これまでの放送

2017年11月7日(火)

アメリカからIT技術者が脱出!?

高瀬
「けさのクローズアップ。
来日中のトランプ大統領。
大統領選挙での勝利から1年を迎えます。」


和久田
「型破りとも言われる大統領は、アメリカに何をもたらしているのでしょうか。」

アメリカ トランプ大統領
「再びアメリカを偉大な国に!」

アメリカの利益を最優先に掲げるトランプ大統領。
不法移民への対策を強化。
各国との貿易協定「TPP」からは離脱。
温暖化対策の枠組み「パリ協定」も脱退を表明。
保護主義的だと、批判が上がっています。
一方で、経済は絶好調。
株価は、連日最高値を更新。
失業率は低く、雇用も堅調な状態が続いています。

トランプ支持者
「市場も好調で、仕事の調子もいいね。
大統領は、よくやっているよ。」




トランプ支持者
「(経済は)いい方向に向かっているよ。」

和久田
「トランプ大統領の1年。
意見が分かれる政策もある一方で、経済の面では非常にうまくいっているようです。」

高瀬
「ところが、その好景気を支えてきたIT企業の現場で、トランプ大統領の打ち出した政策の影響で異変が現れ始めています。」

“ビザがおりない!” 苦悩するIT技術者

飯田香織支局長(ロサンゼルス支局)
「シリコンバレーの一角、カリフォルニア州のパロアルトです。
たくさんのIT企業が拠点を構えています。」

数々の革新的な技術や製品を生み出すこの地を支えているのが、多くの移民です。
ところがトランプ大統領は、アメリカ人の雇用を守るという公約の実現に向けて、外国人へのビザの発給の厳格化。
その影響は、すでに表れています。

専門的な技能を持つ外国人に3年の滞在を認める「Hー1B」ビザ。
IT技術者の多くが取得し、年間30万人前後に認められていましたが、トランプ政権では、今年度20万人程度にとどまる見通しです。

2年前にシリコンバレーで創業したベンチャー企業です。
人工知能を使って、心臓の鼓動などで人の位置を把握し、家電などをコントロールするシステムを開発しています。
今、この会社では、トランプ政権の移民政策に不安を感じていると言います。
というのも…。

「インド。」

「イスラエル。」

「アメリカ。」

「中国。」

「日本。」

従業員6人のうち5人が外国出身だからです。

中国出身のフー・インジョさん。
ソフトウェアの開発を担当しています。
今年(2017年)の春、H−1Bビザを新たに申請しましたが、認められませんでした。
このままでは、今の滞在期限が切れるとアメリカを去らなくてはなりません。

中国出身 フー・インジョさん
「とにかく今は(アメリカに滞在し)事業を大きくしたいです。」

共同創業者 ジョージ・カシンさん
「この移民政策は、シリコンバレーにとって大きな問題です。
どの企業にも外国人はいますし、創業者にも多いからです。」




こうした不安を覚える企業経営者や技術者は増えています。

この日、移民専門の弁護士を招いたH−1Bビザに関する相談会が、シリコンバレーで開かれました。
トランプ政権が誕生してから移民が歓迎されない雰囲気が一気に広がり、問い合わせが急増しているのです。

アレクサンドラ・ミカイロフ弁護士
「ビザの申請が今後、厳しくなるのではと懸念している。
まだ政権誕生から10か月で、任期はさらに3年ある。
毎月、移民当局から新たな通知があり、外国人は滞在が難しくなっている。
Hー1Bビザの取得者は不法滞在するようなことはしない。
このままではアメリカを去って、もっと歓迎してくれる国を探すしかなくなる。」

新天地に活路求め 脱出するIT技術者

リポート:及川利文(国際部)

こうした状況に、アメリカに見切りをつけ、カナダに移り住む技術者も出始めています。
「北のシリコンバレー」とも呼ばれるトロントです。

IT技術者のビクラム・ランネカルさんです。
カナダでベンチャー企業を立ち上げ、インターネットを使ってデータを保存するソフトを開発しています。
インド出身のランネカルさんは、アメリカの大学でコンピューター科学を学んだ後、H1−Bビザを取得。
去年(2016年)までは、シリコンバレーの大手IT企業で6年働いていました。

