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2018年1月27日(土)

音楽療法 最期まで自分らしく生きる

小郷
「終末期を迎えた患者が、いかに心安らかに過ごせるか。
鎮痛剤などの薬に加えて、さまざまな方法でケアしていくのが、世界の医療の潮流です。」


二宮
「注目されている1つが、『音楽療法』です。
この音楽療法によって、最期まで自分らしく生きた人たちがいます。」

緩和ケアで広がる“音楽療法”の効果

末期がんの患者が入院する、緩和ケア病棟です。
月に3回行われている音楽療法の時間になりました。

音楽療法士の中山ヒサ子さん。
スウェーデンで音楽療法が定着しているのを見て、日本でも広めたいと、17年前からこの活動に取り組んでいます。

音楽療法士 中山ヒサ子さん
「疲れたら絶対頑張らないで、(病室に)戻るって言ってくださいね。」

音楽療法士の重要な作業の1つは、曲のプログラムをどう組むかです。
最初のうちは、みんなの手拍子がそろう曲にします。
気分を高めるためです。
その後、リラックスできる曲に変えていきます。
今まで抱えていた不安が和らぐ人もいました。

音楽療法の効果に関する研究です。
国内の、3つの大学がまとめました。




音楽療法を受けると、ストレスホルモンが低下することが確認されました。

また、多くの患者で爽快感は高まり、不安感や抑うつ感は減少する傾向が見られました。
この病院では、こうした音楽療法の効果を期待して、2年前から医療チームと連携を始めることにしたのです。

北海道消化器科病院 緩和ケア内科部長 田巻知宏医師
「音楽療法をやることで、その一瞬、とても笑顔が出てきたり、心にすっと入ってくる救いというか、心が救われるということを、一瞬にしてできるのが音楽療法。」



音楽療法で、もう1つ期待されているのは、思い出をよみがえらせて、残りの人生を前向きに生きてもらうことです。

菅原弘美さん、57歳。
子宮けいがんを患い、去年(2017年)の3月から、この病棟に入院しています。
菅原さんがいつもリクエストする曲があります。
中島みゆきの「時代」。
10代の頃に大ヒットした曲です。
15年ほど前に離婚した菅原さん。
仕事をしながら、女手1つで娘を育て上げました。
しかし、50歳を目前にがんを発症。
困難に立ち向かう時、この曲を口ずさんできました。

“まわる まわるよ 時代は回る
喜び 悲しみ くり返し”

菅原弘美さん
「頑張ろうという気にさせてくれる曲なので、全部に、詞ひとつに、力が湧いてくる。
そんな曲だと思っている。
涙も出るけど、笑顔にもなれる。」

音楽療法と出会い、最期まで誇りを持って生き抜いた人がいます。

「お父さん、頂きましたよ。」





2年前、肺がんで亡くなった上田正さん。
死期が迫る中、後悔や無力感を口に出すようになりました。

音楽療法士 中山ヒサ子さん
「“自分が何も残せなかった”と何度も言っていた。
そんなわけないのに。」


生前の映像です。
民謡が好きな上田さんのため、中山さんは、慣れ親しんだ地元の歌を用意しました。



中山さんと一緒に歌った2日後、上田さんは、これまでの人生で最も輝いた時の思い出を短歌にしたためました。
民謡の全国大会で準優勝した、忘れられない思い出でした。

音楽療法士 中山ヒサ子さん
「選んだ曲が、その方の若い時に、すごくいい時代にワープできる。
自分が今こうだけど、(当時は)こうだったと、自己肯定につながる。」

中島みゆきが好きな菅原さん。
「時代」を歌った1週間後、容体が急変していました。
それでも大好きな音楽を聴きたいと、音楽療法に参加しました。

菅原弘美さん
「先生、見守ってください。」

音楽療法士 中山ヒサ子さん
「みんな見守っているよ。」

3日後、菅原さんは静かに息を引き取りました。
女性として、母親として、強く生き抜いた57年。
充実した人生だったと、最後、家族に話していました。

菅原さんの母 トシ子さん
「“生まれてきて、よかったかい”って聞いたんです。
“結婚もできた、恋愛もできた、子どももできた、もう私は悔いはないよ”って。
ほっとしました。
そう思ってくれるだけでも、うれしくて。」

最期まで自分らしく生きたい。
中山さんは今日も、大切な1曲を届けます。

小郷
「悔いはない、充実した人生だったって言える最期を迎えられるって、なかなか簡単なことじゃないと思うんですけれども、そうしたことに音楽療法というのが、1つ大きな救いになっているんですね。」

二宮
「音楽を聴いているみなさんの表情も、すごく穏やかでしたね。
こうした緩和ケアでの音楽療法を広めたのは、去年亡くなった聖路加国際病院の日野原重明さんです。
17年前に、学会を立ち上げました。」

小郷
「今や、音楽療法士は3,000人以上に増えていて、音楽療法は緩和ケアのみならず、認知症やパーキンソン病など、さまざまな疾患の患者にも使われています。」

こちらの病院で取り入れたのは、発達障害の子どものケアです。
音楽を聴き、小脳を刺激して、苦手なバランス感覚を養ったり、集中力を高めたりする効果が出ていると言います。

二宮
「しかし、日本では臨床研究が少ないため、まだ保険適用されていません。
一方、イギリスや北欧など、保険適用されている国もあり、今後、学会ではその効果を明らかにして音楽療法を広く普及させたい考えです。」

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