これまでの放送

2017年10月25日(水)

「一帯一路」を活用せよ 華僑の戦略

高瀬
「『一帯一路』、聞いたことがあるでしょうか。
昨日(24日)閉幕した党大会でも打ち出された、肝いりの経済政策です。」

「一帯一路」巨大な経済圏で主導権を

和久田
「『一帯』はユーラシア大陸を通ってヨーロッパまでを鉄道で結び、『一路』は東南アジア・中東・アフリカ、そしてヨーロッパまでを海路でつなぎます。
一帯一路の経済圏は、GDP=国内総生産の合計がおよそ2,400兆円にも上るともいわれます。
中国政府は、この地域に陸と海の独自のルートを作ることで主導権を握り、貿易などで巨額の利益を手にしようとしているのです。」

高瀬
「今日(25日)お伝えするのは、海の道です。
そこで中国が重視しているのが、東南アジアにおよそ4,000万人いると言われる『華僑』や『華人』たちです。

この中国系の人たちに、貿易拡大の推進役となってほしいと考えているんです。
、華僑たちの最前線の動きを、マレーシアで取材しました。」 

マレーシア華僑 “海の道”で企業を後押し

リポート:山元康司記者(国際部)

「トレンドは『一帯一路』です!」

去年(2016年)12月、マレーシアの華僑たちが新たに立ち上げた経済団体、「一帯一路センター」。
登録企業は、設立からわずか9か月で1,000社を超えました。
中国が作る“海の道”を利用して、華僑系企業がヨーロッパなどへ事業を拡大するのを後押ししています。

『一帯一路センター』顧問
「(センターに登録している)この中小企業は、いまや160億円もの契約を勝ち取っています。」

専用の車まで用意し、相談を無料で受け付けています。

『一帯一路センター』顧問
「(海外進出へ向けた)商談が直接できますよ。」

『一帯一路センター』幹部
「一帯一路は、マレーシアにとって突破口と言えます。
マレーシアは輸出型の国で、国際貿易は私たち華僑にとって生命線です。」

華僑の動きの背景に両国政府

センター設立の背景には、中国とマレーシアの政府の後押しがあります。
去年11月に行われた、中国の習近平国家主席とマレーシアのナジブ首相との首脳会談では、一帯一路を強力に推し進めることなどを確認しました。

先月(9月)、「一帯一路」をテーマに中国広東省で開かれた国際的な商談会です。
ヨーロッパや中東など56の国や地域から、1,700の企業が参加。
中国が作る「海の路」に乗り遅れまいと、自分たちの商品の魅力を中国側にアピールしていました。

最も大きなスペースを割いて商品をPRしていたのが、マレーシアの「一帯一路センター」の登録企業でした。
参加した国で最多の300社が出展しました。

「質のいいドリアンの果肉だよ。」

海運ルートは「中東・ヨーロッパに拡大するチャンス」

こうした中、マレーシアでは、これまで中国とは距離を置いていた華僑系の企業も動き出しています。
マレーシアを代表する家電メーカーです。
この会社では、これまで独自の販路を使い、東南アジア向けに製品を輸出してきました。
中国は今、中東やヨーロッパへと通じる海沿いの国々に、次々と港を整備し独自の巨大な海運ルートを築き上げようとしています。
この海運ルートにうまく加えてさえもらえれば、海外展開を加速できると考えているのです。

大手家電メーカー 周俊仁社長
「大きな夢を持つ華僑企業にとって、事業を中東・ヨーロッパにまで拡大するチャンスなのです。」

「一帯一路」の将来に役立つ人材を育成するが…

一方、中国の側も、マレーシアの華僑たちを最大限利用しようと必死です。
中国政府が去年、マレーシアに初めて開校した中国の名門大学の分校です。
中国から派遣された教員が、華僑たちの子ども、およそ3,000人に中国とのビジネスを教えています。
将来、一帯一路の実現に役立つ人材を育てるのがねらいです。

しかし、学生の中には、中国経済の先行きに懸念を感じている人もいます。

学生
「中国経済は今後どうなりますか。」

中国から派遣された教員
「(専門家でも)自信を持って答えられる人はほとんどいません。」

若者の中には、一帯一路への期待がある一方、不安も混在していました。

中国政府の意向とは距離を置く企業も

一帯一路とどう向き合うべきなのか。
華僑たちの企業家の間でも、迷いが生まれ始めています。

山元康司記者(国際部)
「マレーシアの華僑の会社が、すべて一帯一路に賛成しているとは限りません。
こちらの会社では、中国企業との取り引きの難しさを感じています。」

庭園などの設計を手がけるこのデザイン会社では、中国の不動産開発会社と3年前から富裕層向けのマンション開発を手がけてきました。
しかし、中国政府は一帯一路を推し進める一方で、経済の減速が鮮明になった去年、中国企業による海外への投資を制限しました。
プロジェクトは中断を余儀なくされ、この会社では、およそ7,000万円の損失が出ました。

デザイン会社 ピーター・タン ディレクター
「私たちにとって大きなプロジェクトでした。
残念でなりません。」

デザイン会社 ピーター・タン ディレクター
「建設現場の写真です。」

中国政府の意向が強く反映される一帯一路とは、距離を置くことを決めました。

デザイン会社 ピーター・タン ディレクター
「中国で何か起きれば、私たちも影響を受けます。
多くのビジネスが政治とつながっていることは変えようがありませんが、私は一帯一路には関わりたくありません。
(政治と関係なければ)どんな仕事でも選ばずにできますからね。」

“中国を利用” 華僑のしたたかさ

高瀬
「現地で取材した国際部の山元記者に聞きます。
実際の所、マレーシアの華僑・華人たちは、祖国・ルーツである中国に対して愛着を持っているものなんでしょうか?」

山元記者
「華僑の人たちはもともと中国から出て行って他の国に住み着いたというルーツがあり、中国のことは外から冷静に見ています。
『中国の成長のために積極的に協力したい』という気持ちは、正直あまり強くないと思います。
ただ一方で、華僑の人たちにとっても一帯一路は大きなビジネスチャンスです。
それはそれとして、自分のルーツをあえて利用して、みずから中国の戦略にのみ込まれているのだと思います。
その例がこちら、アジア向けに植物から燃料を生産する会社です。
一帯一路で、販路の拡大を目指す中国企業から原料となる植物を加工する技術や資金の一部を引き出し、毎年20%近く売り上げを伸ばしています。

こうした中国経済の進出を逆手に取り、自分の商売に役立つ資金や技術を獲得するというしたたかな動きもみられています。」

日本の対応は

和久田
「一帯一路に対する日本の対応も気になりますが、どうなっているのでしょうか?」

山元記者
「日本政府としては、積極的に参加するという具体的な意思表示はしていません。
一方で、中国が一帯一路の玄関だとしているマレーシアをはじめとする東南アジアには、日本企業の拠点も多くあります。
一帯一路のルートにうまく自分たちの製品を乗せて貿易を増やしていけば、自分たちの利益につながるのは事実です。
国際的な覇権を目指す中国とどう折り合いを付けていくのか。
マレーシアの華僑たちのしたたかな戦略に、そのヒントが隠されている気がします。」

Page Top