カナダに移住したIT技術者 ビクラム・ランネカルさん
「シリコンバレーで優秀な優秀な上司や同僚との仕事は刺激的でした。
生活環境もよく、ずっと住みたいと思いました。」

しかし、移民に不寛容な政策を主張するトランプ氏の登場もあり、アメリカでの暮らしをあきらめたと言います。

カナダに移住したIT技術者 ビクラム・ランネカルさん
「カナダに来たことは、よい選択でした。
子どもには友だちが出来ましたし、私たちはここの生活を楽しんでいます。
移民にオープンで、すばらしい国です。」

自らの経験をブログにつづったところ、アメリカで同じような思いを抱える人たちからの書き込みや問い合わせが多く寄せられました。

“アメリカでの生活は落ち着かず、住み続けるか悩んでいます。”

“トロントのよい学校がある地区の家賃の相場はどのくらいですか?”

ブログにアクセスする人は、月に4万人以上。
カナダへの移住に関する具体的な質問が相次いでいます。

カナダに移住したIT技術者 ビクラム・ランネカルさん
「トランプの発言に不安を感じている移民が増えていると思います。」

さらに、会社ごと移転するケースまで出ています。

複数のネット通販を使った出品や在庫管理を行う、この会社。
インド出身の共同創業者のHー1Bビザの期限が切れたことなどから、カナダに移転しました。



カナダに移転した会社の共同創業者 リッツパーナ・パンダさん
「誰もが生活を安定させたいですよね。
ビザについて問題が生じたら、他の選択を考えると思います。
(カナダに)移転を決めてよかったと思っています。
不安がなくなり、安定しています。」


カナダ政府も高い技能を持つ人材の移動を後押ししています。
これまで最長で審査に1年ほどかかっていた就労ビザの発給を、今年6月から、2週間程度まで短縮。
国を挙げて、人材の獲得に乗り出しています。

カナダの移民政策を担当 パトリシア・ハイデュ雇用担当相
「ビジネスの成長と高い技術を持った人たちを確保するために、ビザの発給を短縮しました。
企業は、とてもうまくいっています。」



カナダ政府は、ビザ審査の短縮が認知されていけば、今後より早いスピードで申請者の数が増えていくと自信を示しています。

カナダの移民政策を担当 パトリシア・ハイデュ雇用担当相
「カナダは多様性を生み出す、豊かな国になります。
経済を発展させ、人々を歓迎する社会を作ることが私たちの挑戦です。」

IT技術者の流出 今後の影響は

高瀬
「現地で取材した国際部の及川記者がワシントンにいます。
アメリカを出て行くという、こうした動きは広がっているんでしょうか?」

及川利文記者(国際部)
「今は、こうした動きが出始めているという段階です。
トランプ大統領は、ビザの発給の厳格化だけでなく、移民に厳しい政策を打ち出していて、移民たちの間には、アメリカを追い出されるかもしれないという不安は広がっています。
多くの外国人技術者にとって、優秀な人材や企業、そして資金が集まるシリコンバレーは、いわばあこがれの地です。
まずは就労ビザを取得して、そこで働き、その後、永住権を得て、最終的には市民権を取るという『アメリカンドリーム』を目指す人も少なくありません。
しかし、移民に不寛容とも言えるトランプ政権の下では、その入り口が狭められ、将来への展望が描けないと、不安が広がっているわけです。
取材をしていても、現状では、腰を据えて働けないという声が聞かれました。」

和久田
「今後、アメリカの経済や雇用には、どのくらい影響が出てきそうなんでしょうか?」

及川記者
「現時点では、経済などに大きな影響があるという状況にまではなっていません。
ただ、VTRにあったカナダだけでなく、国の成長のために優秀な人材を呼び込もうという動きは今、各国に広がっています。
トランプ政権がこのまま厳しい移民政策を続けていくことに、アメリカの大手IT企業からは、成長力がそがれるとして批判の声が上がっています。
アメリカは多様性を重んじ、優秀な移民が革新的な技術や製品を生み出し、経済をけん引してきました。
アメリカ人の雇用を守るとして、排他的な政策を取ることはアメリカの成長の原動力を、自ら否定することになりかねません。
見え始めたこうした動きが今後、どこまで広がっていくのか、注目したいと思います。」