リポート:宣英理(おはよう日本)
大会の1週間前。
選手たちは練習のために集まっていました。
多くは、仕事をしながら社会人リーグでサッカーをしている、アマチュアの選手たちです。
朝鮮籍や韓国籍、日本国籍。
選手たちの国籍はさまざまです。
国の代表としてプレーするときは、同じ民族でありながらも、バラバラのチームになる選手たち。
今回の大会には、特別な思いで臨みました。
参加する選手
「こんなに誇りに思えることはない。」
参加する選手
「国籍は韓国なんですよ、韓国代表になってたのかな?
でも日本で生まれてるし、でも日本代表にはなれないし。
『おれってどこの代表なんだろう』って考えたときに、口ですぐ言いたいのは『在日(コリアン)代表』。」
監督兼選手としてチームに参加する、安英学さんです。
各地に散らばる選手たちに、1人1人参加を呼びかけました。
安英学さん
「みんなで声出し合って、絶対いい結果を持って帰って来られるようにしましょう。」
日本で生まれ育ち、サッカーに打ち込んできた安さん。
通っていた朝鮮高校は、かつては高体連に加盟できなかったため、3年生になるまで、全国高校サッカー選手権大会には予選すら出場できませんでした。
安英学さん
「しょうがないのかなって。
日本人じゃないので出られないのだろうと。」
それでもプロサッカー選手への夢を諦めなかった安さん。
14年間、Jリーグや韓国Kリーグで活躍しました。
2010年には、在日コリアンでは初めて、北朝鮮代表としてワールドカップに出場。
華々しい活躍をしてきました。
去年(2017年)、現役生活を終えてまもなく、舞い込んできたのがこの大会の話でした。
そのとき彼を強く突き動かしたのは、子どもたちの存在です。
安さんは毎週、在日コリアンの子どもたちのためにサッカースクールを開いています。
子どもたちには、諦めずに夢を追い続けることの意味を伝えたいと考えています。
安英学さん
「できれば顔をあげて。」
安英学さん
「後輩たち、子どもたちのために『何かしなきゃいけない』というのがあるので、在日(コリアン)だろうが朝鮮学校に通っていようが、自分の努力次第で何にでもなれると思っているので、それを伝えたい。」
大会に参加するには、渡航費などおよそ700万円が必要で、安さんはみずからスポンサー探しのため、20社以上をまわりました。
在日コリアンだけでなく、日本の企業も支援を申し出てくれました。
常に困難を乗り越えようと努力する安さんの姿に、共感したといいます。
スポーツ関連IT企業 馬渕浩幸社長
「英学(ヨンハ)さんが好きなので、無条件に、彼が何をやろうが尊敬すべき人なんで。」
大会前の最後の練習が終わった後、安さんは選手たちを集めました。
ここで、完成したばかりのユニフォームを披露しました。
安英学さん
「われわれのユニフォーム。
魂の赤。」
中でもこだわったのが、チームを象徴するエンブレムです。
1つの朝鮮半島を表した1頭のトラ。
そのまわりを囲うのは、日本を表す藍色の枠です。
安英学さん
「心の中心にはコリアンがあるけれども、その周りには日本の方々がいて、日本の生活があって、日本の人たちの思いがあって、自分たちが成り立っている。
そういう思いも胸に、みんなで頑張っていきましょう。」
そして迎えた、大会本番。
流されたのは、南北関わらず朝鮮半島で広く歌われている、民謡のアリランです。
初戦の相手は、強豪の西アルメニア。
在日コリアンを代表して、国際試合のピッチに立ちました。
持ち味の粘り強いプレーで、一進一退の攻防を繰り広げました。
安英学さん
「もっともっといいプレーをして、いい成績を残して、たくさんの方々にわれわれの姿を見せられるようにしたいです。」
国の枠を超えた“もう1つのワールドカップ”。
アイデンティティを再確認する、新たな場がつくられようとしています。
新井
「子どもたちにサッカーを教えているシーンがありましたが、安さんのような存在がいると、夢がふくらみますよね。
夢を諦めないでほしいですよね。」
北野
「大会は今月(6月)9日まで続き、今後も優勝を目指して試合に臨むということです。」