これまでの放送

2017年8月23日(水)

瀬戸内フェリー名物おでん“最後の夏”

高瀬
「全国各地の夏の表情を見つめた『夏点描』です。」

和久田
「3回目の今日(23日)は、瀬戸内海の島々を結ぶフェリーの名物の話題です。
毎年、お盆の時期に飛ぶように売れるのが、こちら。
『おでん』なんです。
長年、親しまれてきましたが、実は来月(9月)で販売を終了することが決まっています。
最後の夏、名物のおでんをめぐる物語です。」

瀬戸内 フェリーで行列 アツアツの名物!

リポート:野村恵悟(松山局)

愛媛県松山市、瀬戸内海に浮かぶ忽那(くつな)諸島です。
3つの島と松山の港を結ぶ、このフェリー。
1日に5往復しています。
島に帰る人たちでにぎわうお盆。
帰省客が楽しみにしているのが、売店で売られている特製のおでんです。

厚揚げに、すじ肉、卵にこんにゃくなど、8種類。
値段は1つ90円~130円です。
真夏にかぶりつく、熱々のおでん。

「おいしい。」

「あついですね。」

「おでんを食べるのは苦ではないですか?」

「これが行事ですから。」

「フェリーのおでんを食べるのは、お墓参りのときの恒例行事。
習慣にしてきたわけですよ。」

45年間 守り続けた味

店を切り盛りする田村昭子(たむら・あきこ)さんです。
おでんを作り続けて45年になります。
お客の多くは顔なじみ。

田村昭子さん
「ひら天、好きやんなあ。
何枚くらい?」


「5枚くらい、いれといて。」

接客も心得たものです。

子ども
「どれがおいしいですか?」

田村昭子さん
「全部おいしいよ。」

田村昭子さん
「人と話すんがええ。
バタバタしよっても、会いにきて、もの言うてくれるやろ。
それがいい。」

今年(2017年)、田村さんは大きな決断をしました。
体力の衰えなどもあり、9月いっぱいで店をたたむことにしたのです。
田村さんがフェリーで働き始めたのは29歳のとき。
肌寒い船の上で温まってもらおうと売り出したおでんが、次第に人気になっていきます。
その間、進学や就職などで多くの人たちが島を離れていきました。
ふるさとに帰ってくる人たちに感謝の気持ちを伝えたい。
45年間、だしをつぎ足し、守り続けた味で迎えます。

田村昭子さん
「あの人ら帰ってくるかなと思って、乗っとるんよ。
お盆にはあの子ら帰ってくるかな。
お客さんがあったから、ここまでやれたんよ。
うれしいです、本当に。
ありがたいです。」

最後になった、夏のおでん。

「今年の夏で終わられるって聞いたんですけど。」

田村さんが店をたたむと知った人たちが、次々と声をかけてきます。

「寂しいわあ。」

勝田正征さん
「なんで、やめるの?」

そのひとり、勝田正征(かつた・まさゆき)さんです。
中学卒業以来、島を離れ松山市内で暮らしてきました。
おでんを食べるとよみがえるのは、中学生の頃の思い出。
映画を観たり、お祭りに参加したり、フェリーに乗るときはいつも、おでんが楽しみでした。

勝田正征さん
「中学校のといの思い出がすごいあって、そのときの仲のいい友だちとか、いつも思いだします。
(おでんを食べると)帰ってきたなって感じ。
ほかでは味わえない。
ほっとするのが一番。」

人々の心に刻まれる“ふるさとの味”

フェリーで中学生時代の思い出を話してくれた、勝田正征さんです。
この日、帰省してきた同級生が集まりました。
今はみな、島を離れています。
次第に話題は、おでんのことに。

「フェリーに乗ったときに、一番はおでん。」

「あの味が落ち着く。」

「年に2~3回しか食べんのよ。
でも食べると、この味、この味、みたいな。」

「その味を松山で求めようと思っても、ないんだよな。」

改めてかみしめる、「ふるさと」です。
お盆休みもまもなく終わり。
帰省客は、それぞれの生活に戻っていきます。

おでんを味わうことができるのは、あとわずか。
勝田さんと同級生たちも、島を離れます。
田村さんの手があいたときのことでした。

「40数年間お疲れ様でした。
本当に、よう頑張った。
本当にお疲れ様でした。
ありがとうございました。」

サプライズで、花束の贈呈。
勝田さんと同級生たちの感謝の気持ちです。

田村昭子さん
「もうこういうことはないわいね、長年こんなふうにしてきたけど。
寂しいは寂しいよ。
(おでんの味を)覚えとってほしい。
誰か覚えとってくれるやろう、覚えとってくれる。」

45年にわたり、愛されてきたおでん。
最後の夏、ふるさとの味が多くの人々の心に刻まれていきます。

名物おでん“最後の夏”

高瀬
「この放送を見て販売終了を知る人もいるかもしれませんね。
男性の方が、『墓参りの恒例行事なんです』とおっしゃってましたね。
ふるさとの味であると同時に、もう1つの『おふくろの味』なのかもしれませんよね。」

和久田
「このおでんは、お盆の時期、1日1,000個以上売れるそうです。
1番人気はたまごで、1日150個以上売れることもあるそうです。
田村さんは9月末まで、売店でおでんを売る予定です。
それまでの間、多くの人におでんを食べてもらいたいと話しています。」

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