これまでの放送

2018年10月14日(日)

人手不足なのに…“派遣切り”が再び?

小郷
「かつて、東京・日比谷公園にできた『年越し派遣村』です。」

新井
「10年前に起きた『リーマンショック』で派遣労働者が突然、契約を打ち切られる『派遣切り』が相次ぎ、仕事や住まいを失った人たちのために炊き出しが行われました。」

小郷
「あれから10年。
景気の回復で深刻な人手不足も叫ばれる中、再び、派遣労働者が仕事を失ってしまうおそれが出てきています。」

「物のように使い捨てにされたくない」

10年前、大手トラックメーカーから「派遣切り」にあった鈴木重光さんです。
工場でおよそ4年間、ブレーキペダルなどの取り付け作業をしていた鈴木さん。
突然の契約打ち切りで、派遣会社の寮からも退去を迫られました。
当時、その理不尽さを、街頭でマイクを握り、訴えていました。

鈴木重光さん(当時)
「正社員と同じように仕事をしてきて、切られるのはいちばん最初。
こういう方法に納得がいかないまま、寮を出なければいけない。」

その後、鈴木さんは解雇は不当だと裁判を起こし、正社員として働き続けることを訴えました。
しかし、職場に戻ることはできませんでした。

鈴木重光さん
「企業も人ひとりを人間と見るというより、材料の一部という認識。
やっぱり使い捨て。」

「二度と物のように使い捨てにされたくない」と感じた鈴木さん。
自分にしかできない仕事がしたいと、現在は徳島県の非常勤職員として地域の町おこしに携わっています。

鈴木重光さん
「派遣切り自体、本当に悔しい思いをした。
僕の社会的な立ち位置が分かったことが、いちばん大きかった。」

法律改正しても… 止まらない“派遣切り”

国は、派遣切りが相次いだことを受けて、3年前に労働者派遣法を改正しました。
派遣で働く人たちのキャリアアップと雇用の安定が目的です。
その仕組みです。
企業に派遣されて3年を迎えた人が、引き続き「働きたい」と希望した場合、派遣会社は勤務先の企業に「直接雇用するよう依頼する」「正社員などとして雇用する」「別の新しい職場を紹介する」など、いずれかの取り組みを義務づけたのです。

しかし今、派遣で働く人たちを支援する団体には相談が相次いでいます。
先月(9月)だけで、相談した人は、およそ200人に上ります。

派遣ユニオン 関根秀一郎書記長
「切られてしまって、どうしようというような追い込まれ方をされる人がたくさんいる。
これから増えるだろうと思う。」

寄せられた相談の多くは、法律で目指したはずの直接雇用や正社員になれず、希望する別の職場も紹介されずに、職を失ってしまうという訴えでした。

神奈川県の40代の女性です。
今年(2018年)8月、突然「雇い止め」を迫られました。
この女性は、半導体の設計メーカーで、3年前から派遣社員として働いています。
女性はコンピュータを用いて、部品を設計する仕事を担当していました。
自ら専門書を読み、ノートにまとめるなどして、スキルを高めてきました。
他の社員の指導も任されるほどになり、将来は、正社員に登用されることも期待していました。

40代 派遣社員
「生き残っていくためには、勉強して知識を蓄えて、自分自身も成長していかなければいけないと感じていた。」

しかし、勤務先から、正社員などにはできないと伝えられました。
派遣会社から紹介されたのは学校の事務職。
これまで培ってきた専門性とは関係のない仕事でした。

40代 派遣社員
「頭が真っ白になるという感じ。
3年間、今までやってきた知識を無にしてしまう。
自分ってもういらないのかなという感じ。
やりがいを尊重してくれる法律ではないなというのはあります。」

報告:榎園康一郎(社会部)

再び 大量の派遣切りが起きる可能性も?

小郷
「取材にあたった社会部の榎園記者です。
法律の改正で、派遣労働者から正社員など雇用の安定を図ろうとする流れを作ろうとしているのに、それに逆行する形が出てきているんですね。」

榎園康一郎記者(社会部)
「VTRで紹介した女性は、設計の仕事がなく雇い止めになると、収入がなくなり、生活に困ることなどが理由で、やむなく来月(11月)から、派遣会社から紹介を受けた事務の仕事を始めることになりました。
雇用の安定やキャリアアップを進める法律を反映しない、皮肉な現状が相次いでいるんです。」

小郷
「法律を改正したのに、なぜこのようなことが起きているのでしょうか?」

榎園記者
「結局、企業の努力に委ねられているからです。
法律で雇用の安定などが義務づけられたといっても、いわば“努力目標”にすぎず、実効性が伴わない可能性があると指摘する労働組合もあります。
こうした中で、リーマンショックのような事態が起きたらどうなるのか、専門家は次のように指摘しています。」

法政大学 浜村彰教授
「景気が悪化してどこも縮小している場合、人員が全体として余剰している。
結局、派遣労働者が解雇されてしまう。
その構造は今も変わっていない。
もし景気が悪化して、日本の企業が生産縮小、業務縮小した場合、また大量の派遣切りが起きる可能性は非常に高い。」

新井
「再び派遣切りが起きるリスクがあるということなのでしょうか?」

榎園記者
「起きないとは言えないと思います。
やはり国が、企業や派遣会社に対して法律の趣旨を守るよう徹底して呼びかけ、派遣で働く人たちが望む形になるようにチェックしていくことが必要だと思います。」

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