これまでの放送

2018年7月17日(火)

ハンセン病 どう語り継ぐか

和久田
「ハンセン病についてです。
ハンセン病は『らい菌』による感染症で、進行すると体の変形などを引き起こすことがあり、戦後になって治療法が確立した後も患者たちは長い間厳しい差別を受けてきました。
国はかつて隔離政策を進め、患者たちは全国の療養所に入所させられました。」

高瀬
「当時を知る元患者の高齢化が進む今、ハンセン病の記憶をどう語り継いでいくのかが課題になっています。」

高齢化する元患者 新たな語り部は…

東京にある国立ハンセン病資料館です。
ハンセン病の正しい知識と差別の歴史を伝えています。
学芸員の田代学さんです。
いま危機感を感じているのが元患者の高齢化です。
今年(2018年)1月、資料館に常駐していた元患者が亡くなり、経験を直接語る「語り部活動」が続けられなくなったのです。

学芸員 田代学さん
「当事者なので実体験でもあり、来館者の心につきささっていた。
それができなくなり、当館としても非常に痛手。」

田代さんは今、新たな語り手を必死に探しています。
しかし全国の療養所に入所している元患者の平均年齢は、85.5歳。
体調面の不安などから、断られることがほとんどです。
この日、田代さんは、語り手になってほしいとお願いしていた元患者に直接会いに行きました。
69歳のこの男性。
打ち明けたのは、今なお続く差別への恐怖でした。

元患者の男性
「おいっ子、めいっ子、その下の世代にやっぱり影響する。
結婚しようとしていたのがおじゃんになったと何人かに聞いている。
偏見というか差別はやっぱり消え去らない。
自分のことになると人間というのはついつい(偏見や差別が)出てくる。」

その一方で、3年前にがんの手術をした男性は元患者が減っていくなか、誰かが伝えなければならないという思いも抱いていました。
そこで田代さんは、男性の不安を減らすために写真や詳細なプロフィールは公表せず、少人数を対象に話すことを提案。
男性も語り手になることを受け入れました。

元患者の男性
「俺の世代が最後に残ると思うし、われわれが生きてきた証明はしたい。」

学芸員 田代学さん
「いまだに(家族に迷惑をかけると)悩まれているというのが、ハンセン病の回復者の名誉回復がされていないことなのではないか。
その人が話していいと言ってくれることに、どこまで私たちが勇気づけてあげるか。」

差別の中 生きてきた元患者の思い

男性が初めて経験を語る日。
およそ30人が集まりました。
この日は男性が話しやすいよう、館内の展示をめぐりながら、これまで見聞きしてきたことを振り返りました。

元患者の男性
「子どもができちゃった。
婦長が赤ちゃんをうつぶせにして声が出なくなった。
今でいえば完全な殺人だと思う。
いかに人間を人間として扱わなかったか。」

学校の写真の前では、みずからの体験談も。

元患者の男性
「当時の先生は非常にわれわれのことを嫌っていて。
われわれの触ったチョークは持たない。
ずいぶん僕は幻滅した。」

田代さんも話にあわせてパネルを見せてサポートします。
男性が一番時間を割いたのは、陶芸のこと。
苦しみの中で見いだした生きがいでした。

元患者の男性
「何かひとつ自分の得意なものを追求していくと、それが自信になる。
自信になるということはその人間の強みだから、生きていく力もわくのではないか。」

差別の中で生きてきた元患者の思いは、訪れた人たちの心を動かしました。

元患者の男性
「ありがとうございました。」

元患者の貴重な言葉を後世に

参加者
「自分にとって彼の受けてきた差別がすごく自分ごとになった。」

参加者
「いただいた言葉を、僕は友達や後輩に伝えていくのは大事だと思っています。」

元患者の男性
「緊張したし、疲れた。
でも真剣に聞いてくれたから。
目つきが違うから。
ほっとしたし、うれしかった。」

田代さんは、元患者たちの貴重な言葉を、後世につないでいく必要を改めて感じています。

学芸員 田代学さん
「これだけ差別と偏見に立ち向い、生き抜いてきた人がいた。
社会の人々にもそういった話、1つ1つが大きな学びになる。
そういった話を1人でも多く聞きたいし、記録として残していきたい。」

ハンセン病の問題 風化させないために

和久田
「取材した首都圏放送センターの間野記者です。
いまだに差別への不安は根強く残っているんですね。」

間野まりえ記者(首都圏センター)
「私も取材を通して、いまだに元患者たちの名誉回復は果たされておらず、差別に苦しんでいることを実感しました。
学芸員の田代さんは、元患者の元へ何度も通い、こうした不安を聞き取りながら協力者を集めています。
さらに人前では話すことができない人の経験を記録として残す活動も始めていて、全国をわたり歩いてこれまでに69人の証言を集めたということです。」

高瀬
「体験した人がいなくなっていく中で、どうやってその記憶を伝えていくのかというのは、戦争体験などにも共通しますが難しい課題ですよね。」

間野記者
「国の研究会もハンセン病の問題が風化する恐れがあると危機感を感じていて、原爆資料館の取り組みなども参考としながら、元患者ではない人を伝承者として育成することも最終的に必要だという提言を出していて、ボランティアガイドの養成などの取り組みを拡大する検討も必要だとしています。
元患者たちの声を聞くことができる今こそ対策が必要だと感じました。」

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