これまでの放送

2018年6月1日(金)

なぜ『司法取引』が日本でも導入されるのか

高瀬
「続いては、こちらです。」

“司法取引”が6月1日から導入される

実話を元にしたアメリカの映画。
不正な株取引で逮捕された社長が、「共犯者の情報を渡せば、刑を軽くする」と、持ちかけられます。

「マネー洗浄で20年。」

「全面協力だ。
全ての協力者のリストをもらう。」

海外の映画などで描かれる“司法取引”。
これが日本でも今日(6月1日)から導入されることになります。
各地で企業向けのセミナーが開かれています。

元検事の弁護士
「“日本の社会の考え方を変える”くらいのインパクトがあると考えています。」

「求刑を大幅に減らしていただけなら真実を話します」

捜査はどう変わるのか?
NHKは、取材をもとにドラマ化しました。

検事
「本当に君が作ったの?
誰かの指示をうけているんじゃないか?」

弁護士
「求刑を大幅に減らしていただけるのであれば、裁判でも真実を話します。」

捜査に協力すれば 起訴を見送ったり 求刑を軽くしたり

高瀬
「今日から導入される“司法取引”。
容疑者や被告が、共犯者などの他人の犯罪について捜査に協力すれば、見返りに検察が起訴を見送ったり、求刑を軽くしたりする日本では全く新しい制度です。」

和久田
「対象となるのは、脱税や談合などの経済事件のほか詐欺や贈収賄など、それに薬物や銃器などの組織犯罪です。
これまで、末端の容疑者の逮捕にとどまっていた組織的な犯罪で、事件の全容を解明する新たな捜査手法として期待されています。」

高瀬
「“司法取引”の導入で、捜査はどう変わるのでしょうか。」

【5月31日】までは こうだった…

今回取り調べるのは、全国のお年寄りから1億円以上をだましとった振り込め詐欺の容疑者。
検事は「裏で指示を出した黒幕がいる」と見ています。
まずは昨日(5月31日)までのケース。

検事
「君たちのアジトから見つかったこのマニュアル。
実にうまくだまし文句が書かれているねえ。
誰が作ったの?」

容疑者
「えーと、自分が作りました。」

検事
「本当に君が作ったの?
誰かの指示を受けているんじゃないのか?」

容疑者
「知りませんよ。
本当に俺が作ったんですから。」

橋本佳名美記者(社会部)
「社会部の橋本です。
後を絶たない“振り込め詐欺”。
被害者から現金を受け取る末端の、“受け子”や“出し子”。
さらにその上にはマニュアルをもとに詐欺の電話をかけ、受け子たちに現金のやり取りを指示する“実行部隊”。
容疑者は、ここのリーダーです。

さらに、その上にも犯行を指揮する首謀者がいて上納金を受け取っていると見られています。
しかし報復を恐れているのか、見返りを約束されているのか、あくまで単独の犯行を主張します。」

検事
「君が組織のトップなら、なぜアジトに金がないんだ?
ほかにトップがいて渡してるんじゃないのか?」

容疑者
「検事さん、もし教えたら、俺の刑を軽くしてくれるの?」

これまで、こうした取り引きは認められておらず犯罪組織の全容解明は難しいのが現状でした。

【6月1日】からは “司法取引”で こうなる

橋本記者
「しかし、今日スタートした、日本版の“司法取引”では弁護士が立ち会い、大きな役割を果たします。」

弁護士
「司法取引を前提に、相談があって参りました。」

弁護士が間に入り、容疑者が捜査に協力する見返りに検事が処分を軽くする“司法取引”ができるようになったのです。

弁護士
「このまま彼が起訴されれば、懲役は10年を超えてもおかしくないですよね。」

検事
「処分を軽くするかは、内容次第ですね。」

弁護士
「彼は暴力団からの指示を受けていました。
指示のメールは別な場所に保管されていたこのスマホに、すべて記録されています。
求刑を大幅に減らしていただけるのであれば、スマホは提供しますし、裁判でも真実を話します。」

検事
「なるほど…。詳しく話を聞かせて下さい。」

こうして検事・弁護士・容疑者の3者は、取り引きの具体的な内容について協議に入りました。
三者が合意し、“司法取引”が成立します。
容疑者が、証拠物を提供する、真実を証言するなど、捜査に協力する見返りに検事は求刑を大幅に軽くすることを確認しました。

捜査機関にとっては強力な武器に

和久田
「ここからは、司法担当の永田記者とお伝えします。」

高瀬
「この“司法取引”、捜査機関にとっては強力な武器になりそうですね。」

永田知之記者(社会部)
「さきほどのドラマは、振り込め詐欺の事件が題材でしたが、たとえば企業が政治家に賄賂を渡す“贈収賄事件”で、企業側が“司法取引”に協力することで、政治家の摘発につながるといったケースも想定されます。」

大阪地検特捜部 証拠改ざん事件など検察不祥事がきっかけ

和久田
「そもそもなぜ、この制度が導入されたのでしょうか。」

永田記者
「実は8年前に発覚した大阪地検特捜部の証拠改ざん事件など、検察不祥事がきっかけなんです。
密室で取り調べを行うことが『無理な取り調べやえん罪を生んでいる』という批判を受け、特捜部などの取り調べの状況が録音・録画されるようになりました。
一方、検察などからは、『録音・録画 の導入によって取り調べで真相を引き出すことが難しくなる』という強い懸念が出され、新たな捜査手法として“司法取引”の導入が決まりました。」

永田記者
「ただ、“司法取引”にはマイナス面があることも指摘されています。
たとえば、こちらのケース。」

“司法取引”には こんなマイナス面も…

容疑者
「検事さん、俺いろいろ話せば求刑軽くしてくれるんだよね。
首謀者は佐藤でしょ、鈴木も共犯。
あいつ悪いやつなんだよ。
もうね、5,000万円以上渡してるね。」

自分の量刑を軽くするために、ウソの供述をして関係ない人物が巻き込まれる「えん罪」のおそれがあります。
さらに…。

容疑者
「取り引きしてくれたら話すけど、そうじゃないと話さないよ。
意味ないもん。」

ささいなことでも“司法取引”を要求され、かえって取り調べが難しくなる可能性もあります。

うその供述・偽の証拠を提出は5年以下の懲役

高瀬
「この“司法取引”、さまざまなリスクや難しさもあるということですが、どのような対策があるのでしょうか。」

永田記者
「対策の1つとして罰則が設けられ、“司法取引”に応じた容疑者や被告が、うその供述をしたり、偽の証拠を提出したりした場合は、5年以下の懲役が科されることになっています。

実績を積み重ねながら制度の定着を図っていく方針

永田記者
「制度の運用を指揮する最高検察庁は、どのように考えているのか。
担当の幹部は次のように話しています。」

最高検察庁 新制度準備室 齋藤隆博室長
「間違えた方向に行くことは、我々自身にとっても避けなければならない。
協力行為の内容が真実である裏付けが取れる場合で、積極的に信用性を認めるべき状況の時に使っていく。
慎重に対応していきたい。」

永田記者
「制度は今日からスタートしますが検察は当面、弁護側と交渉のテーブルにつく事件の数自体を慎重に絞り込み、実績を1つ1つ積み重ねながら制度の定着を図っていく方針で、“司法取引”が捜査の現場で幅広く使われるようになるには、まだ時間がかかるとみられます。
制度の導入は、『日本の刑事司法の大きな転換点』と位置づけられていて、今後、どのように運用されるか、関心を持って取材を続けたいと思います。」

Page Top