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2018年10月16日(火)

「クロマグロ」大衆魚になり得るか?

高瀬
「海のダイヤとも呼ばれる『クロマグロ』。
安さを実現するある試みについてです。」

マグロの完全養殖 課題は価格

近畿大学が世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功してから、16年。
大手水産会社や商社も本格的な出荷を始めています。
しかしその価格は…。

男性客
「高いからなかなか…。」

女性客
「もうちょっと安いほうがいいですよね。」

割高なため、売られているのはデパートや高級料理店などに限られています。
なぜ、完全養殖のクロマグロは、もっと安くならないのでしょうか?


高瀬
「クロマグロは、2014年には絶滅危惧種に指定されるなど、漁獲量は国際的に厳しく制限されています。」

和久田
「そこで、大手水産会社が取り組んでいるのが『完全養殖』ですが、価格が高くなる大きな要因の1つが『エサ代』です。」

高瀬
「安いクロマグロの実現に向けて試行錯誤する現場に密着しました。」

カギを握るのは「エサ」

報告:平瀬梨里子(NHK松山)

完全養殖のクロマグロの生産が行われている、愛媛県愛南町の養殖場です。
水産会社と飼料会社が出資して作りました。
この会社が取り組んでいる完全養殖です。
人口的に育てた親のクロマグロが産んだ卵を網で採取します。

これがクロマグロの卵です。
その卵からふ化したのが、「仔魚(しぎょ)」と呼ばれる赤ちゃんです。

体長はわずか3ミリです。
ふ化からおよそ15日までの「仔魚」の期間をどう成長させるか。
カギを握るのは、エサです。
この会社が与えていたのは、なんと「タイの赤ちゃん」でした。
動いている魚しか食べないと言われていたからです。

しかし、このエサには莫大なコストがかかっていました。

タイの管理者 佐野亘さん
「マグロのエサのためだけに飼っている。」

このエサを確保するためには、タイに産卵させないといけません。
そのために、タイ専用の水槽を用意し、産卵しやすい水温を保つなど、多額の経費がかかっていたのです。

タイの管理者 佐野亘さん
「この一個の水槽をつくのに何百万もかかってまして、毎月の電気代も百万単位でかかっております。
ランニングコストと設備の代金だけでも相当だと考えています。」


ふ化からわずか15日間にかかるエサのコストは、出荷までのコストの1割も占めていたのです。

新たなエサの開発

さらに、悩ましい問題は、これだけ費用をかけているのにもかかわらず、生存率が極めて低いことです。
この会社の場合、ふ化してからひと月間を生き延びるのは、わずか1%だと言います。

そこでこの会社では、6年前から、安くて生存率が高くなる、新たなエサの開発に乗り出しました。
まず試したのが、生のしらすを練ったエサです。
生の魚の風味があるので、きっと食べてくれるだろうと思いましたが、結果は失敗。
今度は生のしらすをゼリー状にして、タイの赤ちゃんに似せました。
クロマグロは目がいいので、見た目をそっくりにする作戦です。
しかし、これも失敗。
結果を出すことはできませんでした。

転機が訪れたのは4年前。
少し成長したクロマグロの赤ちゃんが食いついたエサがありました。
そのエサには、ホタテのエキスが含まれていました。
水中に溶け出したホタテのエキスが、クロマグロの嗅覚に反応し、
「むむ、これはおいしいぞ」と感じたのではないかと、この会社は分析しました。

この一件をきっかけに、開発したのがこちら。
ホタテのエキスを加えたエサです。
ホタテのエキスで美味しいと感じてもらい、さらにエサに含まれるビタミンなどによって、生存率UPにつなげようという狙いです。

マグロ飼育担当 岡田康孝さん
「もしかしたら餌づかないかもしれない。
そこらへんが不安なのは不安です。」


ようやく出来上がった新しいエサをこの日初めて、ふ化したばかりの「仔魚」に与えます。
エサが投入されました。
反応はどうでしょうか?

黄色い丸で囲んだのがクロマグロの仔魚です。
まっしぐらにエサに向かって行きます。

マグロ飼育担当 岡田康孝さん
「食べてますよ!」

多くのクロマグロがエサに集まりました。
「生きていないエサ」を初めて食べたのです。
読み通り、ホタテのエキスがクロマグロの味覚に訴えたようです。
エサに栄養分が加わったことで、生存率をおよそ2倍にすることにも成功しました。

マグロ飼育担当 岡田康孝さん
「エサの認識もちゃんとしてるんで。
食べてもらって、成長して、生存してもらうということです。」


エサのコストを下げ、生存率を高めることで、出荷までのコストを2割以上減らすことができると、この会社は見込んでいます。

極洋フィードワンマリン 林泰史社長
「価格が下がれば下がるほどすそ野が広がりますので、多くの人に食べていただきたい。」

養殖マグロを大衆魚に

高瀬
「この会社では今はまだ最終的な販売価格をどれくらい下げられるか、試算はできていませんが、成長したクロマグロ、成魚のエサ代の削減にも挑戦し、『大衆魚』を目指そうとしています。」

和久田
「また、天然資源に負荷をかけないという点を売りにして、欧米への輸出にも力を入れたいと考えています。」

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