これまでの放送

2019年2月6日(水)

パラスポーツの「クラス分け」 潜む課題

和久田
「開幕まで1年半となった東京パラリンピックの話題です。
みなさん、こちらのアルファベットと数字の組み合わせ、何だかわかるでしょうか?」


高瀬
「最近、パラリンピックの中継などでも見かけますよね。」

和久田
「これ、パラスポーツ特有の『クラス』分けなんです。
こちらは陸上競技のものなんですが、Tはトラック競技のT。
となりの4は障害の種類。
一番右の数字は障害の程度で、数が小さいほど重いことを表しています。
陸上だけでも58のクラスに分けられているんですね。
この複雑な『クラス分け』をめぐって、ある課題が持ち上がっています。」

競技性の高まりによる「クラス分け」の厳格化

リポート:野尻嘉一(おはよう日本)

今週日曜に開かれた東京パラリンピックへ向けた選手の発掘会です。
アスリートの発掘も大詰めを迎えています。
しかし参加者たちは、自分がどのクラスに該当するのか、正しく理解している人は多くありません。

参加者
「(自分が)どこのクラスにあたるのか、わからなくて。」

参加者
「正直チンプンカンプンで。」

パラリンピックでは、選手たちができるだけ公平に競いあえるようにするため、競技ごとに障害の「種類」や「程度」で細かくクラス分けされています。
さらに近年の競技性の高まりで、クラス分けはより厳格化が進んでいます。

「クラス分け」で競技を諦めた人も

こうした中、クラス分けをめぐって競技を諦めた人もいます。

石河毅也(いしこ・たけや)さん、25歳です。
脊椎の障害で下半身の一部に麻痺があります。

石河毅也さん
「膝から下が筋肉がつきにくいとか、足に障害がある。」

石河さんは3年前、東京パラリンピックの選手発掘会に参加。
上半身の力だけで競いあうパワーリフティングの次世代育成選手に選ばれました。
しかし1年後、国際基準のクラス判定会に参加した時、足の障害の程度が軽すぎるため出場資格がないと判定されてしまいました。

石河毅也さん
「目指していたものがいきなり絶たれてしまって、こういった不可抗力のようなものでさえぎられて、すごく悔しい思いをした。」

「クラス分け」の課題 専門家が足りない!?

日本には国際基準でクラス分け判定ができる専門家が足りない。

そう指摘するのが、クラス分けの知識の普及に取り組んでいる、指宿立(いぶすき・たつる)さんです。
自らも「国際クラシファイア」と呼ばれる、クラス分け判定の資格を取得して活動を続けています。

指宿立さん
「国際基準で展開していかないと、国内独自の解釈でやってしまうと、これまでやってきたことがムダになってしまう。」

国際クラシファイアは、それぞれの競技の国際団体が認定する資格です。
専門的な知識をもとに障害の「程度」や「運動能力」を国際基準に沿ってチェックし、クラス判定を行うことが出来ます。
今回NHKでは、国際クラシファイアについて日本の各競技団体に取材を行いました。

東京パラリンピックで実施される22競技のうち、専門の「国際クラシファイア」を組織の中に置いているのは8団体にとどまることがわかりました。

指宿立さん
「パラリンピック開催に向けて選手強化もあるが、選手強化とあわせてクラス分けに関することをわかりやすくしていく。
各競技団体が国際クラシファイアを増やしていくことも取り組んで行くべき。」

国際基準を積極的に取り入れる「卓球」

今、積極的に国際基準を取り入れようとしているのが「卓球」です。
この日は大会にあわせてクラス判定会を開いていました。

卓球の「国際クラシファイア」の資格を持つ鈴木聖一さんが、資格取得を目指している大野洋平さんとともに判定をしていきます。

国際クラシファイア 鈴木聖一さん
「手をバンザイできます?」

鈴木さんは、選手がどこまで体を動かせるかという、基本的な身体機能から実際の競技での動きまで確認していきます。
国際ルールでのチェック項目は実に100か所以上に上ります。

さらに、パラリンピック出場が夢だと語る高校生には、その場で厳しい判定結果を告げます。
障害の最小基準として定められているラケットを持たない腕の肘から下の骨の長さが3分の2以下という基準を満たしていなかったからです。

大野洋平さん
「3分の2より短くないといけないので、これ以上ある人は、ここから先がどんな形をしていても、クラス10(障害が最も軽いクラス)にならない。」

高校生
「2年後3年後に10(障害が最も軽いクラス)ではないと言われるよりは、今、この場でしれたので、メンタル的にはまだ軽い。
今しれてよかったと思います。」

国際クラシファイア 鈴木聖一さん
「不幸な人を減らすというのもあるし、競技自体のレベルを上げるためにも、国際クラシファイアがいた方が有利。」

国際クラシファイア 資格取得に壁も

高瀬
「取材した野尻ディレクターです。
育成選手に選ばれた後で、そもそも資格がないと判定されてしまうことがあるんですね。」

野尻ディレクター
「そうなんです。
国際クラシファイアがいれば、早い段階で別の競技へのチャレンジを勧めることもできたと思うんですよね。」

和久田
「競技を変えれば、出られる可能性があるかもしれないと。」

野尻ディレクター
「ただ、国際クラシファイアの資格を取るためのハードルが高いことも事実なんです。
まず、英語力。
ルールなどが書かれている資料は全て英語なんです。
そして、選手の障害の状態を判定するため医学の知識も必要です。
さらに海外で行われる講習会にも参加しなければなりません。
VTRに登場した卓球の資格取得を目指している大野さんは、医師として病院のリハビリテーション科で働きながら勉強を続けています。
海外での講習会への参加も、障害者スポーツに理解がある職場だからこそ認めてもらえると話していました。」

和久田
「こうした資格取得への何かサポートというのはあるんですか?」

野尻ディレクター
「日本障がい者スポーツ協会では、海外での講習会の受講料や旅費に助成金を出すなどしています。
しかしパラスポーツはボランティアに支えられているのが現状のため、なり手がなかなか増えないのが実情なんです。
東京パラリンピックで注目される今だからこそ、まずは国際クラシファイアの必要性を、1人でも多くの人に知ってもらうことが大切だと感じました。」

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