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2018年6月7日(木)

年金データ 大量の入力ミスが起きた理由

高瀬
「続いては、年金の支給額にミスがあった問題です。」

年金の受給額が減った人 およそ10万人

和久田
「こちらの用紙を目にしたことのある方は、多いのではないでしょうか。
年金の支給額に影響する重要な申告書です。
扶養家族がいるのか、いる場合、その収入がいくらかなどを申告することで、受け取れる年金が変わってくるというものです。

例えば、配偶者と離婚したり死別したりした人が家族を養っている場合に丸をつける欄や、配偶者に障害がある場合に丸をつける欄など。

当てはまる場合には、年金を受け取れる額が多くなります。
ところが、丸をつけているにもかかわらず、正しくデータが登録されなかったことや、入力漏れなどによって、本来受け取れるはずの年金の額より減ってしまった人が、およそ10万人も出ました。
このような、単純なデータの入力になぜ大量のミスが出てしまったのでしょうか。」

入力業務を受注した業者の「履行能力が乏しかった」

今週月曜日(6月4日)、今回の問題を調査した第三者委員会が結果を公表しました。
日本年金機構からデータ入力業務を受注した業者・SAY企画の「履行能力が乏しかった」ことに問題の原因があると断じました。

SAY企画は、東京・豊島区にある、このビルの一角に本社を構えていました。
スタッフは80人、業界の中では中規模の会社でした。
去年(2017年)8月、1,300万件の個人データの入力業務を、1億8,000万円で落札。
それまで数百万円規模の仕事が中心だった会社にとって、初めての規模でした。
SAY企画の切田精一社長は、この仕事を落札できるとは思っていなかったと言います。

SAY企画 切田精一社長
「競合他社の活動状況を把握する、情報収集の場(として入札に参加した)。
われわれはこの仕事をいただけると思っていなかった。」

ランクの見合った企業が望ましいが 応じたのは1社

なぜSAY企画が、膨大なデータを入力する仕事を受注できたのか。
官公庁が発注する業務には、その金額の大きさによってAからDまで4つのランクに分けられています。
今回の業務は、最も高いAランクでした。
一方、入札に参加する企業も、業績や規模に基づいて同じように4つのランクが付けられています。
SAY企画は、Cランク。

本来はランクの見合った企業が落札することが望ましいのですが入札してみると、応じたのはSAY企画1社だったのです。

SAY企画 切田精一社長
「全員を集めて、かつて経験したことのない規模の仕事を我が社で受けることになったと。
厳しいな、何とかしなければならないと。」

800人態勢を目指すも 集まったのは130人

これまで対応したことのない規模の仕事を受注した、SAY企画。
急きょ、これまでのスタッフの10倍に上る800人態勢を組むことにしました。
年金機構との契約で、人手がかかる作業が求められていたためです。
その作業方法です。
まず、全く同じデータを、2人が別々に入力。
入力が異なった場合に、どちらが正しいのかを、3人目が判断することになっていました。
手間をかけても、間違いが起きないようにするための方法です。

SAY企画は人集めに奔走。
しかし、800人の計画に対して集まったのは130人でした。

契約に違反して 文字をパソコンで読み取る手法を導入

その不足を補うために、契約に違反して導入したのが、文字をパソコンで読み取る「OCR」という手法でした。
自動で読み取ることで、作業を早められると考えたのです。

SAY企画 切田精一社長
「OCRを使わなければ、手入力になる。
800人の人員を整えないと、消化できない。
やらざるを得なかった。」

パソコンがデータを間違って読み取ったか

ところが、このOCRに頼ったことが、ミスを生んだ原因の1つとされています。
OCRでは、どんな間違いが起こり得るのか。
別のデータ入力会社の協力を得て確かめました。
例えば、1に○をつけたこのケース。
OCRでは正しく読み取ることが出来ません。

データ入力会社スタッフ
「2のところにも線がかかっていて、それで2のところも○があるという判断。」

人間の目では明らかな情報でも、間違って読み取ることがあるのです。

「背伸びをして分不相応な仕事に取り組んだ」

一方で切田社長は、日本年金機構から送られてきた基データに、間違いや判別できないものなどが多く含まれていたと主張しています。
例えば、配偶者に障害がある場合につける丸。
取り消しているようにも見えるため、判別できなかったとしています。

SAY企画 切田精一社長
「判断に迷うことが多かった。
修正作業があまりにも多かった。
判断ミス、修正ミスというものが、ミスにつながった。」

これに対し、日本年金機構は「基データに不備はなかった」と回答。
両者の言い分は食い違っています。
SAY企画は、問題の後、入札資格を停止され、今後、倒産する見通しです。

SAY企画 切田精一社長
「いままで経験のない、その規模のものを弱小企業が受けたわけですから、背伸びをして分不相応な仕事に取り組んだということは言えると思います。」

「価格にも問題があったのではないか」

高瀬
「取材にあたった本多記者とお伝えします。
本多さん、これはある意味、被害者は国民とも言えると思うのですが、そもそもなぜ、対応能力が乏しいとされる会社が受注してしまったのでしょうか。」

本多ひろみ記者(社会部)
「はい。
今回は、SAY企画1社しか入札に参加しませんでした。
そのような発注を行った日本年金機構にも、大きな問題があったと言えます。
1つは、業務量があまりに多かったことです。
今回は1,300万件もの入力を一括して発注していて、業務量が多過ぎて、入札に参加しなかったという企業が複数ありました。
また、業界団体からは『価格にも問題があったのではないか』という声があがっています。
これに対し年金機構は、価格は適性だったとしています。
ただ、NHKがデータ入力会社8社に『いくらなら受注するか』聞いたところ、いずれも、年金機構が設定した上限価格を上回りました。」

和久田
「これでは受注しようと思いませんよね。」

ほかの官公庁でも価格が安く業者が敬遠

本多記者
「実は業界団体によりますと、年金機構だけでなく、ほかの官公庁でも価格が安く、業者が敬遠するケースもあるということです。」

日本データ・エントリ協会 河野純会長
「ここに来て人件費があがっている、だけど受け値は上がらない。
価格水準が比較的低いので、あまり積極的に取りに行きたくないというのが本音。」

本多記者
「官公庁の情報システムに詳しい立命館大学の上原教授は、

『ほかの官公庁でも起こりうる問題。
日本年金機構以外も、入札のあり方をもう一度、検討すべき。』

と指摘しています。」

コスト削減ばかり優先せず落札業者の能力の見極めを

高瀬
「行政が扱う大事な個人情報の入力業務ですから、きちんと行われて欲しいですね。」

本多記者
「今回、SAY企画は入力ミスだけでなく、契約に反して個人情報の一部を中国の業者に送り、業務を再委託していたことも明らかになりました。
個人情報がずさんに扱われたと言えます。」

和久田
「そもそも落札したのがどんな業者なのか、発注者側もチェックをしていなくてはなりませんよね。」

本多記者
「第三者委員会も指摘していますが、今後発注する際は、コスト削減ばかりを優先するのではなく、落札業者に対応能力があるのか、きちんと業務を進めているのか、厳しく見極める必要があります。」

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