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2017年10月7日(土)

世界農業遺産を目指す“ドジョウのすむ棚田”

小郷
「けさのクローズアップ。
新米の季節、今日(7日)は農業についてです。」



日本の原風景が広がる島根県・奥出雲町です。
この田んぼには、日本ではほとんど見られなくなった希少な生物がたくさん生息しています。

そして、ここで収穫される米は「仁多米(にたまい)」と呼ばれています。
甘味が強く、粘り気も多い仁多米は、地域の誇りです。

小郷
「この仁多米、とてもおいしいことで有名で、東の魚沼、西の仁多と言われるほどなんだそうです。
農薬に頼らない農法を続けているので、希少生物ものどかに暮らしているということなんですね。」

二宮
「ただ、奥出雲町ですが、4割以上が高齢者で、担い手も不足しているんです。」

小郷
「その解決に向けて目指しているのが、『世界農業遺産』の認定です。」

二宮
「『世界農業遺産』ですが、世界遺産の農業版ということですね。」

小郷
「そうです。
国連食糧農業機関が認定します。
認定されれば、世界から注目が集まって、農業の維持につながると期待されているのです。
果たして、奥出雲町は認定にこぎつけられるのか。
まずは、田んぼの1年をご覧ください。」

ドジョウの暮らす棚田 手間かける伝統農業の1年

リポート:田淵奈央(NHK松江)

中国山地の麓に広がる棚田。
仁多米は、ここで作られています。
この田んぼの一番の特徴は、全国でもまれに見るほどの自然の豊かさです。

4月、田んぼに水を入れる時期です。





アカハライモリです。
水のきれいな場所にしか生息しません。
冬眠から覚めて、虫を食べに出てきました。

ドジョウも冬眠から目覚めました。





そこに現れたのは、絶滅危惧種となっている水生昆虫のタガメ。
強力な足で獲物を狙います。




そこへ、のんきにやってきたドジョウ。
危機一髪、難を逃れました。
農薬や化学肥料に頼らない田んぼは、希少生物の楽園です。

5月、田植えの季節を迎えました。





イトミミズです。
イトミミズのフンには、稲に必要な栄養分がたくさん詰まっていて、肥料の役割を担います。
そして、ドジョウは田んぼの害虫を食べてくれます。
さらに、泥を巻き上げることで日光を遮り、雑草を生えにくくする役割も果たしています。
希少生物が田んぼの生態系の連鎖を支えていました。

農家
「ドジョウもいっぱいいるから、コメも体にいい食べ物じゃないか。」





そして、実りの秋。
希少生物と二人三脚で行う米作り。
どちらかが欠けても、奥出雲の農業は成り立たないのです。
奥出雲の農業には、資源を無駄にしない循環の仕組みも根づいています。


昔から行われている米作りと畜産の助け合いです。
たとえば牛の餌は、農家が雑草や稲わらでこしらえます。
牛に安心して食べてもらえる手作りのえさです。
一方で牛のフンは、田んぼのたい肥にします。


畜産農家
「利用できるものをお互いに利用する。
そうすることで全体が潤う。」




米農家
「こっちも助かるし、こっちも助かる。
お互いにお互いが助け合う。」




仁多米作りは、地域の他の産業とも支え合いながら成り立っていました。
小さな田んぼでの米作りは手作業も多く、効率がよくありません。
それでも、農家は手間ひまを惜しまない農作業にいそしんできました。
その背景には、代々大切にしてきた自然への畏敬の念がありました。

田んぼの至る所にある小さな丘。
古来から神聖な場所と言い伝えられてきました。
奥出雲は、出雲神話が根づく土地で、信仰心が強いと言われています。

「あれが今も残ってる。」





田んぼの真ん中にある塚。
効率を考えたらなくした方がいいかもしれません。
しかし、農家はこの塚を土地を守る神と崇め、きれいに手を入れて残してきたのです。

農家
「作業するには不便。
神さまということで残しておくほうがいい。」




自然に敬意を払い、農地をきれいに保つという農家のこだわりが、農業の営みとともに受け継がれていました。
奥出雲町は、こうした農業の付加価値をアピールの柱にして、来年(2018年)にも世界農業遺産への申請を目指そうとしています。

おいしいお米だけではない 農業がもたらす“かけがえのない価値”

小郷
「取材した松江放送局の田淵奈央ディレクターです。」

二宮
「自然との共生で、このおいしい仁多米というのができているんですね。」

田淵奈央ディレクター(NHK松江)
「そうなんです。
今日はそのすてきな農村から、新米を持ってきました。」



小郷
「ありがとうございます。
新米のおにぎりを田淵さんが握ってくれました。」

二宮
「では、いただきましょう。」

小郷
「いただきます。」

二宮
「一粒一粒がちゃんと立って、おいしい。」

小郷
「甘みもあって、今の奥出雲の農業を見てみたから、なおさらありがたみも湧いてきて、おいしく感じますね。」

二宮
「世界農業遺産に認定されると、こういったお米のおいしさだけではなくて、その地域に伝わる歴史的、文化的な背景も世界に発信できるということですね。」

田淵
「そうです。
世界に発信されれば、世界規模で注目が集まると、町でも期待されているんです。」

小郷
「ただ、仮に世界農業遺産に認定されたとして、高齢化や担い手不足といった本質的な課題の解決につながるんでしょうか?」

田淵
「確かに難しい問題で、解決には斬新な発想が必要です。
山奥の小さな農村が、新しい技術や資金を集めるためには、社会に呼びかけることが第一歩です。
その上で、農業が一人一人の豊かさにつながっていると実感してもらえれば、支援の輪は広がり、解決の糸口になると思います。」

小郷
「そうですね。
まずは、世界農業遺産の認定に期待ですね。」

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