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2018年7月26日(木)

障害者殺傷事件 被害者と家族の2年

和久田
「相模原市の知的障害者施設『津久井やまゆり園』で入所者ら46人が殺傷された事件から、今日(26日)で2年です。
事件を起こした植松聖被告は『意思疎通のできない人間は生きる価値がない』という、理不尽な理由で多くの命を奪いました。
被告の言葉に深く傷ついた被害者家族にとってこの2年間は、事件を乗り越えようと向き合い続ける日々でした。」

「命は同じなんです」

リポート:鵜澤正貴(NHK横浜)

事件の3週間後、重傷を負った息子を見舞う家族がいました。
尾野剛志さんと、妻のチキ子さんです。
のどや腹など5か所を刺されて、一時意識不明となった息子の一矢さん。
被害を受けたショックから落ち着きを取り戻せずにいました。

尾野剛志さん
「完全に情緒不安定になっている、いまの状態は。
お前が泣いてどうするの。
一矢が泣かないのに。」

尾野さんは、息子の存在を否定した植松被告の言葉に強い憤りを感じていました。

尾野剛志さん
「植松被告の言っている『障害者はいらない』というのは違う。
障害があって生まれてこようが、命は同じなんですよ。」

息子への向き合い方

重い知的障害がある一矢さん。
自傷行為などの行動を抑えられず、家族だけでは見られなくなったため、12歳からおよそ30年施設で暮らしてきました。
クリーニング店を営んでいた尾野さん夫婦は仕事が忙しく、一矢さんに会いに施設を訪れるのは月に1回程度でした。
事件の後、尾野さん夫婦の息子への向き合い方は変わっていきました。
心身に傷を負った一矢さんを心配して、毎週欠かさずお弁当を持って通うようになったのです。

植松被告の言葉を否定する一方で、自分たちがどれだけ息子に向き合ってきたのか自問することもあったからです。

尾野剛志さん
「忙しいとき施設に預かってもらったし、仕事もできた。
『預かってもらっている』と、心でほっとしている部分があった。
一矢に向き合っていかなかった自分もいた。」

こうした日々を重ねること1年あまり。
一矢さんはこれまでにない姿を見せ始めていました。
以前に比べて、自分の意思を表すようになったのです。

尾野剛志さん
「もう一つくれる?
ありがとう。
おいしい。」

尾野剛志さん
「表情はいい。
すごく落ち着いたから。」

本人の意思を尊重した暮らし

先月(6月)尾野さんは地域の中で暮らす障害のある男性のもとを訪ねました。
施設を出て、一矢さんの意思を尊重した暮らしが出来ないか、探り始めたのです。

桑田宙夢(くわだ・ひろむ)さん、22歳です。
重い知的障害がありますが、介助を受けながら施設や親元を離れてアパートで暮らしています。
施設にいた頃は精神的に不安定で、自傷行為もあった宙夢さん。
3年前に今の暮らしを始めてから、自分で意思表示をするなど、大きく変わったといいます。

介助者
「これは食べる?
サラダ、いる?
いらない?」

桑田宙夢さん
「いらない。」

宙夢さんの母 桑田貴江子さん
「最近は本当に落ち着いて、ことばも増えましたし、できることも増えてきた。」

宙夢さんのような生活を初めて目の当たりにした尾野さん。
地域の中での暮らしを後押しされたように感じました。

尾野剛志さん
「じっと座っていられるのはすごい。」

宙夢さんの母 桑田貴江子さん
「変わりました。
本当にこういう生活させていただいて。
社会に出て、いろいろなヘルパーさんたちとつきあって、経験を積んでいった。
その成果なのかなと思います。」

「向かい合えばちゃんと伝わる」

2年間尾野さんたちが毎週重ねてきた、家族の時間。
この日、一矢さんがある変化を見せました。

「両親が来て楽しいですか?」

尾野一矢さん
「楽しい。」

「ごはんはおいしかった?」

尾野一矢さん
「おいしかった。
おにぎりおいしかった。」

尾野チキ子さん
「初めてだよ。
聞いて、ちゃんと答えてくれたのは。
初めてです。
びっくりした私。
このうれしそうな顔。」

初めて私たちの問いかけに答えてくれたのです。
事件から2年たった今、尾野さんは「障害があってもなくてもその命を誰かが否定することはできない」と改めて強く感じています。

尾野剛志さん
「障害を持っている人たち、みんな意思があるし、意思の疎通はこっちが向かい合えばちゃんと伝わる。
本当にみんな、いきいきと生きているんだよ、と。」

命の価値を他人が決めてはならない

高瀬
「少しずつ前へ進む尾野さんご一家の姿を見て感じるのは、やはり、人の命の価値を他人が決めてはならない、あっていいはずがないということです。
同時にこの事件をしっかり受け止めているのか、目をそむけてはいないか、そう問われているような気もしました。」

和久田
「NHKでは事件のあと『19のいのち』という特設サイトを開設しています。
この2年、わたしたちは事件をどう受け止め、どう行動してきたでしょうか。
いのちについて社会について、今みなさんが考えることをぜひお寄せください。」

■「19のいのち」 https://www.nhk.or.jp/d-navi/19inochi/

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