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2019年2月5日(火)

西日本豪雨7か月 堤防に“異変”

西日本豪雨からあす(6日)で7か月。
あの日、各地で川の水が堤防からあふれ、浸水被害が相次ぎました。
しかし、実は水があふれなかったところで、甚大な被害につながる危機が迫っていました。

住民
「川があふれないかぎり、(被害は)ないだろうと思っていたが…。」

一体、何が起きていたのでしょうか。

水は食い止めたのに… 堤防に“異変”

リポート:髙橋歩唯記者(松山局)

愛媛県南部を流れる肱川です。
西日本豪雨では、川の水が至る所で堤防を超え、肱川流域の町へと流れ込みました。

この地域では、堤防が水を食い止め、浸水の被害は免れました。
ところが、ある異変が起きていました。

住民
「こんなことになるとは。
ブロックの下あたりから、ごはんを炊いたときにぶくぶく出るような泡が出ていた。」

堤防近くの地面から噴き出したという、水や砂。
建物を傾けるほどの勢いでした。

これは、どういうことなのか。
愛媛大学の岡村教授は、堤防が破壊される危機が迫っていたとみています。

愛媛大学大学院理工学研究科 岡村未対教授
「漏水とともに(堤防から)砂が出て穴があく、『パイピング現象』。
かなり危ない状況だった。」

堤防決壊の脅威 「パイピング現象」

岡村教授が指摘する「パイピング現象」。
それは、増水した川の水が堤防の中に浸透することで起きます。
堤防の内部や地下に水の通り道ができ、パイプを通るように川の反対側に到達することから「パイピング現象」と呼ばれます。

この現象を再現した実験です。
土の壁を堤防、壁の向こう側を川として、水位を上昇させます。
すると、高い水圧でパイピングが起き、水や土が流れ出てきました。
堤防から水があふれるよりも気づきにくく、やがて一気に大量の水が流れ出し、決壊へとつながるのです。

この「パイピング現象」、過去の災害でも危険性が指摘されてきました。
7年前の九州北部豪雨では、福岡県を流れる矢部川でパイピングが起き、およそ50メートルにわたって決壊。
これを受けて、国が、管理している全国109の水系を調査したところ、95の水系で水が浸透しやすい堤防が見つかりました。

さらに、西日本豪雨でも、12の河川の28か所で川の水が堤防から漏れ出していたことが、NHKの取材で新たに分かりました。

なぜ、「パイピング現象」が起きるのか。
岡村教授は、堤防整備の歴史が大きく関係しているといいます。

愛媛大学大学院理工学研究科 岡村未対教授
「河川堤防は、主に江戸時代から、地域の住民や明治政府、昭和の時代、最近は国土交通省が少しずつ高くかさ上げ、拡幅している。」

土を盛り固めることでつくられてきた日本の堤防。
水害が起きるたびに、高くする工事が繰り返されてきました。

しかし、使われた土の質や、工事の仕方は一様ではありません。
中には粗い粒子や、押し固めが不十分な水を通しやすい層が存在します。
地盤も砂地が多く、ここにも水が浸透します。
さらに、堤防を高くしたこと自体にリスクが潜んでいました。
大雨で水位が上がるほど水圧が増し、堤防への負荷が大きくなります。
その結果、パイピングが起きやすくなるのです。

愛媛大学大学院理工学研究科 岡村未対教授
「堤防が高くなっているので水(位)がどんどん高くなり、(堤防の下の部分で)水圧はどんどん高くなる。
いたちごっこ。
高さだけでなく、質も重要だという次のステップに入り始めている。」

パイピング現象 リスクどう探す?

では、どうやってパイピングのリスクを探しだし、決壊を防ぐのか。
これまで国は、堤防を掘って内部を調べるボーリング調査を行ってきました。
しかし、膨大な距離の堤防を細かく把握するのには限界がありました。
そこで岡村教授は、ドローンを使って堤防内部の様子を把握する、新たな研究を進めています。
搭載したカメラやレーザーで、堤防の表面の凹凸を調べます。

パイピングが起きると、堤防の中の土が押し出され空洞ができます。
その空洞が重さで潰れることで、表面にへこみが現れます。
岡村教授の研究は、こうしたわずかな変化を1センチ単位で分析するというものです。

この技術を確立させ、将来的には、全国の堤防に潜む危険を、つぶさに把握することを目指しています。

愛媛大学大学院理工学研究科 岡村未対教授
「新たな技術で安全度を高めていける。
今あるたくさんの古い傷を負った堤防の健全度を調査して、どこが本当に危ないのか、優先順位をきちんとする。」

「パイピング現象」にどう備える?

高瀬
「取材にあたった松山放送局の高橋記者とお伝えします。
全国各地にパイピングのリスクがあるということですが、防ぐための手だてはあるのでしょうか?」

髙橋歩唯記者(松山局)
「パイピングのリスクがある場所では、堤防と川の間に金属の板を打ち込んだり、堤防の斜面をシートで覆ったりして、水が浸透しないようにする対策を行っています。
しかし、VTRにもありましたように、対策が必要な川は、国が管理する全国の109の水系だけでも95に上ります。
距離にすると延べ1,200キロを超え、時間や費用がかかるんです。」

和久田
「では近くに住んでいる人は、どうやってパイピングの危険から身を守ればいいのでしょうか?」

髙橋記者
「斜面から水が流れているとき、堤防に近い地面から水や砂が吹き出しているときは、大変危険です。
すぐに避難が必要です。

また、パイピングが少しずつ進行しているという場合もあります。
前回の大雨で大丈夫だから、今回も安心だということは決してありません。
増水したら早めに避難する、これが命を守るための最善の行動だと改めて知ってほしいと思います。」

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