これまでの放送

2017年9月2日(土)

子どもの歯に格差

二宮
「『子どもの虫歯』についてです。
歯の健康を巡って、今、格差が広がっています。」

小郷
「虫歯が全くない子どもは、5歳児の場合、61%。
その一方で、重い虫歯が10本以上ある子どもも少なくないことがわかってきました。
『口腔崩壊』と呼ばれ、専門家の間で危機意識が高まっています。」

二宮
「取材を進めると、家庭だけでは解決できない実態が浮かび上がってきました。」

子どもに広がる 歯の健康格差

リポート:小林さやか(NHK福岡)

福岡市にある小児歯科。
子どもたちが受けているのは、虫歯の「治療」ではありません。
奥歯の溝を樹脂で埋める「シーラント」や、虫歯菌を歯に付きにくくする「フッ素コーティング」など、最新の虫歯予防です。
予防目的で通う子どもは、全体の6割に上っています。
 

保護者
「1歳半とか2歳から定期的に通っている。」

保護者
「やっぱり予防していた方がいいよねと。」

 

予防意識の高まりを受け、虫歯のある子どもの割合は、この40年で激減しました。
その一方で、NHKが福岡県内の小中学校を対象に行った調査では、気になる実態も見えてきました。

極端に虫歯が多い「口腔崩壊」状態の子どもがいる学校が3割以上に上っていたのです。
「歯や頭の痛みで、給食も食べられない」「このままでは歯がなくなる」と診断された子もいました。
背景に何があるのか。
アンケートから浮かび上がったのが、ひとり親や経済的困難を抱える親たちの余裕のなさです。

福岡市に住む、3歳の加藤まゆみちゃんです。
今年(2017年)2月、20本の乳歯のうち17本が虫歯になっていることが分かりました。

森本歯科 歯科医 中尾哲之さん
「前歯は歯ぐきから上の部分がなくなって、根だけになっている。」

母親は去年離婚し、販売員として働きながら1人で子どもを育てています。
忙しい生活の中で、歯磨きが行き届かず、虫歯ができたあとも、なかなか歯科医院に連れて行けずにいたところ、あっという間に進行してしまったと言います。

母親
「(治療のために休みたいと)仕事を始めたばかりで言いだせず、こんなにさせてしまって、自分の責任もあるかなと。」


 

今、福岡市内の大学病院には、近隣の歯科医院から「口腔崩壊」状態の子どもたちが、次々と送られてきています。
全身麻酔での治療が必要な重度のケースもあとを絶たず、予約は数か月先まで埋まっています。

福岡歯科大学病院 尾崎正雄教授
「(虫歯が)極端に多い患者さんが増えてきている。
軽い子と、ものすごく虫歯がひどい子が二極化している。」 

子どもの口腔崩壊 背景に“デンタルネグレクト”

長年、子どもの家庭環境と口の中の関係を調査してきた、広島大学の香西克之教授です。
子どもの虫歯を重症化させることは「デンタルネグレクト」にあたると、警鐘を鳴らしています。
「デンタルネグレクト」とは、親が虫歯の治療など、必要な口の中のケアを子どもに受けさせないこと。
仕事が忙しかったり、生活に余裕がない中で、やむをえず起きているケースもあると考えています。

広島大学 小児歯科学研究室 香西克之教授
「子どもの貧困だとか、母子家庭が増えているだとか、(親が)子どもの口の中の環境を整えてあげる、そういう環境にない子どもが増えていくんじゃないか。」

さらに、香西教授が懸念しているのが、長期的な影響です。

これは、重度の虫歯の乳歯が抜けたあと、すでに虫歯の状態で生えてきた永久歯。
乳歯の口腔崩壊は、放置すれば永久歯の口腔崩壊に直結し、生涯にわたって、さまざまな影響を及ぼすといいます。

広島大学 小児歯科学研究室 香西克之教授
「一生、口の中で虫歯や歯周炎で治療が大変になってくる。
決してそういったことで苦労させてはいけない。」

広がる口腔崩壊 子どもたちをどう守る

子どもたちの歯をどう守るのか。
新潟県の小学校では、大学と連携し、少しでも親の問題意識を高めようという取り組みを行ってきました。

重要な役割を果たしているのが、児童一人一人に用意した「歯のけんこうノート」。
虫歯が特にひどい場合は、ノートに写真を貼って保護者に治療の重要性を伝えました。
その結果、これまで治療が後回しになりがちだった保護者にも変化が起きたと言います。
 

明倫短期大学 木暮ミカ教授
「これだけ深い虫歯だったら『そりゃ行かなきゃな』と、治療に行く気にさせるには、写真を撮って貼るのは有効だった。」


 

それでも状況が変わらない子どもがいるため、こんな取り組みも行っています。

「これから“フッ素”を始めます。」

週1回、全児童で行うフッ素水を使った、うがいです。
家庭で十分な手入れができない子どもも、虫歯から守るのが狙いです。
こうした取り組みにより、この学校では、重度の虫歯を持つ子どもが減り、1人当たりの虫歯の数は0.03本まで減少しました。

明倫短期大学 木暮ミカ教授
「『子どもの口がこうなっているのは(親の)あなたの責任』ではなく、(親の)負担にならないやり方をどんどん模索していって、周囲が手厚く見守っていかなければいけない。」

子どもに広がる 歯の健康格差

二宮
「スタジオには、福岡放送局の小林記者です。
かなり痛々しい映像もありましたが、口腔崩壊、深刻な事態ですよね。」

小林さやか記者(NHK福岡)
「背景の1つに『子どもの虫歯』というと、どうしても家庭の問題と考えられてきたことがあります。
国の政策として捉えて来なかったために調査も行われておらず、全体像がつかめていないなんです。
このため、口腔崩壊の子どもに対する行政の対応策も進んでいないのが現状です。」

小郷
「虫歯への予防意識が高まっている家庭がある一方で、どうして、こうした口腔崩壊という深刻な事態にまで至ってしまっているんでしょうか?」

小林記者
「家庭環境の変化というのが大きいんです。
共働きの家庭は増え続けていますし、ひとり親の家庭も厚生労働省によりますと、この25年間で1.5倍に増えています。
つまり、子どもを歯科医院に連れて行くのに、頻繁に仕事を休むこともままならない家庭が、以前よりも増えているのです。」

小郷
「確かに小さいうちって、子どもは歯磨きを嫌がったりですとか、私も働いていると歯医者さんに連れて行く時間をつくると大変だなというのはすごく分かるんですけれども、できるかぎり親がしっかりする、見てあげるというのは大切だと思うんですが、家庭だけではなくって、社会も見守っていく、どうやって守っていくのかという仕組みも必要になってきているんですね。」

小林記者
「紹介した学校でのフッ素うがい、これは地域の大学や自治体が強い予防意識を持って学校現場に働きかけることで実現しました。

このほかにも、新潟県の小学校では、歯科医に連れて行く余裕がない家庭の子どもを養護教諭がまとめて集団受診させる取り組みを行っていた事例がありますし、福岡県久山町では、乳幼児検診の際にフッ素を無料で塗布する取り組みを行っています。
しかし、予算面や人材の捻出の問題があり、こうした取り組みはなかなか広がっていないのが現実です。
ただ、子どもの虫歯の問題、あるいは健康の問題というのは、子ども時代にとどまらず、生涯にわたってリスクを背負わせかねません。
社会全体で守っていくことが必要だという認識に立って、もう一歩踏み込んで議論する時期だと思います。」

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