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2018年9月15日(土)

出版から10年で“大ヒット” 「友だち幻想」のメッセージ

東京都内の大型書店。
新刊に混じって平積みされているのが、『友だち幻想』という本です。
出版されたのは、なんと10年前。
じわじわと版を重ね、この夏には、新書としては大ヒットの累計30万部を突破しました。
著名人も相次いでコメントを寄せるなど、大きな話題を呼んでいます。」

新井
「この『友だち幻想』。
『学校での人づきあい』に悩む、中高生向けに書かれた本です。
友だちは大切でも、『100%自分を理解してくれる友だちはいない』ため、『時には距離を取ってもいい』と、『苦手な相手ともうまくつきあっていく作法』が書かれています。」

小郷
「新学期も始まりました。
学校で過ごしづらいと感じる子どもたちにとって、“現代の処方箋”ではないかと広まっているこの本。
なぜ、今になって受け入れられているのでしょうか。」

“無理に仲良くしなくていい” 『友だち幻想』のメッセージ

リポート:国枝拓(科学・文化部)

『友だち幻想』より
“『みんな仲良く』。
そうした発想から解放されなければならない。”

「友だち幻想」。
作者は、宮城教育大学の教授だった菅野仁(かんの・ひとし)さんです。
2年前、56歳の若さで他界しました。

本を書いたきっかけは、小学生だった長女がクラスメートとの関係に悩んでいたことでした。
難解な表現を避け、時にイラストを使いながら、「仲良くしようと無理に距離を縮めなくてもいい」と呼びかけます。

『友だち幻想』より
“『自分というものをすべて受け入れてくれる友だち』は幻想なんだ。
わかりあえないなと思ったときは、やはり距離をとればいい。”

出版から10年たった今、この本はなぜ受け入れられているのか。
今年(2018年)初めて課題図書にした、東京都内の中学校を取材しました。
担当した岡本拓也先生です。
今年6月、3年生280人にこの本を薦め、読書感想文を書いてもらいました。

成城中学校教諭 岡本拓也さん
「僕らは“仲良くしなさい”というふうに教わってきた年代だと思う。
“共に生きなさい”という言葉のほうが、今の彼らにはしっくりくるのかなと思う。
じゃあ、共に生きていく上でどうしていけばいいのかと悩み始める時期だと思う。
(学生にとっては)よい本だなと思う。」

生徒たちの感想文です。

“相手に反応をすぐ返さないといけないと思い、スマホを持ってしまう。”

“LINEの返信やら、本当はやりたくないこともやったりしていた。”

現代の若者ならではの悩みがつづられていました。

そうしたつきあいを重荷に感じていたと書いた生徒がいます。
佐々木高寛(ささき・たかひろ)くんです。
入学当時、すぐに友だちの輪に入ろうと、クラスで流行っていたスマホのゲームを始めました。
やり取りしながら遊ぶゲームだったため、グループで決められた時間にスマホを操作しなければならないことに、次第に息苦しさを感じるようになりました。

成城中学校3年生 佐々木高寛くん
「グループから外されそうになると、本当に不安になる。
不安になった夜は、(次の日の)朝、すごい友だちに優しくする。
奉仕をして、友だちとの関係をうまく無理やりにでもつなごうとやっていた。
疲れる、いつの間にか疲労がたまっていた。」

一時は登校したくなくなるほど悩んだという佐々木くん。
「友だち幻想」の、ある言葉にはっとさせられました。

『友だち幻想』より
“友だちが大切、でも友だちとの関係を重苦しく感じてしまう。”

成城中学校3年生 佐々木高寛くん
「あれ、俺じゃね、と思った。
“親友”とは、ずっと楽しくて、一緒に肩取り合いながら泣いて笑うみたいなものかと思っていた。
この本を読むと、“親友というのもいろいろな形がある。親友の理想像は幻想なんだ”と(本が)言ってくれて、本当に驚がくさせられた。
距離が近いわけでもなく、いつのまにか自分たちの距離になっているのが本当の友だちなのかな。」

自分が心地よいと思える距離感をとっていいんだと気づいたあと、友人関係の悩みはなくなったといいます。

“父親的視点” 人づきあいに悩むすべての人へ

菅野さんが亡くなって2年。
仙台市の自宅の書斎で、あるものが出てきました。
菅野さんは、最期まで『友だち幻想』の初版本を愛用の鞄に入れて持ち歩いていました。

「人と違うことへの恐怖」「人間関係のシビアさ」。
本のいたるところに、手書きのメモが残されていました。

菅野さんは、時代の変化に応じたメッセージを常に発信しようと模索を続けていたと、妻の順子さんは言います。

妻 菅野順子さん
「あれを書いたから終わりではなく、何回も読み返して、今の人たちはどうなのかと考えていた。
自分の文章で何か力になれたらと、父親的視点で、文章の中に力を入れて書いていた。」

菅野さんは、人づきあいに悩むすべての人に呼びかけます。

『友だち幻想』より
“当然のことですが、気の合わない人間とも出会います。
そんな時に、『並存』できることが大切なのです。
人はどんなに親しくなっても他者なんだということを意識した上での、信頼感のようなものを作っていかなくてはならないのです。”

新井
「スマホやSNSが普及して、子どもたちをめぐる環境はだいぶ変わりましたよね。
ポケベル世代の私たちとは比べものにならないほどだと思うんですが。
そうした背景があるからこそ、出版されてから10年たった今、再び共感を呼んでいるのかもしれませんね。」

小郷
「距離をとるのは難しいと思うんですが、友だちにもいろいろな形や距離感があるということを知るだけでも楽になるというのはあるかもしれませんね。」

* 記者の取材実感を含めた記事はこちら

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