945年か…。」

メラニオ・ミノル・タクミさん
「この建物も自分の人生も、戦争によってめちゃくちゃにされました。
もし今回、日本人として認めてもらえれば、この悲しみや苦しみも、きっと癒やされるのだと思っています。」



新井
「ミノルさんの国籍申請の結果は、今月(2月)中にも出される見込みです。
ミノルさんのように面談まで至るケースはごくまれで、一般的には証拠や証言を集めて提出するのですが、時間がたてばたつほど、こうした作業を個人や支援団体だけで行うのは厳しくなり、もう限界に来ているということです。」

小郷
「無国籍者を無くす取り組みを続ける、UNHCR=国連難民高等弁務官事務所は、『どこの国にも属さない無国籍の状態が続くことは、その人の尊厳が侵害される重大な問題だ。双方の国が責任を持って国籍を回復するべきだ』と指摘しています。」

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