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2018年7月13日(金)

強制不妊手術 当事者が独自調査 実態は…

高瀬
「『旧優生保護法』をめぐる動きについてです。」

和久田
「『不良な子孫の出生防止』を掲げ、知的障害や精神障害のある人など、少なくとも全国のおよそ1万6,500人が不妊手術を強制されたこの法律。
当事者を特定できる資料は少なく、誰がどのように手術を強制されたのか詳しい実態は分かっていません。」

高瀬
「そうした中、障害のある人たちの当事者団体が独自に調査を始め、少しずつその実態が見えてきました。」

こんな法律がなかったら…

リポート:吉田敬市(NHK神戸)

今、聴覚障害者の団体が全国で進めている不妊手術についての調査。
不妊手術を受けた可能性がある聴覚障害者を訪ねています。
この日は、神戸市に住む高木賢夫さんのもとを訪れました。
高木さんは50年間手術のことを誰にも言えずにいましたが、今回初めて実名で公にしました。

手術を受けたのは29歳の頃。
結婚の2か月ほど前でした。
何の説明もないまま、突然親族に病院に連れて行かれたと言います。

高木賢夫さん
「病院に連れていかれ、ズボンを下ろされた時にわかりました。
手術のことなんて聞いていませんでした。
通訳があれば反論もできたのかもしれません。
手術をしたことを彼女(妻)に伝えると、とてもショックを受けて涙していました。」

高木さんが手術のことを黙っていたのは世間の目を気にしたためだと言います。
しかし今、法律によって同じ経験をした人が多くいることを知り、国を訴える決意を固めています。

高木賢夫さん
「こんな法律がなかったら子どもを持つことができたはずです。
原因は国なんだ。」


ひょうご聴覚障害者 福祉事業協会 大矢暹さん
「(調査によって)第2第3の高木さんが出てくるだろうと思っています。」

手術の手記「強い怒りと深い悲しみ」

調査が進むなか、手術のことを詳しく記した手記を残している人がいることもわかりました。
兵庫県洲本市の勝楽佐代子さんです。
3年前に亡くなった夫の進さん。
2人が出会ったのは、聴覚障害者の会合に向かう列車の中でした。

調査員
「先に好きになったのはあなた?」

勝楽佐代子さん
「そう、彼がすてきだったから、私が捕まえたの。
とてもいい男だったわ。」

進さんが残した手記です。
30歳のころ、弟に病院に行くように言われ受診するとその場で手足を縛られ、手術を受けさせられたといいます。

進さんの手記
「結婚して子どもを生んで、楽しい生活を夢見ていたのに、その夢は壊れました。
強い怒りと深い悲しみに明け暮れました。」

勝楽佐代子さん
「(手術について)そういう話をされて、受け入れるしかなかった。
しかたなかったの。
(手術は)親どうしが勝手に決めたの。」

調査員
「それはつらかったですね。」

自分の子どもが生まれていたら…

勝楽さん夫婦は産み育てることがかなわなかった子どもの代わりにと、30年以上にわたって人形を作り続けてきました。

勝楽佐代子さん
「容器にひもや布をつけて作るのよ。
みんなきれいな顔だちしてるでしょう。
帽子をかぶった男の子は夫が10日もかけたのよ。」

2人が心を込めて作った人形たち。
その数は50体を超えました。

調査によって、少しずつ明らかになり始めた当事者の深い苦しみ。
進さんは、人形に託したやり場のない思いを亡くなる前、手記につづっていました。

進さんの手記
「私たちはどんな気持ちでこの人形をつくりあげたと思われますか?
もし自分の子どもが生まれていたらどんな子どもになっていただろうと想像しながら…。
私たち夫婦ふたりの子どもです。」

当事者の証言 尊重する枠組みを

高瀬
「この聴覚障害者の団体が進めている調査によって、不妊や中絶の手術を強制された可能性のある人は、少なくとも70人いることが分かったということです。」

和久田
「調査は8月まで続け、人数や詳しい証言内容を報告書にまとめ、公表することにしています。
社会部の斉藤記者に聞きます。
この強制不妊手術の実態を当事者みずからが調査しなければならないのはどうしてなのでしょうか?」

斎藤隆行記者(社会部)
「公的な資料の多くが残っていないためです。
手術が実際に行われたのは昭和30年代がピークで、多くの資料がすでに廃棄されたとみられています。
VTRの2組の夫婦も実は資料が見つかっていません。
NHKの先月(6月)の調査でも、個人が特定できる資料は全体の3割しか見つかっていませんでした。
国や自治体だけの調査では実態を明らかに出来ないと、当事者団体みずからが調査を始めているんです。」

高瀬
「今後、国はどう対応していくのでしょうか?」

斎藤記者
「国は昨日(12日)調査範囲を広げて、病院や障害者施設などにも資料が残っていないか調べていく方針を決めました。
こういった調査を国や自治体は徹底して行っていく必要があると思います。」

高瀬
「取り返しのつかないことが行われたわけですが、今後当事者をどう救済していくかが焦点になりますよね。」

斎藤記者
「国は今“救済制度”を検討していますが、資料がない人を手術が証明できないからといって救済の対象から外すことはあってはならないと思います。
“子どもを生み育てる”という個人の権利を国が奪った旧優生保護法は、今ふり返ればまさに悪法であったことに疑いの余地はありません。
当事者の証言を最大限尊重し、手術の痕や周囲の証言を証拠として救済につなげる枠組みを作るべきだと思います。」

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