これまでの放送

2018年7月5日(木)

豪雨災害から命を守るには

高瀬
「九州北部豪雨では、従来の避難方法が通用しないという厳しい現実が浮かび上がりました。」

水害の避難「水平」「垂直」大きく2つ

和久田
「これまでの水害の避難は、大きく2つありました。
1つは、指定された避難場所へ行く『水平避難』。
一方、浸水が始まるなどして、それが難しい場合、自宅の2階などに移動する『垂直避難』です。
ところが去年は、特に『垂直避難』が通用せず、多くの犠牲者が出ました。」

高瀬
「どうすれば命を守れるのか。
専門家の調査に同行したところ、そのヒントが見えてきました。」

9割が家で被災

リポート:山口健記者(社会部)

東京理科大学の二瓶泰雄教授の研究グループです。
どんな場所に建つ家が危ないのか、1年かけて被害を受けた朝倉市の住宅を1軒1軒調べてきました。
もっとも大きな被害を受けた、山あいを流れる赤谷川とその周辺です。
この地域にある600あまりの住宅のうち、流されたり2階まで浸水したりしたのは、およそ140棟。
被害は川沿いや崖の近くに集中していました。
ここに、亡くなったり行方が分からなくなったりした22人が、どこで被災したかを重ねてみます。
9割にあたる20人が、当時、家の中にいたことが分かりました。

規模により「垂直避難」が通用しないことも

二瓶教授は、豪雨の中多くの人が避難場所に行く「水平避難」ができず、自宅ごと流されたとみています。

東京理科大学 二瓶泰雄教授
「川の氾濫した水で、家屋が流されたり大きな被害を受けた場所。
この辺り大きい特徴的な場所ではないかと思う。」

当時、多くの人が家の2階以上の高い所に移動する「垂直避難」をしたと見られています。
「垂直避難」は近年の豪雨災害で数多く使われるようになり、去年の九州北部豪雨でも繰り返し呼びかけられました。

2017年7月5日 気象庁の会見
「すでに外に出ることが危険な場合には、家の中でも2階や崖の反対側などのより安全な場所に退避するなど、身を守るため最善を尽くしてください。」



「垂直避難」が呼びかけられるようになったのは、9年前(2009年)兵庫県佐用町で起きた豪雨災害がきっかけでした。
浸水した道路を歩いて避難場所に向かっていた多くの人が、用水路に流されるなどして犠牲になりました。

これを教訓に今回も呼びかけられた「垂直避難」。
それが通用しなかったのです。

東京理科大学 二瓶泰雄教授
「非常に規模が大きい洪水になると、2階に避難したとしても家ごと流される可能性がある。
家の中にいれば100%安全というわけではない。」

高台の住宅に自分たちの避難所を

「垂直避難」すら通用しなかった今回の災害。

一方、独自の方法で命を守った人たちがいたことが明らかになりました。
赤谷川の上流にある本村集落です。
大雨の際には、高台にあるこの住宅に自主的に避難することをあらかじめ住民の間で決めていました。
NHKが上空から撮影した画像をもとに作成した立体地図です。
川沿いの多くの住宅が流されたり浸水したりする中で、まったく被害を受けなかったこの家。

氾濫した赤谷川の川岸から、3.6メートルの高さに建っています。
去年7月5日、避難指示が出される2時間前に、まず近くに住む90代の女性が避難。
その後、当時集落にいた住民の半数が避難してきました。
住民たちがこの家を自主的な避難場所に選んだのは、過去の水害の経験がきっかけでした。
市の指定した避難場所は、集落から1キロ離れています。
川が氾濫して集落が孤立し、行けなかったことがあるのです。

本村集落の住民
「6年前の水害で(指定)避難所に 私たち行けなかった。
これでは避難所の意味がない。
“自分たちは自分たちで避難所を作ろう、どこかにしないといけない”。」

住民同士で話し合った結果、高い場所に建つこの家がもっとも安全だと考えて、大雨の際には早めに集まることにしました。

住民
「高台です。
山も後ろのほう(遠く)に控えているし、一番安全な所はどこかと言ったらこの家が一番大丈夫。」

「豪雨避難スペース」全国に広めるべき

二瓶教授の調査では、同じように浸水を免れて避難に適していた家が他にもあることがわかりました。
共通するのは、川岸からの高さが3メートル以上あること。

二瓶教授はこうした場所を「豪雨避難スペース」として、全国に広めるべきだと訴えます。

東京理科大学 二瓶泰雄教授
「川の氾濫・土砂災害を受けにくい場所が、多くはないが、少なからず残されていた。
これを教訓にして、相対的に安全な場所を、いろんな集落ごと・川ごとに見ていく大きいヒントになるのではないか。」

早めの「水平避難」命を守る「豪雨避難スペース」

和久田
「去年の九州北部豪雨で見えてきた避難の課題について取材にあたった、社会部の山口記者です。」

高瀬
「この『垂直避難』は、私たちもこれまで大雨のたびに呼びかけてきたんですが、それが通用しなかったということは、これからどうすればよいのでしょうか。」

山口記者
「『垂直避難』はあくまで“最後の手段”です。
最も重要なのは、早めの『水平避難』だと再認識する必要があります。
その上で、指定避難場所への移動が難しい場合に二瓶教授が提案するのが『豪雨避難スペース』です。」

和久田
「具体的にはどのようなものなのでしょうか?」

山口記者
「二瓶教授の調査では次のような条件の場所が被害を免れていました。
まず、住宅が建っている地盤の高さが川岸から3m以上、できれば5m以上あるところ。
また、山やがけから離れていて、敷地が広くなだらかなところです。
こうした場所を自治体などとも相談しながら『豪雨避難スペース』に決める必要があると思います。」

高瀬
「一般の住宅を利用するとなると、普段から住民同士の結びつきが大事になってきますね。」

山口記者
「そうですね。
今回の豪雨の教訓の一つは、山あいを流れる中小河川があっという間に氾濫し、避難できる時間が少なかったことでした。
大雨が予想される際には安全な場所に早めに移動し、何も被害がなければまた日常の生活に戻る。
これを繰り返すことが、いざという時に命を守ることにつながると、今回の取材を通して強く感じました。」

Page Top