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2018年1月26日(金)

ベトナム戦争 「終わっていない」現実を伝えたい

半世紀前のベトナム戦争。
猛毒のダイオキシンを含む「枯れ葉剤」がアメリカ軍によって大量にまかれました。
汚染された土地で健康被害を受けたのは300万人に上るといわれています。

ドクさん・高橋尚子さんが参加したマラソン

そのベトナムで、今月(1月)開かれたチャリティーマラソン。
松葉杖で懸命に走るのは、「ベトちゃんドクちゃん」で知られるドクさんです。

収益の一部が被害者支援に充てられるこの大会。
趣旨に賛同した金メダリストの高橋尚子さんも参加しました。

高橋尚子さん
「コーレン(がんばれ)。」

「ベトナム戦争 戦争そのものを考えてもらうきっかけに」

大会を企画したのは、日本人の写真家です。
“枯れ葉剤の被害者を支援したい”との思いで開きました。
ベトナムでは、枯れ葉剤の影響とみられる障害がある子どもたちが今もなお次々と生まれているからです。

マラソンを企画した写真家 中村梧郎さん
「これを契機にベトナム戦争を見直してもらい、戦争そのものを考えてもらうきっかけになればうれしい。」

和久田
「枯れ葉剤によって一面枯れ果てた森。
その中にたたずむ少年。
ベトナム戦争後、すぐに撮影された写真です。

三條
「撮影したのは、今回のチャリティーマラソンを企画した写真家の中村梧郎さんです。
枯れ葉剤の被害を40年以上にわたって記録し続けてきました。」

和久田
「そして、こちらの1枚。

下半身がつながって生まれた双子、『ベトちゃんドクちゃん』の写真です。
兄弟の存在を日本中に広めるきっかけになったのも、中村さんの写真でした。」

三條
「今なお続く被害を、マラソン大会を通じて多くの人に知ってもらい、支援につなげたい。
中村さんの思いに迫りました。」

「被害者を支援したい」ドクさんの思い

リポート:飯田耕太(ネットワーク報道部)

チャリティーマラソンに合わせ、ベトナムに降り立った中村さん。
向かったのは、長年交流を続ける、ある人物のもとでした。

グエン・ドクさん、かつて分離手術を受けた「ベトちゃんドクちゃん」の弟です。
妻と2人の子どもと暮らしています。
中村さんは、誕生から毎年のように兄弟の姿をカメラに収めてきました。

日本でも大きな注目を集めた分離手術。
中村さんは写真家としてただ1人立ち入りを許され、撮影したのがこの写真です。

36歳になったドクさん。
腎臓の病気を患い、去年(2017年)だけでも6度の手術を繰り返しています。
それでも、枯れ葉剤の被害を改めて訴えたいと、マラソン大会への協力を約束してくれたのです。

グエン・ドクさん
「私より大変な生活をして、全く未来が見えない被害者もたくさんいます。
私は彼らのために支援をしたいと思っているのです。」

枯れ葉剤の影響とみられる被害 今の子どもたちにも

経済発展が続くベトナム。
その一方で、枯れ葉剤の影響は今も影を落としています。
中村さんがこの日、向かったのは、ベトナム戦争最大の激戦地の1つ、クチです。
およそ半世紀前、アメリカは集中的に「枯れ葉剤作戦」を展開。
森や田畑は徹底的に破壊されました。

その枯れ葉剤の影響とみられる健康被害は、「第3世代」と呼ばれる今の子どもたちにも続いているのです。

写真家 中村梧郎さん
「お名前は?」

グエン・ホアイ・トゥオンさん
「トゥオンという名前です。」

グエン・ホアイ・トゥオンさん、9歳の女の子です。
生まれつき両手足の先がありません。
母親のジャンさんは、結婚前にこの地域に移り住みました。
娘を出産後、家の周囲が枯れ葉剤に汚染されていたことを聞かされたといいます。

母 ジャンさん
「運悪くここで生活し飲食をしていたので、知らないうちに被害を受けて、障害を持つ子が生まれてきたのです。
もし子どもの体を取り替えることができるなら、すぐに替えてあげたいです。」

娘の面倒をみようと仕事をやめたジャンさん。
家計は苦しく、親戚から借金をして何とか暮らす日々です。
そうした暮らしの中、トゥオンさんの将来の夢は、画家になってお金を稼ぐことだといいます。

グエン・ホアイ・トゥオンさん
「海に行ったことはありませんが、想像して描きました。
お金をためて、家族を旅行に連れて行きたいです。」

最近の調査で障害が確認された子どもたちは、15万人に上るともいわれています。

写真家 中村梧郎さん
「このように汚染が残って、被害も続いて、新たな被害が生じると考えると、戦争は終わっていない。
手の届かないところで苦しんでいる子どもたちを抱える家族に対して、支援が成り立てばいい。」

「戦争後も被害が長く続く」高橋尚子さんの思い

チャリティーマラソン当日。
スタート前、高橋尚子さんも支援を呼びかけました。

高橋尚子さん
「中村さんの熱い思いがこもったこの『オレンジマラソン』、第1回目を迎えられることをうれしく思います。」

高橋尚子さん
「ドクちゃん速い!」

写真家 中村梧郎さん
「速い速い、速すぎて困る。」

身につけているのは、オレンジの帽子やTシャツ。
オレンジ剤とも呼ばれた枯れ葉剤の被害を忘れてほしくないと、この色を選びました。

参加者も目標の距離を走りきり、ゴール。
大会は無事に終了しました。

参加者
「とても楽しく、幸せでした。」

高橋尚子さん
「戦争後も被害の大きさがこれだけ長く続く、現場に来てあらためて感じた。
オレンジ=枯れ葉剤といった深い意味も込められていることをみんなで知って、そして一歩一歩かみしめながら、踏みしめながら、マラソンを楽しめる大会になってほしい。」

写真家 中村梧郎さん
「マラソンに参加することで支援になる形をつくるのが一番いいと思って始めた。
うまくいきそうな感じはある。
延々と続く悲劇もあるんだと、手を差し伸べることができるんだとキャンペーンして(働きかけて)いくことが大事だと思った。」

戦争の悲劇を見つめ続ける

和久田
「ひとたび戦争が起きると、何十年、何世代にもわたって一般の人に被害が続くという、その現実を突きつけられましたね。」

三條
「『延々と続く悲劇』という中村さんの言葉もありましたが、その悲劇を見つめることなくして戦争の姿を捉えることはできないと感じます。
今も世界には紛争が絶えませんが、改めてその恐ろしさを実感しました。」

和久田
「このチャリティーマラソンでは収益の一部や募金などを合わせ、100万円ほどが被害者支援に充てられるということです。」

三條
「参加者が多ければ多いほど支援に充てられる額は増えるということで、中村さんは『国を超えて多くの人に参加を呼びかけていきたい』と話していました。」

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