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2018年1月30日(火)

“指導死” なぜ子どもの自殺が減らないのか

近江
「まずは、こちらをご覧ください。
今月(1月)発表された、去年自殺した人の(全年代の)総計です。
前の年より3.5%減って、8年連続の減少となりました。」

子どもの自殺 “指導死”が問題視される

近江
「ところが、10代以下の子どもの自殺は、各年代の中で唯一、前の年よりも増加していて、一向に減りません。」

高瀬
「子どもの自殺の最大の原因が学校に関する問題なんですが、中でも『指導死』とも呼ばれるケースが新たに問題視されています。
教員の不適切な指導によって子どもが自殺してしまうもので、福井県の事例をきっかけに注目され、対策を求める声が高まっています。」

自殺の原因は「厳しい指導や叱責を繰り返し受けたこと」

生徒が自殺した中学校 校長(当時)
「彼を苦しめ、傷つけ、追い詰めてしまいました。」

去年(2017年)10月、福井県池田町で出された調査報告が全国に衝撃を与えました。
中学2年の男子生徒が校舎から飛び降りて亡くなった自殺。
その原因が、教員からの厳しい指導や叱責を繰り返し受けたことだったと分かったのです。
いわゆる「指導死」でした。
担任からは、行事の準備が遅れた際に、校門の前で大声でどなられていました。
周りの人まで身震いするほどの声だったといいます。
副担任に宿題の遅れを叱責された時は、土下座しようとするほど追い詰められていました。

母親の手記
“罵倒するような発言、人権を侵害するような発言も多々あったと聞いています。
『教員による陰険なイジメ』で息子は尊い命を失ったのだと感じています。”

警察庁によると、「教師との人間関係」が原因で自殺した子どもは、10年間で37人に上っています。

“指導死”は表面化しにくい

しかし、原因が明らかにされるのは氷山の一角だという指摘もあります。
遺族で作る「指導死親の会」です。
会では、行き過ぎた指導や、配慮に欠けた指導などによる子どもの自殺を「指導死」と呼び対策を呼びかけています。

会の代表を務める大貫隆志さんです。
中学2年生だった息子を、17年前に自殺で失いました。
学校でお菓子を食べたという理由で、立ったまま1時間半に及ぶ指導を受けた翌日でした。
大貫さんは、行き過ぎた指導が息子を追い詰めたのではないかと考えました。
しかし、指導の詳しい状況について情報は得られず、原因を明らかにすることはできませんでした。
その後、専門家とともに多くの事例を調べてきた大貫さん。
「指導死」の大きな特徴は、表面化しにくいことだといいます。

『指導死』親の会 代表 大貫隆志さん
「多くの場合は生徒指導が“教員と生徒”という形になっていて、周りで子どもたちが見ているわけではないので、いろいろな配慮からほかの人の目に触れないところで行う。
片方の子どもが命を失えば、何が本当か分からなくなってしまう。」

“指導死”の解明に苦しむ遺族

わが子は指導死で亡くなったのではないか。
事実の解明に長年苦しむ遺族もいます。
札幌市に住む母親です。
息子の自殺から5年近くたった去年11月、求めてきた手がかりをようやく手にすることができました。

高校生だった息子は吹奏楽部に入っていました。
母親によると、部員どうしのいさかいをきっかけに、顧問の教師からほかの部員と関わるなと、命じられたといいます。
そして、ひと月近くの間、部員たちと会話もメールもしないよう言われ、孤立。
その悩みを母親に泣きながら訴える中で、自ら命を絶ちました。
顧問の指導が問題だったのではないか。
当時、学校に問い合わせても情報はほとんど得られませんでした。
母親は北海道教育委員会に対し、息子の自殺に関する調査資料の開示請求を行いました。
ところが…。
届いたのは、個人情報の保護を理由に、一面黒く塗られた資料でした。

母親
「怒りというよりも悲しみの方が強いです。
なぜここまで何も教えてくれないのだろう、ただ知りたいだけなのに気持ちが伝わらない。
とても残念。」

「何としても真実を知りたい」。
母親は北海道を相手に裁判を起こしました。
そして、去年11月。
裁判の過程で、吹奏楽部員に行ったアンケートをようやく手に入れ、求めてきた情報の一部を知ることができました。

母親
「すごく孤立していたという雰囲気はアンケートを見ただけで感じた。
なぜ自殺まで追い詰められたのか、裁判で明らかにしたい。」

北海道教育委員会はNHKの取材に対し、「裁判が継続中のため、コメントは差し控えたい」としています。

教育熱心な先生が追い詰めてしまうケースも

高瀬
「取材した福井放送局の影山記者です。
どんな理由・ルール・方針があったとしても、子どもが自殺に追い込まれてしまうような指導というのは絶対にあってはならないと思うのですが、実際にこうして各地で『指導死』が起きている現状があるんですね。」

影山遥平記者(福井局)
「はい。
それも、単に問題のある先生だけが引き起こしているものではありません。
教育熱心な先生が秩序やルールを重んじるあまり、行き過ぎた指導を行って生徒を追い詰めてしまうケースもあって、どの学校でも起こり得る問題なんです。」

「指導の方針や方法を先生に任せきる慣習」

近江
「周りが声をかけて止めるというのは難しいのでしょうか?」

影山記者
「指導死の実態に詳しい専門家は、『学校現場には、指導の方針や方法を先生一人一人に任せきる慣習があり、周囲から介入されにくいため、歯止めをかけられない面がある』と指摘しています。」

チェックし合う仕組み 異変を早期に見つけてケア

高瀬
「では、『指導死』を防ぐには何が必要なんでしょうか?」

影山記者
「指導の方針や方法を校内でチェックし合う仕組みと、子どもの異変を早期に見つけてケアする仕組みを作ることが必要です。

一方で、先生の意識を変えることも必要だという指摘もあります。
自らの反省を基に自殺防止を考え続けてきた現役教師が、今回、取材に応じました。」

子どもの気持ちをくみとって “指導死”を防ぐ

兵庫県内の公立学校で教える小南誠さんです。
生徒指導を担当していた高校で、1年生の男子生徒が突然自殺しました。
喫煙した生徒に特別指導を行い、無期家庭謹慎という学校の決定を言い渡した、その夜のことでした。
手続きは規則通り行ったものの、子どもが受けるショックへの気配りが欠けていたと悔やんでいます。

公立学校 教師 小南誠さん
「“配慮できていたか”と言われたら、できていなかったかもしれない。
彼が亡くなったということを考えると、厳しい言葉だけが胸に残ったのかもしれないという思いは、私の中にある。」

子どもの行動を罰するだけでなく、気持ちをくみとることが、指導死を防ぐことにつながると小南さんは考えています。

公立学校 教師 小南誠さん
「問題行動を起こしたときには、必ず何か生徒には悩みであったりストレスであったり、思いがあったと思う。
そのことに目がいくか、喫煙などの行為に目がいくか、教師がどちらに目がいくか。
もし本当に生徒の気持ちを教師がしっかりと受け止めることができれば、そういった問題は今よりずっと少なくなっていくと思う。」

“指導死”の実態 認識することが大切

高瀬
「問題行動よりも、そこにつながる内面の問題に目を向けることが大切なんですね。」

影山記者
「はい、『子どもを罰して終わり』にしないということです。
そもそも『指導死』は実態が埋もれがちで、検証もされにくいのが現状です。
行き過ぎた指導が子どもの命を奪いかねないということを、学校だけでなく、私たち社会全体が認識することが大切だと思います。」

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