リポート:横山真也カメラマン(沖縄局)
今月(8月)、ドローンで上空から撮影した石西礁湖です。
去年と比べると、サンゴ礁が広い範囲で黒く変色していました。
何が起きているのか。
変色している海域に潜りました。
「こちらをご覧ください。
灰色になったサンゴが海底を覆い、一部では崩れかけています。」
白化したサンゴの多くは、骨格だけを残し、死んでいました。
環境省が6月に行った調査では、海底が生きたサンゴに覆われている割合は12.5%。
去年の同じ時期より、サンゴは大きく減っていたのです。
辺りに魚たちの姿は少なく、海は静まりかえっていました。
さらに取材を進めると、上空から黒く見えた原因が分かってきました。
「こちらのサンゴ、表面を覆っているのは海藻です。
死んでしまったサンゴの表面にびっしりと生えています。」
サンゴには一面、カサモクという海藻が付着していたのです。
「シアノバクテリア」という微生物の塊が付着したサンゴも。
死んで折れてしまったサンゴを手に取ると、海藻でびっしりと覆われていました。
こうした付着物に覆われると、表面に新たに生まれたサンゴが定着できず、回復の妨げになると言われています。
専門家は、サンゴ礁は今、危機的な状況にあると言います。
沖縄県サンゴ礁保全推進協議会 中野義勝会長
「陸上でも乾燥が進んで、湖がかれて、砂漠が広がっていることが報道で出ている。
今、サンゴ礁もそれに匹敵するような危機の時代に突入しつつある。
白化の頻度・規模が大きくなるにしたがって、サンゴは確実に減っていく。」
サンゴの減少は、そこに生息する魚など、他の生き物にも影響を与えています。
地元の漁師
「毎年、魚の量、水揚げが減っていく。
イセエビ、ハタ、タイ、みんなサンゴ礁の魚。」
市場に並ぶ魚のほとんどは、サンゴ礁で育った魚たち。
地元の漁師によると、ここ数年、水揚げは減り続けているといいます。
こうした中、水産庁が中心となって、サンゴ礁を再生しようという取り組みが始まっています。
注目したのが、生き残ったサンゴ。
今年(2017年)5月に撮影した、産卵の瞬間です。
この卵を、できる限り無駄なく育てようというのです。
サンゴが放出した卵(らん)と精子は海面で受精して、赤ちゃんである「幼生」になります。
この幼生が海底にたどり着き、サンゴ礁を作ります。
しかし幼生は、他の生き物に食べられたり、海流に流されたりすることも多く、生き残るのは1%にも満たないと言われています。
そこで、サンゴの周りを囲いで覆い、その中で産卵させることで幼生を守ります。
さらに、幼生が根づくための専用のブロックを設置し、生存率を高めようというのです。
5月。
その実証実験が行われました。
囲いの設置を行ったのは、サンゴの減少に危機感を抱いた地元の漁師たちです。
囲いの底に生きたサンゴを入れ、この中で産卵するのを待ちます。
サンゴを囲いに入れた翌日、夜8時。
産卵が始まりました。
囲いの中で、サンゴはおよそ20万の卵を産み、その多くが幼生になったとみられます。
1週間後。
幼生はブロックに根づいているのでしょうか。
真ん中に見えるのが、サンゴです。
周囲に炭酸カルシウムの骨格がつくられ、しっかり根づいていることが分かります。
8割以上のブロックで確認されました。
「すごい、きれい。」
サンゴが根づいたブロックは、海に設置されました。
サンゴ礁の再生に大きな役割を担うと期待されています。
地元の漁師
「自分たちが育てたサンゴに魚が住みついて、これをまた我々が漁をしてとる。
今までにないような感動があるんじゃないかな。」
地元の漁師
「期待してますよ。
次世代の若者のためにも。」
一方、琉球大学などの研究チームの調査で、白化の被害を免れている特別な場所があることも分かってきました。
水深40メートルの深い海域。
太陽の光が届きにくいところです。
光合成が難しいため、サンゴはほとんど育たないと考えられてきました。
しかし、そこにはサンゴが一面に広がっていました。
弱い光の中でもサンゴが育っていたのです。
深い場所は水温が低く、白化を免れていました。
研究チームは、こうした深い場所のサンゴを他の場所でも増やせないか、調査を進めることにしています。
琉球大学 熱帯生物圏研究センター 波利井佐紀准教授
「白化のようなイベントが何回か続くと、他の幼生の供給源を探さないといけない。
深場がひとつの対象になるのではないか。」
危機にひんするサンゴを守る取り組み。
残された時間は多くありません。