これまでの放送

2017年8月21日(月)

ここで草を刈り続ける理由

高瀬
「ふるさとでの思い出や子どもたちの一夏の成長など、全国各地の夏の表情を切り取る『夏点描』。
今日(21日)から6回シリーズでお伝えします。」

 

和久田
「1回目の今日は、島根県の山あいにある小さな集落が舞台です。
高齢化と過疎化が進む中、炎天下、集落にはびこる雑草と戦い続ける男性がいます。」

過疎にあらがい続ける “草を刈る人”

リポート:寺田慎平(NHK松江)

灼熱の日差しの中、草を刈る人がいます。
有井昌晃(ありい・まさあき)さん、65歳です。
長い時は、1日およそ10時間。
すべて無償です。

島根県美郷町宮内地区。
およそ50世帯が暮らす、山あいの集落です。
住民のほとんどが高齢者。
年々、人口も減り続けています。
とってかわるように勢いを増すのが、夏の雑草です。

元気がなくなる集落の姿とは裏腹に、たくましく伸びていきます。
そんな雑草に立ち向かうように草を刈る、有井さん。
集落の人たちが声をかけます。
話題になるのは、集落の現状です。

有井昌晃さん
「寂しいよねえ、どうしても。」

「若い人がいない。」

有井昌晃さん
「どうしても、子どもは帰ってこない。」

そんな有井さんもまた、かつては集落を離れていました。
23歳の時、結婚し、3人の子どもをもうけた有井さん。
家族を養うため、1人広島で、バスの運転手として32年間働きました。

有井昌晃さん
「子どもを大きくするためには、(子どもを)学校行かせようと思ったら、広島のほうがどうしても。」

定年退職後、戻ってきた有井さんが目の当たりにしたのは、活気を無くした集落の姿でした。
なにか自分にできることはないか、始めたのが草刈りでした。

有井昌晃さん
「長いこと広島に出ていたから、草刈りしかできることがない。
お返しすることが、みなさんに。」

お盆の前“きれいにしてあげないと”

8月上旬、有井さんは1年で最も忙しい時期を迎えます。

有井昌晃さん
「お盆がくるからね。」

集落を離れた人たちのために、お墓の周りをきれいにするのです。

有井昌晃さん
「盆に帰ったときに墓がきれいだったらいいと思って、刈ってあげている。」

この日、有井さんは仲間に声をかけて、ある場所に向かいました。

結婚して集落を離れた女性が、毎年欠かさずお参りに来るお墓です。
高齢のため、草刈りまでは手が回らない、このお墓。
そんな女性のために、有井さんは丁寧に草を取り除きます。

有井昌晃さん
「先祖のことをよく言っていたから、“きれいにしてあげないと”と。」

およそ2時間後、お墓の周りはすっかり明るくなりました。

いつまでも 戻って来られるふるさとに

お盆を迎えた集落。
ふるさとに戻り、手を合わせる。

有井さんが時間をかけてきれいにしたお墓に、女性がやってきました。
大久保良子(おおくぼ・りょうこ)さん、75歳です。

大久保良子さん
「きれいにしてくださっている。」

今年(2017年)もバスを乗り継ぎ、3時間かけて広島からやってきました。
幼くして亡くなった兄弟、両親、祖父母、みんなここに眠っています。

有井昌晃さん
「姉さん、おかえり。」

大久保良子さん
「きれいにしてもらって申し訳ありません。」

有井さんが様子を見にやってきました。

有井昌晃さん
「すぐ草が伸びるから。」

大久保良子さん
「私もしないといけないのに、おたくらにしてもらって申し訳ありません。」

有井さんが手入れをしてくれたお墓。

大久保良子さん
「おじいちゃん、おばあちゃん、やっときました。
遅くなってすみません。
感謝の気持ちで墓参りしています。
先祖あっての私ですから。
挨拶が今年もできたかな。」

有井昌晃さん
「子どもにとってはふるさとだし、離れた人にもふるさとだし、何もしないと過疎になる。
小さな抵抗です。」

いつまでも、戻って来られるふるさとに。
あらがい続ける、有井さんの夏です。

高瀬
「ふるさとを離れた立場からしますと、何だかありがたいような、申し訳ないような、そんな気持ちになりました。」

和久田
「『姉さん、おかえり』と声をかけていましたけど、やっぱりふるさとを長い間離れていたからこそ、こうやって環境を整えて、気持ちよく迎え入れてもらううれしさを有井さん自身が一番分かっていらっしゃるのかなという気もしましたね。」 
 

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